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2018年12月の記事一覧

伊吹有喜(2018)『今はちょっと、ついてないだけ』光文社文庫



再起の物語。うまくいかない時が誰にでもあって、それでも時が経てば状況は好転するもので、その繰り返しなのだから長い目で生きていれば人生いくぶん楽なんだよって感じ。あんまり楽しくはない。

手に職を持つ人を持つ人が活躍する本作だが、日常に目を移した場合、その「手に職」というのは果たしてどれくらいの人が持っているのだろう。そんなに分かりやすいスキルではなくても、誰にも何かはあると、思えるといいな。

畑野智美(2015)『海の見える街』講談社文庫



真っすぐに生きようとする人が、真っすぐに生きているようには見做されない世界が広がっていて、それでも誰にでも運命の人はいるんだなって勇気をもらえるような作品。この暖かさは母なる海の温もりかな。

一人ひとりが抱える「過去」というものが、自然と付き合い方の濃淡を決めているのだろうけど、それが私たちには見えなくて、なんでこんな目隠しゲームなのと思わずにはいられない、けれど何も悪くはないんですよね。

椰月美智子(2017)『消えてなくなっても』角川文庫



不思議と親しみを覚えるような人って、なんなのだろう。運命とか、偶然にも巡りあったとか、そういった嬉しい奇跡みたいなことがたくさん起きたらいいのになと思わせる一冊。

憑き物が落ちたみたいにとか昔から言うけれど、そんなふうに人間って変わりうるし、良いことがあっても悪いことがあっても、すぐそこに死があって、それで生にも気付くことが出来る。そんなきっかけになるかもしれない。