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社員戦隊ホウセキV/第5話;イマージュエルの戦士

前回


 十縷が寿得神社に説明を受けていた頃、別の人たちも寿得神社を目指して移動していた。四人だった。

 先頭を行くのは、それなりに長身で切れ長の目をした男性。井出達は黒スーツに白いシャツを纏い、青のネクタイというもの。彼は北野きたの時雨しぐれ。新杜宝飾の入社案内で運動部の頁に載っていた、剣道部に籍を置く営業部の社員だ。
 その後ろには、二人の男女が歩く。
 女性は比較的小柄で、髪型はショートボブ。顎のラインが華奢で童顔な印象。黒いスーツはボトムがスラックスで、カッターシャツは淡い緑という服装。彼女は、十縷が好きな短距離走の選手であり、昨日、十縷と対面した経理部の社員、神明しんめい光里ひかりだ。
 光里の隣の男性は時雨より長身で、180 cmはありそうだ。肩幅は思ったより広くないが、顔は強面。髪型はスポーツ刈りで黒縁の分厚い眼鏡を掛けていた。服装は、黒スーツに白いシャツ、黄のネクタイという構成。彼は伊勢いせ和都かずと。十縷と同じデザイン制作部で働くジュエリーデザイナーだ。
 殿しんがりを歩くのは、割と長身の女性。流れるような長い黒髪に、柔和な顔だち。スーツは他3人と同じで黒だが、胸元がひらひらした薄いピンクのブラウスや、ボトムのタイトスカートが特徴的。彼女は、産業医の祐徳ゆうとく伊禰いねだ。

 どういう訳か、この四人も寿得神社を目指して歩いていた。


   その寿得神社の離れでは、十縷とマ・カ・リヨモの対談が続く。

社員シャイン戦隊って、対ニクシム特殊部隊ですか? ジュエランドも、会社で戦ってたんですね」

 先にマ・カ・リヨモが言ったシャイン戦隊という単語を受けて、十縷はそんなズレたこと質問をした。思わず愛作は訂正しようとしたが、マ・カ・リヨモがそれより先に答えた。

「そうですね。王家と近衛兵の関係は、貴方たち社員と愛作さんの関係と似ています」

 と、互いに勘違いをして話が通じていた。だから、愛作も口を閉じた。

 そんな風に喋っていた時、ふと愛作が右手の中指に装着している指環が、橙色の宝石部分から眩い光を放った。それは十縷もはっきりと確認した。愛作が光る指輪に喋り始めるのも。

「おっ、北野か。今、離れに居る。姫もご一緒だ。早く来てくれ」

 すぐに話は終わったらしい。多分、この指環には通信機能があるのだろうか? 十縷はそんな風に思っていると、愛作が解説をしてくれた。

「姫のお話の通り、俺たちも想造力は持っている。だからイマージュエルと交信はできる。でも、引き出せる力はこの程度。電話代わりが関の山だ」

 取り敢えず十縷はうんうんと頷いた。このやり取りから程なくして、「ごめんください」という声と共に離れの戸を叩く音が聞こえた。するとマ・カ・リヨモが「お入りください」と言い、戸を叩いた者たちはぞろぞろとその中に入ってきた。愛作は立ち上がって縁側の方に向かい、入ってきた者たちを出迎えた。

「忙しいところ、足を運んでくれてありがとうな。北野、祐徳、伊勢、神明」

 入ってきた者たちは四人。十縷は彼らの顔を確認し、更に新杜が言った名前も聞き取り、堪らず目を見開いて感嘆した。

「おおーっ! まさか、光里ちゃんや女医さんが社員戦隊だったなんて!」

 彼が反応したのは、女性二人。うち一人は前から大好きな神明光里で、もう一人は先の入社式でお目見えした産業医の祐徳伊禰だった。それぞれ【可愛い】、【綺麗】と認めた女性が現れたので、興奮して十縷は彼らの下に駆け寄った。

