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『不登校少女と三人の美魔女』第七話 お盆の奇跡とスクールカーストクライマー


プロムの準備とティーンの恋

 

「それはそうとさ、あんたたち、夏祭り来るんでしょ? 今度のライブなんだけど、バンドのアシガルとか、DJキコとかが来るらしくってさ……」

 そろそろ帰ろうとトレーを片付けながら聡美がそう切り出すと、中学生二人組は、唐突に飛び出した有名人の名前に目を輝かせた。

「え? 自分もフツーに行きたいんだけど」

 レオンも、身を乗り出す。

「別に学園祭じゃなくて地域の祭りだし、一般参加できるよ。俺の従兄弟ってことで、ゲストで来れば」

「毎年地元出身のバンドとか呼んでいたし、ウチも去年は行ったけど、今年のメンツはすごいね。大学の学園祭レベル」

 ララが、目を丸くする。

「いや、私もさっき聡美から聞いた。それでさ、なんか君らの中学、制服をリニューアルするじゃない? プロのモデルも何人か雇ってファッションショーもやらないかって話が出ているんだけど」

 サリーンが三人に、意味深な視線を投げる。

「レオンちゃんとララ、君たち歩けば? 学生も何人か入れたほうがいいって言われたから、翔平君も、やりなよ」

 「ほぼ決定事項」のように強めに勧誘するサリーンに、藤子が、

「事務所的には多分オッケーだから。レオンくんとこはしらんけど、ララは」

 と、補足する。

「え? オレは、ちょっと遠慮しようかなぁ……」

 いつになく腰が引けている翔平に、レオンが、

「拒否権ないから。バラすわよ」

 と脅し、また向こう脛を蹴られ顔をしかめる。

「オトナは『バラす』なんてそんなひどいことは言わないけど、できればやってほしいなぁ。元彼女もほれなおすかもよ」

 聡美の「ソフトな脅迫」に、翔平は「詰んだ」と頭を抱えた。

 



 

 結局、ララとレオンは事務所公認、ノーギャラでショーのモデルを務めることになり、翔平も、妊娠騒動の事情を知る聡美の「やわらか脅迫」に負けて、ランウェイに見立てた運動場のトラックを歩くことになった。

 

 祭りを三週間後に控えた日曜日、ララの実家のダンススタジオで、ファッションショーのポスター撮りを行うことになった。

 ランウェイを歩くモデルは、生徒会が集めた十五人。

 オープニングアクトはレオンとララ、翔平の制服ショー。冒頭で新制服を紹介し、その後は浴衣のファッションショーが続く予定になっている。

 モスグリーンのチェック柄パンツに同系色のネクタイを締めたララが、シワを気にしながら少し大きめのジャケットをバサッと羽織る。

 そこに、昭和レトロな蛇腹学ラン姿のレオンが、スマホを自撮りモードで構えながら顔を寄せ、素早くシャッターを押した。

「どうかな。スラックスの女子制服はジェンダーフリーの主張強めだから、あえてレトロな詰め襟男子をぶつけてみたんだけど、よくない?」

 サリーンがそう問いかけると、ヤンキー座りの翔平が「やべぇ……」と、答えにならない感想を漏らす。

「やべぇ、ってなにが?」

 首をかしげながらアイスコーヒーをストローで吸い上げ、「うげ、氷だけじゃん」と顔をしかめるララ。

 そんなドジっ子具合にも、「ギャップかわいい」と翔平は目を細める。

「かわいい、宮脇氏。さっきからかわいいとこ、かっこいいとこチョコチョコ繰り出しすぎて、情報量多すぎて頭が追いつかない。ずるいよね、みんなをキュンキュンさせすぎでしょ」

