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社員戦隊ホウセキV/第4話;イマージュエルと異星の姫

前回


 十縷が社長室に呼び出され、社長の新杜愛作に変なブレスレットを着けさせられ、そのまま本社の近くにある寿得神社へと連れて行かれた。

 社長室を出て数分後には、愛作と十縷は寿得神社の境内に着いていた。大きな本殿を通過し、その裏にある古墳のような小山の前まで来た。

(この古墳の中に入るの?)

 今朝、寿得神社に来たばかりなので、この古墳は十縷の記憶にも新しかった。
 古墳の出入り口と思しき長方形の穴には注連縄が張ってある。今朝の十縷は中への進入を断念したが、愛作は慣れた様子でその縄を潜り、躊躇なく中に進入した。

(良いの? 社長が入ったから、良いんだよね?)

 十縷は抵抗を覚えつつも、愛作に続いて穴の中に足を踏み入れた。穴の中は暗く、愛作がいつの間にか手にしていた懐中電灯が唯一の光源だった。
 十縷は慎重に足を運ぶ。愛作はそれとは対照的で、十縷に話し掛ける余裕まであった。

「去年から出てきた変な怪物、知ってるよな? それと戦ってるジュエルメンみたいな奴らも」

 十縷は慎重に進みながら、愛作の話に「はい」と返す。すると、愛作は言った。

「あのジュエルメンみたいな奴らがウチの社員だって噂が流れてるみたいだが、それは本当だ。そして、君はその五人目のメンバーに選ばれたんだ」

 そして、愛作は足を止めた。ついて行くので精一杯だった十縷は、はじめは「ふーん」と聞き流していたものの、愛作に続いて足を止めた時、その言葉に震撼した。

「は!? ピカピカ軍団って、本当に新杜宝飾だったんですか!? で、僕が五人目のメンバー!? 何を言ってるんですか!?」

 愛作の言葉を脳内で反復した十縷は驚愕した。そんな彼を他所に愛作は何かを呟いた。すると彼らの足元から光が仄かに湧き上がり始めた。

(寿得神社って、ジュエル神社? 凄い宝石……)

 光源となったのは、足元に静置されていた橙色の宝石だった。その宝石が光を灯した時、十縷は眼前の光景にただ圧倒された。彼らが居たのは広い空洞で、そこには巨大な宝石が七つ立ち並んでいた。光を放っている橙色のものが最も小さいが、それでも長径1 mはありそうだ。それ以外は全て人間より大きく、見上げるばかりの巨大さだ。

(ルビー……。ピジョンブラッドだな)

 最も十縷の目を惹いたのは、一番大きな赤い宝石。形状は、底面が正方形の直方体だ。その高さは、十縷の身長の四倍近くあった。この宝石を見ていると引き込まれるような、安心するような、何とも不思議な感覚を十縷は覚えた。

(サファイアにトパーズ……。翡翠にマラヤガーネット……)

 他の宝石が目に入ると、同じようにその名前が頭に浮かんでくる。青、黄、緑、ピンクの宝石は、赤の宝石と相似形で綺麗な直方体だ。青と黄は赤よりも一回り小さく、緑とピンクは更にそれよりも一回り小さい。それでも、高さは十縷の身長の三倍以上はあった。

(この宝石は壊れたのか? なんか、痛そうだ……)

 その傍らにあった六角柱のような無色透明の宝石を見た時、十縷は同情に似た感覚に襲われた。この宝石には各部に皹が入っていて、今にも砕けそうだ。よく見ると、その足元には破片と思しき無色透明の石の欠片が散乱していた。

「怪物たちの名前は【ニクシム】。そして、君の言うピカピカ軍団は【対ニクシム特殊部隊】だ。そして、これらの宝石は対ニクシム特殊部隊に力を与える【イマージュエル】。強い【想造力そうぞうりょく】を持った人物を適合者として選び、力を与える。君に渡した腕輪は【ホウセキブレス】と言って、イマージュエルの力を受け取る為の道具だ。ホウセキブレスは適合者の手に渡ると、イマージュエルの色に染まる。君が腕に付けた途端、石はルビーみたいに赤くなっただろ。つまり、君は赤のイマージュエルの適合者だったんだ」