「あらあら、元気の良い子ですわね。私のことも、憶えていらしゃったんですね」

 十縷が駆け寄ってくると、伊禰の方は笑顔でそう答えた。対して光里の方は、反射的に伊禰の後ろに回り、自分より10 cm以上背の高い彼女の陰に隠れようとしていた。光里の行動に無頓着なのか、十縷は依然として興奮していた。そんな十縷に、男性陣が口を出してきた。

「熱田だったか? ちょっと抑えろ。引いてるの、判んねえのか?」

 靴を脱いで縁側に上がりながら、男性のうち長身の方が十縷にそう言った。彼のネクタイは黄。黒縁の分厚い眼鏡を掛けていて、腕時計を右手に付けている。十縷は彼に見憶えがあった。

「あぁーっ! 伊勢和都先輩! 貴方も社員戦隊だったんですね! 大学も配属も同じで、まさか同じ社員戦隊だったなんて。奇遇ですね」

 ようやく彼の存在に気付いた十縷。ようやく挨拶した。対する和都は相変わらず不愛想で、「宜しくな」と返しただけだった。だが、この対応はまだマシだった。

「熱田十縷と言ったか? いきなり光里ちゃんはないぞ。多分、オリンピックとかでお前は以前から神明を知っていたんだろうが、神明の方はお前と初対面だ。ちゃんと考えろ」

 和都でない方の男性は、玄関に上がりつつ十縷の行動を指摘してきた。青のネクタイを巻いた彼の背は和都より少し低いが十縷よりは高い。十縷は彼の顔を見上げて「すいません」と呟きつつも、彼の顔も記憶に新しいものだった。

「北野時雨さん! 剣道部の!?」

 十縷は視覚情報に強く、入社案内の見開きを脳内で再現できた。そして、右側の頁を飾っていた北野時雨が目の前にいることを確認した。十縷に騒がれても、時雨は殆ど動じていなかった。

 男性陣が話している間に、伊禰と光里も玄関に上がった。すれ違い様、光里は時雨に「隊長、ありがとうございます」と言っていた。因みに伊禰は女性としては長身で、十縷より少し低い程度だった。


     かくして一同はちゃぶ台を囲み、座談会のような形で顔を合わせた。途中から入ってきた四人を、愛作は改めて十縷に紹介するべく語り出した。

「何人かはもう会ってるみたいだが、ちゃんと紹介しておくな。彼らは君の大先輩。対ニクシム特殊部隊として去年から戦っている、イマージュエルの戦士たちだ」

 まず紹介されたのは、光里に【隊長】と呼ばれた北野時雨。
 営業部第一課の社員で剣道部にも所属している。この部隊の隊長だ。剣技にも射撃にも長けていると、愛作は話していた。

「と言う訳だ。俺は青のイマージュエルの戦士。作戦中はブルーと呼んでくれ」

 時雨は腕時計を付けた左手を胸元に翳した。すると、銀色の少し高そうなだけだったその腕時計は急にその形が揺らぎ、大きな青い宝石をあしらった腕輪に変形した。十縷が与えられたものと同型のホウセキブレスに。これを見て、十縷は息を呑むと共に確信した。

(やっぱり、イマージュエルの戦士だ。この人が、サファイアの人だな)

 十縷がそんなことを思っていると、次に愛作は伊禰の紹介を始めた。彼女が産業医だという情報に加えて、副隊長であることと拳法が得意という情報が追加された。

「ご紹介にお預かりしました、祐徳伊禰です。私は紫のイマージュエルに選ばれましたの。コードネームはマゼンタですわ。パープルとか仰らないでくださいね」

 伊禰も時雨と同様に腕時計をつけた左手を胸元に翳し、茶色の革製ベルトをつけたアナログ時計を、ホウセキブレスに変形させた。
 伊禰は【紫のイマージュエル】と言ったものの、十縷は裏山で見たイマージュエルをピンクと認識していた。伊禰のブレスの宝石もそれと同じく、紫と言うよりもピンクに近かった。

 十縷は思った。

(この人はマラヤガーネットの人か。だからマゼンタね。いや、紫と思う人は少ないよ)