 翔平が、照れくささからか主語を「みんな」に置き換えると、サリーンは、

「うちの姪に惚れるなよ、少年」

 と睨みをきかせる。

「た……多分大丈夫です。宮脇氏は、見た目完璧すぎて無機質っていうか、地雷みがない。でも痩せる前ならもしかしたら……て、なにを言わせるんですか」

 あの日から地雷好きを自認している翔平は、ララとおそろいのネクタイを緩めながら、顔を赤らめた。

「そんなことより、俺が宮脇氏とイロチの制服、ってどんな公開処刑? スタイルが違いすぎでしょう」

 翔平も多分、ざっくりしたくくりでは美少年だし、背も高い。しかし、どちらかというといかつい見た目で、顔と鼻が大きめだし足は長くない。

「あえてよ、あえて。ララちゃんはこのままで、あたしとあんたが制服交換してみ? あんたが蛇腹の学ランで、あたしがネイビー英国風チェックパンツ。そんなの、旧人類と新人類の単純比較にしかなんないでしょ」

 レオンの分析に、アラフォー三人組も、深くうなずく。昭和の男前風味の翔平にはあえてララと色違いの制服を着せて、ジェンダーフリーを象徴するようなレオンには古風な学ラン。それによって、ララの女性らしさも映え、レオンはバタ臭さを抑えて、知的さが際立つ。翔平の素朴な親近感も目立たせるという算段だ。

「スカート制服は司会のアナウンス部の女子で、これは別日に撮ったから。ほら、見てみなよ」

 一眼レフで撮影していた藤子が仕上がりをモニターに映すと、子どもたちから歓声があがる。

「お、受けた。子供受けもいいみたいだね。さんざんファッション雑誌を見てきた四十女から見ても、『息子 娘に着せてみたい』かっこよさだわ、これ」

 教師の聡美も、同意する。

「うんうん。あとは夏まつりのショーのリハがうまくいくことを祈るばかりだね。サリーンのダンス教室のキッズダンサーも手配できたし」

 祈る、というワードを聞いて思わずララが両手を組んで祈りのポーズを作ると、翔平が目を細めて「尊い、推せる……」とつぶやく。

「だからうちの姪に惚れるなって」

「……約束はできません」

「やだ。姪が妊娠する。やめてっ。約束して」

「ひどい。サリーンさん、言い方。俺にも学習能力はあるし、傷つく。俺こう見えても、十五歳の少年なんですけど」

 翔平とサリーンがふざけてやりあっている様子に、レオンとララが冷たい一瞥を送る。そんな一瞬すら貴重に思えて、藤子はこっそりシャッターを切った。

 



 

「ねぇ、あのさ、サリーちゃん。聞いていい?」

 夏が近づく七月の夕暮れの帰り道、サリーンと二人きりになったタイミングで、ララは、ここ数日考えていた悩みを打ち明けた。

「あのさ、中学生同士で付き合っても、普通は、結婚まではいかないものかな。なんかそう思うとさ、虚しくない? うちら世代の恋愛とかさ」

 サリーンは、どこか懐かしさを感じるララの質問に目を細め、ガールズトークをしながら帰った学生時代を思い出しながら、顔を上げる。

 複数の星の瞬きを想像しながら見上げた空は、ゴルフ場ができて明かりが増えたせいか、はたまた老眼の影響か、月と金星しか確認できなかった。

「虚しくは、ないでしょ? お金とか生活とかは親まかせで、好きとか嫌いとピュアな気持ちだけで盛り上がれるのは、人生で今だけなんだから。妊娠と病気に気をつければ、楽しいことしかない、っていう見方もできるよ」

 身も蓋もない物言いに、ララは、「それはそうだけど」と口を尖らせる。

「でもさ、そんなに、人って浮気とか目移りするもん? サリーちゃんから見ても、中学生から、四十代まで同じ人好きってあり得ない? どんなに今、真面目な気持ちがあっても?」

「あり得ない。特殊な例外はあるだろうけど、あたしはありえない」

 サリーンはきっぱりと言い切る。

「もちろん、個人差はあるよ。でもさ、ニンゲンにはホルモンとか欲ってもんがある。若いうちは、そんな衝動がおおまかな流れを作っていくから。発情期はそんなもん。昔は、女性は家に籠もっている社会だったし、行動を制限する環境があったけど、今は……」