 豪華絢爛極まりない宝石の前で、愛作はこれらの宝石や十縷に与えた腕輪の説明をしたが、浮世離れしている上に専門用語が多過ぎて、十縷は全くついて行けず、それは表情にも表れていた。愛作もこの反応を想定していたようだ。

「と、言われても訳が解らんよな。少しずつ解って貰えばいい」

 愛作は笑いながらそう言うと、十縷にこの場からの退出を促した。かくして二人は元来た道を戻り、イマージュエルという大きな宝石と別れた。


 そして二人は本殿からどんどん離れて、そのまま杜の中へと進んだ。何処へ行くのかは不明だが、その道筋に愛作は先の説明の続きを話した。

 その話によると、イマージュエルという巨大な宝石は、【ジュエランド】という異星から送られてきたものらしい。ジュエランドは地球から何光年も離れた所にある惑星だが、そこの星人はイマージュエルの力で瞬間移動をして、縄文時代くらいから地球……と言うか日本を訪れて、宝石や金属の加工技術などの技術を紹介し合い、文化交流をしていたとのことだ。
    新杜家は、ジュエランド人と古くから交流していた者たちの末裔で、最近までジュエランドと新杜家の交流は続いていたらしい。因みに本殿の裏山の中に静置されていたイマージュエルだが、最も小さな橙色のものは奈良時代頃にジュエランドから寄贈されたもので、新杜家の者はこの石と指環で交信できるとのこと。その他の石は、去年にジュエランドから送られてきたそうだ。

(僕は、その遠くの星から送られてきた不思議な宝石に選ばれた? 僕みたいなモヤシ男が?)

 話を聞いて、十縷はそんな感想を抱いた。

 自分でも思った通り、十縷は余り優れた人物ではない。生まれてこの方、優等生と言われた試しはない。絵や工作が好きで中学までは上手い方だと思っていたが、高校で美術科に進んだら自分の技術が並みだと思い知らされ、その後に進学した芸大でもその状況は変わらなかった。ついでに大の女好きだが女性にはもてず、愚かな想像ばかりしている。
 本当に、お世辞にも特に秀でた点は無い。そう自覚していたから、「選ばれた戦士だ」と言われても納得はできなかった。


 そうこうしていると、二人は目的地に着いたらしい。立ち止まった二人の前には、杜の中にポツンと佇む一軒の家屋があった。漆喰の壁が厚い蔵といった外観だ。愛作はこの建物を離れだと説明し、木の引き戸を開けつつ足を中に踏み入れた。

「姫、お邪魔致します。赤のイマージュエルの戦士を連れて参りました」

 この建物の中に誰かいるのか、中に入るや愛作はそう言った。十縷も「お邪魔します」と呟きながら、その後ろに続く。
 二人は靴を脱ぎ、縁側のように長い玄関に上がった。そしてそれと同じタイミングで、玄関の真上に備わった木製の階段から誰かが降りて来る足音がした。程なくして、縁側のような玄関で彼らは対面を果たした。

「貴方が赤のイマージュエルの戦士ですね。ずっとお待ちしておりました」

 二階から降りてきた人物は、十縷と対面するやそう言った。声色は女性か? それにしても抑揚のない、音の羅列のような喋り方をしていた。言葉に感情が籠っていない代わりに、鈴が鳴るような音と、耳鳴りのような甲高い音が混ざって聞こえた。これは彼女の体から響いているのだろうと、十縷は何故か理解できた。
 ところでこの人物、特徴的なのは喋り方だけではない。その特徴は、十縷にこの言葉を発させた。

「貴方、ジュエランドの方ですか?」

 そう、彼女はどう見ても地球人ではなかった。直立二足歩行の点は地球人と変わらない。しかしキトンのような服を着ていていて、前髪の生え際には水晶のような無色透明の宝石をあしらった銀色のティアラを付けている。その井出達は独特だ。

