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自分への誕生日プレゼント

先日、自分の誕生日祝いに五十嵐ジャンヌ氏の『洞窟壁画考』を手に入れた。信州・茅野市尖石縄文考古館で同氏の講演や学芸員Yさんの洞窟壁画の記号に関する話を聞いてから、後期旧石器時代の洞窟壁画についてもっと知りたくなったからだ。高額な書籍を買うのは久しぶり。早速「まえがき」を読んでみたが、これは知りたいこと満載の本で、本文を読む前からすでにワクワクしている。

洞窟壁画といえば、フランスのラスコー洞窟やショーヴェ洞窟、スペイン・アルタミラ洞窟のものなどが有名だ。以前、信州原村 八ヶ岳自然文化園の「星空の映画祭」で、ヴェルナー・ヘルツォーク監督のショーヴェ洞窟壁画に関するドキュメンタリー映画を観たが、これはなかなかおもしろかった。また、2016年に上野の国立科学博物館で開催された特別展「世界遺産 ラスコー展〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」を訪れたときには、実物大に再現された「壁画展示ラスコーⅡ」の中に入ってみた。何やら本物の空間にいるようで、なるほどと思った。

ウィーン自然史博物館のパネル。アルタミラ、ラスコー、ショーヴェが紹介されている


しかし、アルタミラ洞窟には特別な思い入れがある。

1967年にフランスからスペインへ車で回ったとき、洞窟壁画を見にラスコーかアルタミラへ行きたいと思った。古代好きには外せない場所である。緑のミシュランガイドをチェックしてみると、ルート上、アルタミラのほうが便利だったため、そちらへ向かうことにした。今思えば、アルタミラに決めてよかった。後で知ったのだが、ラスコーは壁画保護のため、1963年にすでに非公開となっていた。

アルタミラ洞窟壁画は、最初に発見された旧石器時代の洞窟壁画である。1879年のこと、小さな岩穴から洞窟に滑り込んだ子どもが、洞窟の天井部に描かれた動物の絵を見つけたのだそうだ。その昔、洞窟壁画のダイナミックな動物の写真を本で見た私は、古代人の造形に感銘を受けたものである。

洞窟へ入るには、係員の同行が必要だった。それほど深い洞窟ではなく、入口から少し降り下ったところで天井を見上げると、そこにはバイソンの絵があった。岩のくぼみを使って、うまいこと描いてある。本で見たよりもずっと迫力があり、しばし絶句した。ところが、洞窟を出る手前で、ガイドさんが「ここはキッチン、キッチン!」とわめいた。見ると、足元に黒くなったくぼみがあった。スペインといえば美食の国でもあり、昔から食へのこだわりがあったということを言いたかったのだろうか。確かに史学・人類学的には重要な情報だが、そのときは動物の絵に圧倒されていたところに「キッチン」が出てきたので、すっかり興醒めしてしまった。後で調べたら、なるほどキッチンは正しかった。「入口付近には炉祉がある」と説明に書いてあった。

アルタミラで買い求めた壁画の絵葉書とパンフレットは、それはそれは大切にしてきたので、手元にきちんと残っている。写真を引き伸ばした手作り感満載のパンフレットは、年の流れを感じさせる。自分も今年で○○歳になったのだから、無理もない。これを眺めつつ、『洞窟壁画考』を読んで楽しい時間を過ごしている。

誕生日のお祝いは、まだしばらく続いている気分だ。

現地で買ったパンフレット
手作り感満載
バイソンが見事

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