由良ゆらこ

2人で1人、年齢100+歳。片方の足は日本、もう片方はヨーロッパの大地を踏んでいる。

由良ゆらこ

2人で1人、年齢100+歳。片方の足は日本、もう片方はヨーロッパの大地を踏んでいる。

最近の記事

役に立つかはわからない「仕事のコツ」

「微妙な部分」に時間をかける。 翻訳に携わる自分の思う仕事のコツとは、(あえて言うなら)これだ。 翻訳の仕事は、必ずと言っていいほど納期が短い。いつも時間との戦いである。訳文のクオリティが大切だからといって、最初から最後まで全力で作業していては、間に合わない。 そこで、絶対にミスしてはならない「微妙な部分」は念入りに、そうでもない部分はさらっと作業を進めることにしている。命取りとなる誤訳に至らぬよう、リスクアナリシスをして、キモにあたる箇所は丁寧に訳す。そうすれば、高品

    • 笑顔のマジック

      高校生の頃、物理の先生が授業で横道にそれ、こんな話をしてくれた。 空港でアジア人を見分けるには、その人の目を見るといい。目が合ったときに、こちらをにらむのは韓国人、微笑むのはタイ人、目をそらすのは日本人……。 よく聞く話ではあるが、高校生の自分は「へえ」と思ったものだ。実際のところ、これまでに韓国人とおぼしき人と目が合ってもにらまれたことなどはないが、恐らく悪に対して毅然とした態度を取る、ある種の厳しさを持つ国民性を表しているという意味では、まんざら間違いでもないかもしれ

      • ナターシャのイースターエッグ

        イースター直前の週にバレエのレッスンへ行くと、手作りのイースターエッグが配られる。これは先代の先生の頃からの伝統だ。今年は来ていた生徒の数が少なかったので、普通は1個のところ、2個いただいた。 バレエのレッスンといっても、ここだけの話、体操教室に毛が生えたようなものである。レオタードではなく、スパッツや短パンにTシャツという出で立ちだし、トーシューズに履き替えることもない。そもそもトーシューズなど、高校生の頃に一旦バレエをやめて以来、履いていない。来ている生徒たちも大人にな

        • 本郷三丁目

          2月にしては珍しく、春を感じさせるほど暖かなある日、「骨が語る人の生と死 日本列島1万年の記録より」を東京大学総合研究博物館へ見に行った。展示会に関するYouTubeの動画や、海部陽介氏が解説するテレビ番組で予習してあったものの、「生骨」は強烈だった。いつもはその「骨」の人たちが作ったモノを通じて彼らの生活文化を読み取ってきたが、生骨を見ることによって、ようやく彼ら自身に出会えた気がした。 日本列島各地には、古代から生活文化の違いがあった。そこらじゅうに生活文化の異なる人々

        役に立つかはわからない「仕事のコツ」

          自分への誕生日プレゼント

          先日、自分の誕生日祝いに五十嵐ジャンヌ氏の『洞窟壁画考』を手に入れた。信州・茅野市尖石縄文考古館で同氏の講演や学芸員Yさんの洞窟壁画の記号に関する話を聞いてから、後期旧石器時代の洞窟壁画についてもっと知りたくなったからだ。高額な書籍を買うのは久しぶり。早速「まえがき」を読んでみたが、これは知りたいこと満載の本で、本文を読む前からすでにワクワクしている。 洞窟壁画といえば、フランスのラスコー洞窟やショーヴェ洞窟、スペイン・アルタミラ洞窟のものなどが有名だ。以前、信州原村 八ヶ

          自分への誕生日プレゼント

          一期一会

          振り返れば、2023年は高校野球、プロ野球、大リーグと、野球界の話題が多い年だった。その中でも今年最後の大ニュースといえば、大谷翔平選手のロサンゼルス・ドジャースへの移籍だろう。そしてドジャースといえば、1967年に訪れたドジャースタジアムを思い出す。 それは日本からわざわざベースボールを観に行く人などいない時代、野茂英雄選手が日本人として初めて入団する30年ほど前のことである。シリコンバレーのメンローパークに滞在していた当時、せっかくならやはり大リーグの試合が観たいと、ナ