 サリーンは、ララの実家への土産にさっき購入した五種類のケーキの箱を、目の高さに持ち上げて見せる。

「例えばさ、あんたショートケーキ好きでしょう? これから、ケーキバイキングに行くとする。周りのケーキは取り放題なのに、あたしが『できればショートケーキだけ食べてほしいな。できれば、でいいけど』って言って席を外したらどうする? ちなみに、お腹がすいているとします」

「無理。ほかも食べる」

「でしょうよ」

「ですよね」

 ララが、言外を察したのか、がっくりと肩を落とす。

「個人差はあるよ。一生、ケーキバイキングに行かない、行けない人もいるかもしれないし少食やアレルギーの人もいる」

 ララは、「多様性の時代だもんね」と相槌を打つ。

「でもさ、今、都会に住んでいるそれなりに恵まれた容姿の美少女美少年が普通に成長して成人するのは、朝食抜いてホテルのケーキバイキングに放り込まれるようなもんだよ」

「どこのホテル?」

「えーと、あんた一応もうモデルだよね。じゃあ、ヒルトンのいちごフェア」

 ララは、小学校時代にサリーンに連れて行かれた、いちごだらけの夢の空間を思い浮かべる。

「ごめんなさい。私も浮気するわ、将来。不倫もする。ねぇ、うちの親戚に弁護士いたよね、もう確保しとくべき?」

 サリーンは、ララの飛躍具合に度肝を抜かれて、「そこまでは」と慌てて手を降る。

「浮気するかしないか、は知らないよ。ていうか浮気したことない人はいるよ、普通に。私の周りでは不倫経験あるほうがレアだし」

 脅しすぎたかと、慌ててフォローするサリーン。

「そういう話じゃない。欲は抑えられるよ。例えばさ、モデルの大きな仕事の前でダイエットしているとか、目標があれば、ケーキバイキングに連れて行かれてもお茶だけ飲んで帰るとかは、あり得るでしょ?」

「……なくはないかな、毎日ずっとは連れて行かれたら無理だけど」

 ララは自信がないのか、目を泳がせる。

「そんなふうにさ、なにかストッパーがあれば、欲を抑えて誘惑を回避できないとは言わない。でも、十代から四十代にかけて同じケーキしか食べないことが持続可能かって言われると、ものすごく難しい」

 「持続可能な禁欲目標……」と、ララがSDGSのような標語をつぶやく。

「とくに十代後半から二十代の美男美女は、しつこいぐらい勧められ続けるからね、ケーキを。『焼きたてはいかがですか?』ってトング持って、十分に一回店員が来る。店員は、アテンダー的ななにかな」

 昼間のファミレスとはいえ、十四歳ですでにカメラマン男をアテンドされかけたララは、実感のこもった「ああ……」というつぶやきを漏らす。

「じゃあどうするんだ? 誰とも付き合わないでずっと遊びで男を引っ掛け続ければいいの?」

「それは極論でしょ。できる限り『人にやられて嫌なことは、自分もしない』とか、幼稚園のお砂場で習う当たり前のことを頭の片隅に入れとけばいいよ」

 サリーンは、この前まで園児だったように思える、かわいい姪の頭を撫でる。

「あとは今を楽しんで。目の前にいる人と、小さな約束を、繰り返し繰り返し、更新しながら。失敗して破棄することになったら落ち込んだりして、臨機応変に青春を楽しめばいいんじゃない」

 ララはくすぐったそうに身を捩り、

「浮気しそうな男子の見分け方は?」

 と、難解な質問を投げてくる。

「知らないよ。でも私は、友達期間を長く持つとうまくいったよ。美味しいものを食べながら時間をかけて会話して、食欲ベースでその子の『欲と理性の揺れ方』を観察したりさ」

