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高熱の夜の本音

実は流行りにのってしまい、現在療養中である。熱は数日前に引いたけれど、数年ぶりの体調不良の症状に悩まされている。自宅療養明けまでまだかなりの日数があるが、身体の各所できたしている不調が完全に癒えるのか、今は正直いって不安。当たり前だがやはりこれはかからないに越したことがない。同じく感染症と戦っている人たちが、一日もはやく回復しますように。

初めて高熱を出した夜のこと。解熱剤が効くまでに時間がかかり、身体はしんどく、上手く眠れずにいた。ようやくうとうとしてきたところで、ある少女の名前の通知がiPhoneの上部を滑る夢を見て、私は目を覚ます。ここ数か月、何かあると私にSOSを出してくれた少女がいる。私の人生で出会った人たちの誰にも当てはまらない境遇をサバイブしている子だ。「お願い助けて」間接的な表現ではなく、いかに辛い状況にあるか、恐ろしい思いをしているか、彼女はストレートに訴えかけてきた。私はいつもびっくりして、すぐ何かしてあげたくて、同時に非常に緊張した。

大げさなヘルプだったらよかった。けれど、大体の場合、彼女は本当に切羽詰まった段階にいた。応えて、答えて、慰めて、悩んで、呼んで、伝えて、繋いで。そういうことを何度も何度も、手を震わせながらした。

状況はなかなか変わらなくて、彼女は苦しいままだった。私も悲しかった。けれど責任を感じたり罪悪感を持ったりするのは何か違うと思っていた。この子をひとりにしたくないという強い気持ちと一緒に、LINEの通知を開くのが怖くなっている自分も自覚した。綯い交ぜの感情を抱えきれなくなる日はそう遠くない気がした。そんなときに、罹患した。

高熱にうなされているときに見たスマホの画面はやけにリアルだった。次の瞬間にはより具体的な文章や写真が届くことを予感して、私は夢から覚めるのだった。あぁ、あの子が苦しむ現実がまた目の前に届く。苦痛のお裾分けを受け取ることに、私は多分、怯えているのだ。

常夜灯のついた部屋、38.7℃でほどけた心がのぞむままに、私は声を上げて泣いてしまった。辛いのは絶対私じゃないのに、受け止めることすら心許なくて本当にごめんねと思った。助けてあげられるなんてそんな偉そうなことは全く思っていないつもりだった。でも、あまりにも無力で、却って傷つけてしまうこともあって、中途半端な寄り添いしかできなかったことを心の底から辛く思った。大事に思ってるんだよ、そこに嘘は全くなかったよ。何の救いにもならないかもしれないけれど、それだけは伝わっていてほしいと、勝手だけれど思っている。幸せって遠いね、でも一緒に食べたアイスはおいしかったよね。過ごした時間を思い出してわんわん泣いた。

ドラマでも映画でもないので、浸る余韻もない。少女との関係も続く。泣き止む頃に届いた彼女からのLINEは穏やかなものだった。自分にできることをしようといつも思うけれど、できないことからも目を逸らさずにいようと誓う。背負うのではなくて見つめる。私は無力、だからこそ傲らずに済むのだと。ぺかぺかな頬のまま、彼女に返信する。療養明けたら会おうね、待っててね、私も待ってるよ。


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