          貯金魔

          母方の祖父は関西の人で、少しは「持っている」はずなのに、お小遣いやお年玉はほとんどくれなかった。その代わり、誕生日やクリスマスでなくても、パッと何かを買ってくれることがあった。ただ、調子に乗ると「無駄遣いしたらあかん」と釘を刺されたが、本当に必要なもののためには、案外すっとお金を出してくれた。 自分が貯金魔になったのは、この祖父のせい(おかげ)である。卵の形をした赤いプラスチック製の貯金箱をもらったのがきっかけだ。祖父がコインを入れてみせると、卵がゆらゆら動いた。それがおも

          うらやましがり

          先日、仲の良い友人と久しぶりに食事をした。例の厄介な疫病が流行して以来、初めてだ。そもそもその前からお互い予定が合わず、会ってもゆっくりする時間もなかったので、一緒に食事をしたのは本当に何年ぶりだろう。 その晩はまず、アートブックフェアへ行き、それから何か食べようということになった。以前、ヴィトゲンシュタインに関する記事を書いたことがあるという友人は、ヴィトゲンシュタインハウスの近くにあるイタリアンに行こう、と提案してくれた。そのエリアには自分も住んだこともあり、懐かしい場

          うらやましがり

          ぐにゃぐにゃの世界

          気がつくと、いつも“ここ”にいるように思う。 楽しい時間はすぐに経ってしまい、いくら一瞬一瞬を大切に、意識しながら過ごそうとしても、無理だ。いつのまにか、また“ここ”でこうしている。楽しいことは待ち遠しいのに、やって来たら最後、あっという間に終わってしまう。 逆に、イヤなことは憎らしいほどすっと訪れる。「その日」はずっと遠くに、カレンダーの先の先にあって、「まだ来ないよ」とにんまりしていても、みるみる1か月後に迫り、1週間後になり、明日になり…… もう観念するしかない。

          ぐにゃぐにゃの世界

          海が好きなのに

          残念なことに、今は海のない地域に住んでいる。 不思議なもので、内海であれ外海であれ、大海原を目の前にすると必ず胸がすっとして、おおらかな気持ちになる。まるで潮の満ち引きのように、何となく周期的に海が見たくなるのは、そのせいだろう。しかし、海は遠い。数時間かけて車や電車で移動しなければならない。急に海へ行きたくなったら、とりあえずは今までに見た海を思うしかない。 さてと。目をつぶってみる。すると、どこまでも広がる青い海の風景、波の音、潮の香り、砂や水の手触り、新鮮な海の幸の

          海が好きなのに

          ウィーンのバラ

          ウィーンにはたくさんの公園や庭園があるが、中でもフォルクスガルテンは美しいバラで有名だ。市民の憩いの場であり、観光スポットでもある。バラの花壇の手前にはずらっとベンチが並び、気候の良い季節になると、日向ぼっこする人、おしゃべりに興じる人、本を読む人、ちょっと座って休憩する人などで「満席」となる。花盛りの頃はほんのりとバラの香りが漂い、静かに座っているだけで豊かな気持ちになる。 この庭園のバラとベンチには里親制度があり、380ユーロで誰でも5年間スポンサーになれるそうだ。希望

          ウィーンのバラ

          桃太郎から浦島太郎へ

          外山滋比古氏の本を読んでいると、よく「桃太郎」が登場する。同氏は著書『伝達の整理学』の中で、日本人は「読み書き(習字)」はうまいけれども、「話す・聴く」は苦手だと説いている。それはもっともだと思う。口から出ることばを軽んじて、人が話す内容をじっくり聴き取ることをしない。ともすれば、勝手な解釈を加え、話者が意図しない意思伝達に終わってしまうこともある。要するに、コミュニケーションが下手だ。そこで桃太郎が活躍するらしい。「むかしむかしあるところに……」で始まる昔話を子どもが聴けば

          桃太郎から浦島太郎へ