 サリーンは、ちょっと抽象的だけど、言葉を切る。

「性欲に寄っている発情期の子は、なんか『甘酸っぱくて濃い』匂いがするよね。良くも悪くもムワッと血の気を感じる。色気ともいうのかもしれないけど」

「わかったような、わからないような」

「あんた、夏休みの宿題を先にやっちゃうタイプ?」

「うーん、最近はそうかな。昔は最終日に死ぬ気でやっていたけど、最近は最後に泣くのが怖すぎて最初の三日間にハイパーになって終わらせちゃう。なぜかコツコツはできない」

 ララは、特性ともいうべき「計画性のなさ」を告白する。

「宿題はまぁそれでいんだけど、人生は、怖いからって先取りしようとしないでいいよ。双眼鏡を見ながら歩くと転ぶでしょ。先取りして分かったつもりで安心しているほうが、泣きをみるよ」

 腕を組んで首をかしげるララの細い肩を叩いて、サリーンは、

「中学から付き合って結婚した知り合いはいないけど、同窓会で初めて付き合った初恋の人と再会して、結婚したやつらならいる」

 と思い出したように言う。

「初々しさのかけらもない、バツイチとバツ二の、太ったおじさんおばさんだけどね。あれだよ。あんたのコミュニケーション講座をやってくれた、心理士の鈴木久美子と今の旦那」

「やだ、サリーンちゃん、それって悪口」

 サリーンは悪口を言ったくせに、鈴木夫妻を思い出したのか「照れた顔」を浮かべ、ララは「大人はわからん」と、また眉感にシワを寄せる。

 

伝説のプロムクイーン

 

 今年度の「夏祭り」のコンセプトは、「八〇年代のアメリカのプロム」。

 とはいえ実際にその時期のプロムに参加したことのある主催者は皆無で、結果的にいかにも「日本人が考える欧米」風の「SNS映えする」装飾が出来上がった。

 総合公園に設営したランウェイを、藤子が仕事のツテを駆使して手配した風船アーティストがファンシーに彩り、リハーサルでは裏方の女子や元女子たちはスマホを片手に自撮りに精を出していた。

 ちょうど八十年代の少年少女が主人公の海外ドラマがヒットしているタイミングということもあり、スタッフの中高生はもちろん、親世代にも評判は上々だ。

 「夏祭りライブ『BONパーティー』」はララの学校のみならず、地元の英会話教室、インターナショナルスクール・プリスクールが協賛していることから、元々「プロム」に近い趣となっている。

 日本にあまり馴染みのないダンスパーティーも、お盆の夏祭りとほどよく融合して、老若男女を楽しませている。

 五年前に盆踊りが大幅リニューアルされ、なにかと斜に構えがちなティーンエイジャーも、音楽や美味しい屋台、花火といった「雰囲気に酔う」お膳立てが万全とあってか、すんなり受け入れたようだ。

 昨年は、ショーの後のバラード演奏で、主催者側が招待したキッズダンサーに混じって、密着して踊るティーンカップルも少なくなかった。

 小学生がチャリティー目的で営む、「花束の屋台」は、意中の女の子に花を送る男子で毎年売り切れ状態だ。

 近年では、運営が「友チョコ」ならぬ「友花」や「友ダンス」という言葉を意図的に広めたことによって、今まで足を運ばなかった「彼氏彼女のいない地味系グループ」もお小遣い片手に集結し、花束を振り回してバンド演奏に声援を送るようになった。

「友花ねぇ……あたしたちの頃はそんな風習なかったよね。まぁ昔から、祭りと花火は学生カップルのデートの定番で、告白スポットだったけどさ」

 聡美がひまわりの花束づくりの手を休めて、まさに「遠い日の花火」に思いを馳せる。異性に縁のない中高時代を過ごしたサリーンと藤子は、

「知らんし。高校時代の祭りでは、レゲエのことしかおぼえてない」

「盆踊りからのレゲエライブで、ひたすらタオルぶん回したやつ」

 と、首にかけていたタオルを頭上でブンブン振り回して見せる。聡美はそんな「陰キャの黒歴史」には頓着せず、

「そうだ、レゲエライブのお祭りがあったっけ。あの頃からけっこう若者に媚びてたよね、自治体は。ここまで『欧米かっ』て雰囲気ではなかったけど。まだスポンサーも少なかっただろうに、いくらぐらいかけてたんだろうねぇ」

