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役に立つかはわからない「仕事のコツ」

「微妙な部分」に時間をかける。

翻訳に携わる自分の思う仕事のコツとは、(あえて言うなら)これだ。

翻訳の仕事は、必ずと言っていいほど納期が短い。いつも時間との戦いである。訳文のクオリティが大切だからといって、最初から最後まで全力で作業していては、間に合わない。

そこで、絶対にミスしてはならない「微妙な部分」は念入りに、そうでもない部分はさらっと作業を進めることにしている。命取りとなる誤訳に至らぬよう、リスクアナリシスをして、キモにあたる箇所は丁寧に訳す。そうすれば、高品質・短納期を実現することができる(これで料金が安ければ、クライアントも大満足のはずだが)。

と、かっこよく書いたものの、実はそれが理想といったところだろうか。現実の自分は期限のぎりぎりまで血眼で作業し、毎回へとへとになる。何事においても手を抜けない質で、どうしてもまんべんなく力を入れて作業してしまうのだ。思えば、昔から試験などで山をかけたりすることができず、隅から隅まできっちり勉強していた。おかげで成績は悪くなかったが、悪かったのは要領だ。リスクアナリシスが正しくできていなかった。

話がそれたが、「ミスが許されない部分」、つまり「重要な事柄」を見極め、そこに力を注ぎ、余分なことに時間をかけなければ、効率アップにつながる。つまりそれは、タスクに優先順位をつけることでもある。なあんだ、普通のことじゃないか、と言われればおしまいだが、この「見極め」がなかなか難しい。

自分には大事だと思えることでも、クライアントや上司にとってはどうでもよかったり、全くの見当違いだったりする場合があるかもしれない。日常生活の非常識が、専門分野の世界では常識ということもある。そもそも何が大切か、わからないときもあるだろう。特定の分野や社会における経験が浅ければ、なおさらだ。

たとえば、文章のポイントをつかめと言われたときに、どれがポイントか悩むとしたら、それは文章自体が悪いか、あるいは書かれている内容に通じていない自分が悪いか、そのどちらかだ。これは仕事一般にも当てはまる。タスクの内容や意義、目的、もたらされるであろう効果などを正しく理解していなければ、何をどうしたらよいのか、わからない。逆に理解していれば、自ずと重点が見えてくる。ちなみに、翻訳の作業でも、誰が何のために翻訳を必要としているのか、そこを押さえていなければ「使える翻訳」は生まれない。

したがって、「見極め」が難しいときには、まず自分が取り組もうとしている物事について正しく理解するよう心がけるとよいかもしれない。知っているつもりでも、案外知らないものだ。そのためには日頃からできるだけ“本物”に触れ、見る目を養い、経験を積むこと。わからなければ、人に聞く。自分もこれを怠らないようにしている。

そして自戒を込めて言えば、大切なことのために何かを切り捨てる勇気と知恵も必要だろう。

いくらの昭和生まれでも、もう24時間戦えない。

#仕事のコツ

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