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金髪のエメラルド #22 三足のわらじ

「コケコッコー朝ですよ!」
向かいに住むニワトリの声で、はっと目覚めた。


9:50 起床。寝坊した。
一度6時に起きたのに2度寝して万歳三唱している夢を見ていたのだ。
「60秒で支度しな。」自分に言い聞かせ、バナナを1本口に咥えながら服を着替える。
顔にシーツの跡が付いたまま。
目くそ鼻くそ付けたまま内閣へ出勤。私としたことが。
内角低めのスライダーのごとく、平謝りしながら着席。ギリギリセーフ。




10時から13時まで会議をした。新入り党員が入ってきたから見物人も来るわ、やじが飛ぶわでにぎやかだ。ビッグ巨人党員もハッスルしてた。ビッグ巨人党員はスモール小人党員に手厳しい。コピー機の前に二人顔付き合わせ、早口で漫才してた。こちらが喋らずとも勝手に喋っているから、楽。黙々と政治家作業に集中できるってもんよ。

新入り党員は愛嬌がある。こういう人は多少へまをしても許される。笑顔で積極的に会話をするから、どこに行ってもすぐなじめる。
休憩時間は会議室で皆と弁当食べていた。私なら外に出て過ごすのに、皆と一緒に昼飯食うんだと驚いた。



寝坊したのは昨日の女優作業で撮影終わりに現場監督と話し込んだからだと思われる。
もう、毎回撮影終わりに長々と喋られてしんどい。
深夜だし、撮影終わったらとっとと帰りたいのに、30分も風吹きすさぶ中、立ち話とかマジで。途中何回かオナラ出そうな小波がきてヤバかった。少しずつ後退りして我慢してたしマジで。

5分10分じゃないんだよ。
サービス残業も10分程度なら無給でも我慢できるが30分超えてくるともう、時給発生するよなっ。
残業代に愚痴聞き料金上乗せで貰いたいわい。

現場監督は切り上げるスキを与えない。
「じゃあ」「それでは」「帰りましょうか」と言っても、「そうそう、それでねえ」と話しが延々続く続く、長いよー長すぎるよーもう爆音で屁が出ちゃうよー。


話を聞いて欲しい。喋らずにはいられない。さみしい、私は穴がぽっかり開いた燃え尽き症候群なんだと言われると無碍にはできん、立ち話もなんだから喫茶店で話そうよ。グチを聞くからモーニングおごってよ。

でも、いざ喫茶店で対面したとして、はじめは私も興味深く「うんうん」うなずいたりする演技をしたりするんだけど、監督の自分語りばっかりでつまらんから、飽きてきて虚無になって素になって寡黙になって、手持ちの相槌なくなって、しーん。お互い気まずくなるに決まってるか。

モーニングおごってくれるなら話聞いてもいいかなと思ったけど報酬が珈琲一杯とパン一枚ぐらいじゃ割に合わんな。やめとこ。






とにかく撮影終わりは早く帰りたいんだ。布団で早く寝たいのさ。私はモデルで私は女優で私は政治家。セルフメンテで忙しいのさ。



「実は暇だけどね」


つづく


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