 少し前のお笑い流行語を交えつつ、「金の流れ」に思いを馳せる。

「ちょっとちょっと、緊急事態なんだけどー、サリーちゃーん」

 アラフォー三人組がサングラスにサンバイザー、マスクにタオルとあやしいいで立ちで花束を作っていると、リハーサル前のフィッティング中だったレオンが、血相を替えてかけ寄ってきた。

「なになにレオンたんどうしたの? って、あんた、なんでそっちの制服を着ちゃってんのよ?」

 詰め襟の学ランを着るはずだったレオンが、何故かララとおそろいのブリティッシュ風のブレザーを試着している。しかも、サイズはピッタリだ。

「あたしの方に、ブレザーが来ちゃったのよ」

 サリーンは、血相を替えてカバンをあさり発注書をチェックし、「間違ってないのに」と頭を抱える。

「でもさ、あんたたち、男子はふたりとも一八五センチくらいじゃない? 交換できない?」

 モデル経験のない聡美が素朴な疑問を口にすると、蛇腹の学ランを羽織った翔平がワシワシと歩きながら登場し、

「姉さん、股下。股下がちがうんです。って、言わせんなよ、悲しいから」

 と、情けない顔をする。

「発注書は間違ってないけど、モデルの写真を送ったから、レオンのほうがこっち似合うって思って勘違いしたのかな? 別にこのシーンでは、三着見せればいいだけだから、これでもできないことはないけど……」

 司会をつとめるアナウンス部の女子二人に二パターンのスカート制服を着せているので、今回三人が見せるのは三パターンのパンツ制服。三人は試しに並んでポーズをとってみる。プロの舞台ではないのでダメということはないが、九頭身のハーフモデルと並ぶ普通の男子の学ラン姿は、昭和風味が際立ってしまう。

「これ、三人で並ぶの酷じゃない? 選べる制服ってコンセプトだけど、演出でなんとかしないと『詰め襟選ぼう』って思う男子、減るんじゃない?」

 レオンが若干失礼な指摘をして、翔平に内脛を蹴られ、黄色い悲鳴を上げる。

「でも、浴衣ファッションショーが控えているから、翔平くんだけ一人で歩かせると時間がねぇ」

 タイムキーパーの資料作りも手伝っていた藤子がため息をつき、

「なんで俺のソロ? 俺のソロターンとかほんとやめて、むしろ黒子にしてほしい」

 翔平が音を上げる。

「黒子……そうか、黒子か。いい感じで三人一緒に出せるかも」

 ララはおもむろにサリーンの八十年代風サングラスを外し、翔平にかけさせようとこめかみに手を添える。いきなり女子に寄られた翔平は反射的に身を引いた。それでも、ララに「いいから顔かして」と言われると、照れくさそうに目を閉じ、サングラスをかけた。ララはさらにいかつくなった翔平に、花束のバスケットまで握らせる。

 そんな二人の間に、青春時代の恋のはじまりにありがちな「あの電気」が走ったように感じた中年三人は、ゴクリとツバを飲む。

「ちょっと、なに、顔撫でられた柴犬みたいな顔になってんのよ、エロ男子。ララちゃんも、昭和ヤンキーをよけいゴツくしてどうするの。アーンド、赤ずきんみたいなお花カゴ持たせてなに。もう許してやって。うちの従兄弟で遊ばないで」

 レオンの悲鳴をよそにララはちょいちょいと、演出担当のサリーンに手招きして、そっと耳打ちをした。

 



 

