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星の出ているうちに帰っておいで*手放し*he said epi42

 カコが俺から離れた時、俺はカコの別フォルダに分類された。
「忘れたわけではない。ずっと心にはあるからね」と。
俺以外のフォルダを作らせてしまった。自分から手を離しておきながら…それが、何よりも辛かった。

 カコに背を向けていた時間を取り戻したい。もう、離れたくない。俺は初めてカコと共に生きる人生を本気で考え始めた。これまで、離婚はいずれはするつもりだっただけ。でも、もう少し子供が大きくなるまで…。まだ中学生だから、せめて高校になるまでは一緒にいてやりたい。

 状況が変化しない中、カコが少しでも心が軽く居られるならと、寝室のベッドではなく毎日ソファーで眠った。休みの時も、自分の行動一つひとつを連絡する。仕事が終わったら高速を飛ばしてカコに会いに行っていた。

 もう、片時も離れたくない。

 カコが遠くに行ってしまった気がして、俺は必死になっていた。毎日体を鍛えるようになり、これまで服装に無頓着だったが、オシャレにも興味を持つようになっていった。男として強くかっこよくありたい。もう他には行って欲しくないと無意識に無理をしていた。

 それなのに、カコはまた不倫の話を持ち出してくる。もう俺は前の俺じゃないのに。

「離婚の事もちゃんと考えてるよ。少しでも早くって思ってる。でも今じゃないんだ。まだかかるのはわかって欲しい。離婚に向けて始めたばかりじゃないか。まだ再会して3カ月もたってないよ」
「私にとっては9年だよ…」
「昔のことはリセットして。俺はそのつもりだった」
「私の中では、苦しくて辛かった過去は消せない。状況が変わっていないから疼くの!なかったことになんてしないで」

また、俺たちはケンカを繰り返し始めた。

 沢山話すようになったら、カコが俺から離れていた男関係のことが明るみになる。カコは隠し通したい風であったが…ツメが甘い。本当に隠し通していたいなら、どんな俺の追及にも知らぬ存ぜぬで通せばいいのに。ウソが下手な奴。何人もの男と関係を持ったことで、俺はさらにカコを自分のモノにしたいという気持ちが強くなっていく。俺から手放しておきながらなんて身勝手だとも思う。どれだけ自分が馬鹿だったのかと、初めて自分が嫌いになった。

 俺の知らないカコ。その状況が起こってしまったのも俺のせい。動かなかった後悔が俺を苦しめていた。

 会える喜びも束の間、持病のヘルニアがこのタイミングで爆発した。定期的に注射を打ってだましていたが、カコと再会してからはじっとしていられなくウォーキングや筋トレをハイペースでやっていた。それに加えてカコに会うためしょっちゅう車を何時間も飛ばして会いに行く。体を重ねることも、俺がカコの一番だと証明したくて無理をしていたのかもしれない。

 カコがこっちにくるということで、デートの約束をしていた日。自宅で動けなくなり、救急車を呼ぶ。そのまま俺は入院することになった。連絡できたのは夜になってから。

 嫁は、救急車には乗らず入院が決まった時に手続きだけして早々に帰って行った。カコの心配するようなことは何もない。でも、何もわからず
連絡がつかないなんて、どんなに辛いことだろう。何度もラインが入っていた。寂しい思いをさせてしまった…。

 事情をラインで説明する。そして、電話もすることができた。カコは何もしてあげられない立場だということを酷く悲しんでいた。さらに不倫という状況を浮き彫りにさせる事実がカコを苦しめている。でも、何もないんだ。俺にとってはカコこそが愛する人。それはこれっぽっちも揺らいではいない。

 やっと会えるようになった矢先にまた、強制的に離された。まだ、会うのは早すぎたと神様から言われているようだった。

 仕事を1カ月休養する。休養とは名ばかりで、普通に上司からも仕事の連絡が入ってきていた。とりあえず、徐々に回復をしてきてはいるが、ずっと腰の痛みや痺れは残っている。体の為にまた嫁と同じ寝室にあるベットで寝ることにした。

 1カ月後、職場復帰をして普通の生活も送れるようになった。でも、あの時の痛みが恐怖になって腰を必要以上にかばいながらの生活。

 それでも、子供の塾や部活の送迎や買い物などは役目としてやってはいた。カコには、こっちに来てもらって会うことはあったがデートらしいものは出来ない。連絡は毎日とってはいたが、前ほど頻繁に会えることはなかった。

 それからさらに1カ月がたっても、離婚のことは後回しにして何も考えていない俺。カコは離婚の話ができていない俺をつついてきた。

〇〇があるから無理。
〇〇だから話すきっかけがない。
〇〇なのに、やれるわけがない。

 何かにつけて言い訳ばかりだと、痛いところを言ってくる。でも、昔と違うところは
「そこに居たいならそれでいい。私に構うことはない。私は不倫はできない。そこだけはブレることができない。ユウであろうが無理なものは無理」

 まだ動かなくていいと思う俺と、どうしても不倫は嫌だと言うカコ。変わらない現状にまた俺たちは同じところをグルグルとさ迷っていた。

 どんなに尽くしても、プレゼントをあげても楽しい時間の後には必ず不倫のことでケンカになっていた。カコのことを大事にしている気持ちをへし折られ続けて俺はプツリと糸が切れた。

 怒りと諦めで、カコの連絡を一切無視。電話が来ても出ない。一言「今は出たくない」とだけラインをした。最初はラインもきていたが「自分の為すべきことをして」とだけ返したらそれ以来連絡は一切こなくなった。

 2週間くらいは怒りで我を忘れていた状況だったが、落ち着くにつれて、ようやく決心がついた。


 

 

 

 

 


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