 そしてその次に、新杜は和都を紹介した。彼は普段の職場でも世話になる先輩で、見た通りの怪力の持ち主で頼れる存在だと愛作は話した。

「改めて、宜しくな。俺のイマージュエルは黄だから、作戦中はイエローだ」

 時雨や伊禰と同じ動作で、和都も右手に付けた腕時計をホウセキブレスに変形させた。彼の言った通り、宝石は黄色だったが、それ以上に十縷には気になったことがあった。

(トパーズか……。ところで、この人だけ左利きでデジタル時計なのか)

 腕時計の状態では、ブレスがゴム製ベルトのデジタル時計だったことが、十縷には何故か印象的だった。

 最後に光里が紹介された。と言っても、愛作は「ファンなんだっけ? お前の方が詳しそうだな」と言っただけで、余り情報提供はしなかった。

「どうも、経理部の神明光里です。昨日もお会いしましたね。私のイマージュエルは緑だから、ミッション中の名前はグリーンです」

 呟くような口調の光里は、左手の腕時計をホウセキブレスに変形させて緑の宝石を見せた。それを見た十縷は、「光里ちゃんはが翡翠なのか」と心の中で言った。


 かくして自己紹介も終わった。十縷はいろいろな情報を与えられたが、全て消化できた筈が無い。そんな彼に対して、愛作や時雨たちは更に情報を提供する雰囲気はあった。だが、その雰囲気は一瞬で崩された。

「うわっ! 社長の指環が光った!」

 十縷は思わず叫んだ。愛作の指環の宝石が、いきなり橙色の光を放ったからだ。まるで警告灯のように。
 その光を見た時雨たちの顔は引き締まり、それまで静かだったマ・カ・リヨモは耳鳴りのような音を体から発した。そんな中、愛作は言った。

「ニクシムが現れた。どうやら、自己紹介はここまでみたいだな」

 この台詞は、十縷が予想した通りだった。この言葉を受けて、時雨たち四人は立ち上がる。しかし、すぐには発たなかった。

「彼はどうしますか? 戦闘に参加させる訳にはいきませんが……」

 時雨の言った通り、問題は十縷の扱い方だ。愛作は眉間に皺を寄せたが、数秒で答えた。

「連れて行ってくれ。戦わせたら駄目だが、近くで戦いを見て貰おう。それが一番の研修になるしな」

 爽やかに愛作はそう言った。この回答に時雨は、二つ返事で「畏まりました」と返した。この展開に、十縷は震撼した。

(え!? 僕も行くの!? ちょっと待ってよ……。殺されない? 大丈夫!?)

 たった今、いきなり戦士だとか言われたが、まだその自覚は無く自意識としては一般人の十縷。怪物が暴れている現場に向かうなど、恐怖に他ならなかった。しかし、周囲はそんな彼の気持ちをそこまで酌んでくれないらしい。

「と言う訳だ。行くぞ」

 座ったまま目を丸くしている十縷の腕を和都が掴み、そのまま立たせた。見た目通り和都の力は強く、十縷は為されるがままに立つしかなかった。かくして十縷を交えた五人は立ち上がり、玄関で再び靴を履く。十縷以外の四人はそれから新杜とマ・カ・リヨモのいる居間の方を振り返り、二人に熱い視線を送る。十縷も流れで従い、同じ行動を取る。愛作とマ・カ・リヨモも、彼らに熱い視線を送っていた。

「宝暦八年四月一日、午後五時二十七分。対ニクシム特殊部隊、出動!」

 長い玄関に並んだ五人に、愛作は勇ましく唱えた。これに対し、十縷以外の四人は「了解」と冷静な声を返す。十縷も少し遅れて、小声で了解と言った。

 おそらく定例だろうやり取りを経た後に、十縷を加えた五人は離れの外へと駆け出す。と言っても、十縷は逆らえなくてに彼らに続いているだけだ。

(どうすんの? どうなるの? 大丈夫なの?)

 先輩四人に続いて杜の中を走る十縷は、もう気が動転していた。光里が彼らに合わせて、遅めに走っていることにも気付かない程度に。


次回へ続く!


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