 パーティーは大盛況で、花束はバラもひまわりも、早々に売り切れたようだ。

 「浴衣、もしくは八十年代風の仮装をしてくるとワンドリンクサービス」というドレスコードのせいか、あちこちに、ハロウィン並みの仮装キッズが飛び跳ねている。

 さらに、DJが八〇年代の洋楽を流していることもあってか、タイムスリップ気分のごきげんな中年の姿もちらほら見受けられる。

 サイコは、友人とボディコン女子に扮して受付を担当しており、白い肌と均整の取れたスタイルで、男子の視線を集めていた。

「なんかさぁ、さっきサイコが、翔平君と切なそうに視線を交わしていて、おばさん胸が傷い」

 すれ違う恋の行方に、思わずオフショルダーTシャツの胸を掻きむしる藤子。浴衣姿で前髪だけ八〇年代風のトサカを作ったサリーンが、

「あそこは簡単には切れなそうねぇ。うちの姪との間で揺れないでほしいんだけど」

 そうぼやいたタイミングで、ファッションショーの始まりを告げるアナウンスが流れた。

 お目当ての制服ファッションショーは、トップバッターとして予定されている。

「やばい、もう始まった」

 ほぼ普段着ながら、ボトムだけケミカルウオッシュデニムを身につけている聡美が、双眼鏡を目に当てる。

 前方からワッと歓声が上がったが、飛び跳ねるキッズたちで、ステージの様子が確認できない。

 慌てて縁石にかけ上った三人は、ライトを浴びて燦然と輝くモデルたちの姿に、つま先立ちで手を振り上げ、思わず頭上でタオルを振り回す。

 シンディー・ローパー『Girls Just Want To Have Fun』にあわせて、ララとレオンは堂々たるウォーキングを見せている。

 ローティーンモデル特有の中性的なオーラを放つ二人は透明感が炸裂しており、ホログラムのように透けて見えてサリーンは思わず目を擦った。

 「話題のCMのカップル」が夏の夕暮れを繊細に彩る傍らで、SPに扮した翔平がリアリティを醸している。

 SPはカゴを持って二人に続き、時折客席に試供品のペンライトを投げている。

 直前の打ち合わせで、

「俺、ペン投げるの? もしも、誰ももらってくんなかったらどうすんだよ」

 という心配していた翔平の気持ちを汲んで、前方にサクラを散りばめたが、杞憂に終わったようだ。

 ペンライトはロックミュージシャンのピックを思わせる人気ぶりで、投げたそばから若枝のような腕が波打ち、ゲットしたキッズが勝利の雄叫びを上げる。

 余裕のウォーキングを見せるララとレオンに対し、どこか照れくさそうなSPも、十分チャーミングで映えている。

 モデルカップルがセンターに立つと、SP翔平はサッとレオンにティアラを手渡す。レオンは片膝を折って跪き、ララの手の甲にキスをしてから、うやうやしくティアラを彼女の頭に載せる。

 「プロムキング、アーンド、プロムクイーン」。二人が揃って出演しているCMを思わせる、見覚えのある演出。DJが、「BEACH BUNNY」の『プロムクイーン』を大音量でかけると、会場はいっそう沸き立った。

 「Shut up, count your calories I never looked good in mom jeans(黙ってカロリーでも数えてな。私なんてどうせマムジーンズも着こなせないし)」

 奇しくも数ヶ月前のララを思わせる歌詞に、思わずサリーンの目頭が熱くなる。

 拍手と指笛、飛び跳ねるキッズたちが入り乱れ、またステージが見えなくなった。

 ララが、顔を残すターンで客席に流し目を投げると、主に女性の黄色い声が響き渡る。

「花束を投げないでください。まだショーは続きます。危ないので投げないで」

 司会者の悲鳴のような呼びかけを耳にして三人が上を向くと、ステージ上空に、色とりどりのブーケが乱れ飛んでいた。友人や意中の人に捧げようと購入したであろうブーケを思わすステージに投げ込むほど、子どもたちは興奮していた。

 

スクールカーストクライマー・お盆の奇跡 

 

 大成功に終わったショーに、バックステージは熱気に溢れていた。

「これ以上無い大成功。ううん、ショーだけじゃなくて、ララ、あんたはすごいクイーンだよ。イケてる彼氏なんかいなくても、陰キャグループでも、最強のスクールカーストクライマ

