【密着ドキュメンタリー】マーケターの1日・大手食品メーカー編
”マーケター”
マーケターによる某遊園地のV字回復、スキルを身に着けたいという需要などに伴い、近年「マーケター」という職種を目指す就活生は多い。
Googleトレンドで「マーケター」について検索してみると、2016年ごろから「マーケター」の検索割合が右肩上がりだ。
一方で、「マーケター」として働くとはどういうことなのか?どんな仕事をするのか?
「警察官」なら、犯人を捕まえて、人を助ける仕事。
「教師」なら、生徒に自分の科目の授業をする仕事。
「美容師」なら、髪を切る仕事。
これらの仕事は身近にあるからすぐに仕事内容が想像できる。
しかし、「マーケター」はあまり身近ではないからこそ、想像するのが難しい。
そこで、「マーケターに興味はあるけど、どんな仕事をするのか分からない」という就活生のために、3人の現役マーケターに話を伺った。
本記事は、その3本立てシリーズの1本目。
大手食品メーカーでマーケターとして働く1年目の方に本音で話を伺った。
色々な企業が「本音で語る」という記事を出しているが、名前や顔、企業名を出している時点で、完全に本音で話すことは不可能ということを私たちは知っている。
本記事では、マーケターの方に”本当の”本音の話を聞き出したいとの想いから、マーケターの名前や顔、企業名を全て伏せさせてもらっている。
プロフィール紹介と就活時代
高校時代から抱き始めたマーケティングに対する加藤の興味は、文化祭でのフランクフルト販売の運営経験や、大学のオープンキャンパスを訪れた際の刺激から生まれた。大学進学後は商学部に所属し、専攻としてマーケティングの学びを深めていった。
加藤には特別な「武器」がある。それは「食」に対する独自の視点。ゴマアレルギーを持つことから、食に対する意識や感受性が非常に高くなっており、その経験がマーケティングのフィールドでの強みとなっている。
加藤は、「マーケティングを通じて社会をより良くすることができる」という信念を持っている。また、「1からマーケティングに関わりたい」との思いから、事業会社(メーカー)を志望。その結果、大手食品メーカーに入社することとなり、現在はその企業の通販(EC)のデジタルマーケティング(※)を行う部署で1年目として働いている。
加藤の企業では、毎年20人前後の新卒が事務職として採用される。
そのうち、マーケティング担当はわずか2人。ほとんどが営業に回されるのが通例だ。そもそも、日本の大手食品企業では、新卒からマーケティングができる企業は少ない。
今回話を伺ったのはかなりレアな人物といえよう。
1日の流れ
加藤の月曜日の1日は5:30に始まり、早朝からメルマガの数値分析を開始。こんな早朝にする必要はないのだが、午前中にあるチーム会議でいち早く報告するためだ。8:30には出勤し、その日は週次会議やチーム会議と、充実した1日が待っている。
加藤の働く企業では、他社にコールセンター業務を委託しているため、コールセンターのスタッフ向けに新商品の商品説明会がある。彼も、健康食品(サプリや粉ミルク、栄養ドリンクなど)に関する新商品の知識をつけるため、今日この説明会に参加した。
ママさんマーケターの多いチームの中で働く
加藤の所属するマーケティングチームの人数は、社内全体のマーケター100人のうち9人。その中で6人は、効率の良さや顧客の気持ちを的確に捉えて言語化する力を持ったママさんたち。さらに、細分化された4人チームも存在し、そのうち自分以外の2人が共にママさんである。
働き方は「フレックス」、1週間のうちに決められた最低労働時間さえ働いていれば、何時に出社しても、何時に退勤しても良い。ママさんにとっては働きやすい環境だ。
しかし、それゆえに、徹底的に「効率」が重視される。
何年もマーケティングの経験を積んできた先輩マーケターに1年目がついていくのは大変だそうだ。
マーケティングは「ひらめきのセンター試験」
企業文化として残業を避ける風潮がある。一般的には良いこととされるが、加藤はアイデアを考えるというマーケティングの性質上、もう少し時間をかけたいと感じている。しかし、以前の月に15時間の残業をしたことで、上司から注意を受けた経験がある。
加藤はマーケティングを「ひらめきのセンター試験」と例えた。常に繫忙期の飲食店のような忙しさで、ひらめいたら答えてを繰り返す業務だという。今は少し慣れたそうだが、入社当初はとくに大変だったという。なるほど、確かにマーケティングになれていない1年目マーケターが残業をしたくなる気持ちも分かる。