 いや、それ以上に独特なのは表皮で、トルコ石のような鮮やかな水色をしていて石のように硬そうだ。目は琥珀色のガラス玉のようで、瞳などの構造は見受けられない。顔の部位は地球人と同じものが並んでいるが、言葉を発している間も口や鼻は全く動かず、どうやって発声しているのか不思議だ。頭頂部からは地球人と同様の髪が伸びているが、金糸のように煌びやかで、ティアラとの相乗効果で宝飾品のような印象を増していた。

 と、まるで宝石で作られた能面ような顔をし、声にも感情が籠らない彼女を、何故か十縷は自然と受け入れられた。

「そうです。ワタクシはジュエランドの民です。名はマ・カ・リヨモと申します」

 先と同様に音の羅列のような喋り方で、彼女は自己紹介をした。彼女から聞こえていた音のうち、耳鳴りのような音は聞こえなくなった。おそらく安心したのだろうと、十縷は根拠もなく覚った。
     そしてマ・カ・リヨモと名乗ったこのジュエランド人は、先の新杜と同じように専門用語を連発した浮世離れした長話を始めた。音の羅列のような喋り方で。話ながら三人はちゃぶ台を設けた居間のような場所に移動し、ちゃぶ台を囲んで話を続けた。


 彼女はジュエランド王家の姫で、次代の女王になるべき存在だったらしい。しかし先日、ジュエランドがドロドロ怪物の集団こと【ニクシム】の襲撃を受け、星は壊滅状態に。ジュエランドの王だった父親のマ・スラオンの手で、彼女は五色のイマージュエルと無色透明のイマージュエルと共に地球に逃がされ、ジュエランドと交流のあった新杜家に引き取られたらしい。

「五色のイマージュエルは強い力を秘めていて、強い想造力を持った者でないと交信できません。あの石と交信できる者たちは、【シャイン戦隊】としてジュエランド王家の近衛兵を代々務めておりました。父はワタクシに、地球でシャイン戦隊を結成してニクシムから地球を守るよう告げました。ニクシムが次は地球を襲うだろうと予測して」

 マ・カ・リヨモは最後に、愛作がした話と同じような話をした。相変わらず、十縷はついて行くのに苦戦していて、眉間に皺を寄せて首を傾げている。

「ところでさっきから言ってる【想造力】ですけど、具体的に何なんです?     その力、僕も強いんですよね?」

 十縷はこのぶっ飛んだ勢いに慣れてきたのか、ようやくまともな質問をした。しかし、愛作もマ・カ・リヨモも解り易い答はしてくれなかった。

「他者を想い、明日を造る力です。人間だけでなく、猿や犬や猫も持っている力です。しかし、貴方たちのように強い想造力を持つ者は稀にしかいません」

 マ・カ・リヨモの説明は、完全に十縷の疑問を解消するものではなかった。愛作は「その通り」と、頷きながらその言葉に続けた。

(つまり、優しさとか思いやりが想造力なの? ある程度の知能がある動物なら、みんな持ってるってこと? ところで僕、そんな聖人みたいに優しかったっけ?)

 十縷は自分なりに想像力というものを解釈しようとしたが、納得までには至らない。

 それでも構わず、マ・カ・リヨモはこんな話を付け加えた。

「五色のイマージュエルの中でも赤のイマージュエルは力が最も強く、ずっと適合者が見つかりませんでした。ジュエランドでも、赤の戦士は永く欠番でした。しかし地球に来てから、赤のイマージュエルが反応した日が何度かあったんです。その日を調べると、全て愛作さんの会社で入社試験があった日で…。それで、おそらく最終面接まで進まれた方が赤のイマージュエルの適合者だろうと予想されまして、それが貴方だったのです」

 マ・カ・リヨモの話には、十縷の納得できた部分と疑問が深まった部分があった。

(なんか解んないけど、前から目星を付けれてたのね。しかも赤のイマージュエルって、一番強いの? 僕が最強なの? 冗談でしょ……)

 入社式にいきなり声を掛けられた理由は判った。しかし、自分が最強と言うのは、何とも腑に落ちない。十縷は眉間に皺を寄せ、微かな唸り声を上げた。


次回へ続く!

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