しかし、加藤の場合、大学でマーケティングを学んでいる。学生時代に学んだマーケティングを使えないものか。彼によると、大学で学んだことは活かせてはいるが、本当にちょびっとで、まだまだ分からないことだらけだという。
大学で学んできたことはあくまで学問で、実践は知らないことばかり。逆に言うと、大学でマーケティングを学んでいなくても大丈夫なようだ。
加藤には、同じ大学・学部を卒業して、現在新卒1年目として某遊園地でマーケティングの仕事をしている友人がいる。その友人の話を聞いても、やはりマーケター1年目は大変で、心が折れたりもするようだ。
社会人のマーケティングには「明確なバツ」が存在する
加藤は続ける。
大学時代は明確な「×」が存在しない。マーケティングのコンペなどで発表しても「もうちょっとこうしたほうがいい」と言われることがあっても、「×」をつけられることはない。
しかし、社会人のマーケティングには、明確な「×」が存在するという。どれだけアイデアを練ってきても、上司やチームに「売れる」と納得させ、共感してもらえなければ、お金を出してもらえず、施策を実行することができないのだ。
マーケターに必要なコミュニケーションは「ロジック」
加藤はさらに続ける。
マーケティングの仕事で大変な点はまだある。それはコミュニケーションをとる人の数の多さだ。事業会社のマーケターは、商品開発から販促まで広く携わる。ゆえに、研究開発や営業など数多くの社内の人とのコミュニケーションが欠かせない。しかも、そういった立場の違う人をポジティブに動かす必要がある。そのため、コミュニケーションの中では確かなロジックが必要となる。
あえて、1年目のマーケター目線で、営業とマーケターのコミュニケーションの違いを語ってもらうと、ロジックとパッションの違いだという。もちろん、どちらもロジックは必要だが、営業は目の前の相手の心を動かすためのパッション(強い想い)がより必要になってくる。一方、マーケターは色々な立場の多くの人を動かすための「共通言語」となるロジックが必要となる。
社内でのマーケターの立場
「営業はお金を稼いできて、マーケティングはお金を使う。ゆえに、営業のほうが社内の立場が上になる」
就活時代、この言葉をよく聞いていたのだが、実際はどうなのか。
企業にもよるが、加藤の企業ではやはり、マーケターよりも営業のほうが社内での立場が上のようだ。
さらに言うと、社内で1番立場が上なのが、研究開発だそうだ。
それは、加藤の企業の歴史に深く関わっている。彼の企業では昔、衛生に関する大きな事件を起こしたことがある。それからというもの、品質管理には異常なほど徹底している。実際、研究開発がマーケターによる新商品の企画にNGを出す例もあるという。
加藤は現在EC(Eコマースの略)部署に携わっているので、営業と関わることがない。しかし、営業と一緒に出席する社内ミーティングで、先輩マーケターと営業担当者のやり取りを見聞きしていて、社内の立場の違いを感じるという。
加藤は、営業とマーケター間で立場の大きさの違いが発生する理由を2つ挙げた。
1つ目は、数の違い。社内全体で数千人いる従業員のうち、マーケターはわずか100人程度。多くが営業だ。
2つ目は、性格の違い。営業担当者はパッションの強い人が多い一方、マーケターには物腰の柔らかい人が多いそうだ。それゆえ、どうしても営業のほうが立場が大きく映るらしい。
1年目のマーケティングの学び方
今業務で行っているメールマーケティングは、彼にとって新しい分野。競合他社のメール観察や書籍での勉強、メンターやOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニングの略)からのアドバイスを通して学ぶ。その中でも、メンターやOJTからのアドバイスが最も有効であると感じている。
メンターからは全体の業務を教えてもらい、OJTからは日々の仕事の中でのサポートを提供してもらう。なんと彼のメンターは15歳年上、OJTは20歳年上だそうだ...そんな先輩たちから厳しいフィードバックをもらってボコボコにされながらも日々戦っている。
1年目のマーケターの裁量権
現在加藤が所属している部署は、数年前にできたばかりの新しい部署。チームもわずか4人。それゆえ、裁量権は確実にある、と彼は言う。
もともと、マーケティング職自体、裁量権がある仕事だと加藤は考えていたが、それ以上だった。というのも、メルマガ作成やはがきの作成、インタビューなど制作に関わることは既に一任されている。
一方で、お金を使う仕事であり、チームの協力も必須の仕事でもあるので、チームや上司を説得することが必要となる。今までこの説得については、すんなりといったことはないという。
事業会社と広告代理店のマーケターの違い
事業会社のマーケターの加藤から見ると、代理店のマーケターはマーケティングに関するノウハウや他社のマーケティング事例に詳しいと感じている。実際、加藤の会社では、他社事例を聞くために、代理店やコンサル会社を使っている。
一方、自身はブランディングに力をいれているという。研究者の想いなどをつぶさに見ていき、「このブランドは将来的にどうあるべきか」という点に注力する。しかし、この商品の価値(マーケティング用語でいうと、whatの部分)を見つけ出すノウハウを熟知しているのは、代理店のほうだという。代理店は色んな会社を見ているからこそ、どこがその会社の真の価値(=what)なのかを見る力があると感じるのだそうだ。
例えば、スターバックスのwhatを代理店と一緒に考える場面を想定する、と彼は続ける。
スターバックスといえば、「美味しいコーヒー」や「フラペチーノ」などが出てくると思う。
そこで、代理店は「そのコーヒーやフラペチーノを飲んでお客さんはどう感じる?」と問いかける。
すると「コーヒーだけだったらセブンイレブンと差別化できない。だから、場所というサードプレイスをwhatとして据えよう」のような感じで、代理店は事業会社のwhatを導くのがうまいという。
もちろん、この違いは事業会社にもよるから一概にはいえない。いかにその事業会社がwhatのことやお客さんのことを考えることができているのかにもよるのだ。
これからの夢
「マーケティングを活かして経営者になりたい」
決意に満ちた表情で加藤は語った。
彼の実家は中小規模の繊維業を営んでいる。
彼は将来、その家業を継ぐ、もしくはそれ以外の方法で経営者になる。
そして、今行っているマーケティングを活かして、1人でも多くの人に商品を届けたい。
この夢は、「マーケティングを通じて社会をより良くすることができる」という彼の信念からきているのだろう。彼は明日もデジタルマーケティングの現場で、課題に向き合っていく。真摯に努力する彼の姿勢からは、若手マーケターとしての輝きと同時に、現場で活躍することの苦労の両方が感じられた。この苦労の先に、彼のマーケターとしての成長があるのであろう。
就活生に向けて
新卒でマーケティング職はおすすめか?
「マーケティングをしたい」という強い想いがあればやるべきで、「安定」を求めて選択するべきではない、という。
マーケティングをしていると、自分のふがいなさを感じるときや、モノが売れない状況に直面する。さらに、司令塔の役割を担ったり、求められるスキルが多く、しんどくなる時も多い。この辛い状況に打ち勝てる強い想いが必要だ。
企業をどう選ぶべきか?
大きく分けて2つのステップがあるという。
まず、「どの切り口で企業を切っていくのか?」を考え、その自分の切り口で企業を見ていく。次に、「自分が社会に対して何をしたいのか」を考え、どの企業を受けるのかを決定する。
実はこれ、マーケティング手法でもある。
1つ目の、自分の切り口を決める段階。これはマーケティング用語で「セグメンテーション」という。2つ目の、どの企業を受けるのかを決定する段階。これはマーケティング用語で「ターゲティング」という。
このように、就活はマーケティングだ、と彼は言う。
そのうえで、最後は運だと続ける。入社後は自分でその選択を成功にするものだそうだ。
さいごに
本記事を読んで、就職先・転職先としてマーケティング職に興味がわいた人もいるかもしれない。現場の実態を知ってイメージと違うと感じた人もいるかもしれない。これは、あくまでも一人のマーケターの例であるが、嘘のないリアルでもある。ぜひこの記事を通じて、マーケティング職やマーケティングとは何か、について考えるきっかけになれば幸いだ。
もっとマーケティングのことが知りたい、マーケターやコンテンツクリエイターの現場を詳しく知りたいといった方におすすめなのが、12月4日から12月10日まで開催される「CONTENT MARKETING DAY2023」だ。
「CONTENT MARKETING DAY2023」は、コンテンツ企画制作者やマーケティング担当者のコミュニティイベントとして、業界最大規模のオンラインイベント。
ここでは、すでに様々な業界で活躍しているマーケターの話が期間中ならいつでも聞くことができる。いくつか挙げてみると、
さらに、マーケティングに興味のある学生に向けたコンテンツも充実している。これもいくつか挙げてみると、
効率的に多くのマーケターの話が聞けるチャンスだ。
企業選びにおける自分の切り口を見つけよう。
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