 涙目の叔母に髪をワシャワシャ撫でられて、ララは「あついからっ」と照れて振り払い、ファンタグレープを異常な勢いでラッパ飲みする。

 ステージの上と打って変わり、シャイな文化系少年のようで、完全に電源オフ。オーラはすっかり消えていた。

 ステージでは浴衣のショーも終わり、バンドによるダンスナンバー演奏が始まっている。

 楽屋とは名ばかり、立入禁止のロープやカーテンが軽く貼ってあるだけのスペースからは、グラウンドの一角が丸見えだ。

 厳密には八〇年代ナンバーとは言い難い『ザッツザウェイ』にあわせて、おどけた顔で踊るカップルの姿もちらほら見える。

「サリーンちゃん、藤子さん、聡美先生、本当にありがとう。そんなにエモくない言い方でごめんね。うち、感動で泣いたりできないタイプで。でも、今幸せだよ」

 ララがネクタイを緩めながら、無邪気な笑顔で礼をいうと、「泣かなくていい、笑顔が一番だよー」「ララかわいいよー」「こっちが泣けるよ」と、四人は、円陣を組むように肩を寄せあう。

「はいはい、ハグもいいけど、宮脇氏は着替えなきゃ、でしょ。翔平はもう更衣室に行ったよ。お姉さんたちも」

 レオンがサラッと円陣に参加しながら、着替えを促す。キッズはこの後、お楽しみの自由時間に突入するが、サリーン、藤子、聡美の三人組には裏方仕事がまだ残っていた。

 更衣室は楽屋の裏に男女別に設けられた簡易なもので、吹けば飛びそうな体裁だが、前には一応、警備係が立っている。

「そうだね。汚さないうちに着替えちゃおうか」

 ララは、ファンタを片手に、「後でね」と手を振り、更衣室に向かう。仕切りのロープを潜ろうとすると、「宮脇氏」と、やや掠れた声に呼び止められた。振り返ると、いつの間にか甚平に着替えて、ひまわりの花束を手にした翔平が立っていた。

「うわぁ、甚平かっこいい! 抜群に似合うね、坂口氏。ヒゲをはやせたらもっとよかったのにね!」

 学ランよりもサーファーファッションよりも、甚平がハマってしまう翔平の渋さに、ララは相好を崩した。

「ありがとね」

 翔平は、恥ずかしそうに、夏休みだけヒゲをはやしていたアゴのあたりを軽くなでた。

「これ、サイちゃんから」

 手渡されたひまわりには、四つ折りの手紙のようなものが挟まっていた。

「え、サイコが? 坂口氏にくれた花束じゃないの?」

「ううん、俺にじゃないよ。それに、花屋的には、バラは告白で、ひまわりは友情なんでしょ?」

 そう言って翔平は、顔を曇らせる。

「あのさ、さっきサイちゃんに、完全に振られたのかな、俺? ショーの後に話しかけたらさ、まだ好きな気持ちはあるって言われたけど、それでも寄りを戻すつもりはない、って泣かれてさ」

 ララが、面食らいながら四つ折りの手紙を開く。

 サイコらしい、やたら達筆な文字で、「ララに嫉妬していた」という告白や、「ララなら翔平と付き合っても納得ができる」という内容が、綴られていた。最後には「翔平をよろしく」という、無言の圧を感じる文言で〆られていた。

 いつの間にか、翔平と並んで縁石に腰をおろしていたララは、混乱のあまり手紙を翔平の膝に置いて、

「えっ? えっ? 情報量が多すぎて頭が追いつかない」

 と額に手を当てる。

 翔平は、「これ、俺に読ませちゃまずいだろ」と、苦笑いして手紙を折りたたむが、動揺ぶりから、内容を把握したことがバレバレだった。

「サイコは坂口氏がまだ好きで、坂口氏も好きで。でも交際はできなくて? サイコはデブの頃からあたしのポテンシャルに嫉妬をしていて、ついでに、坂口氏の面倒をみてほしい、と。なんで、そもそも好きなのに振るの?」

 混乱するとついつい頭の中で回る言葉を口に出してしまう癖のあるララを、当事者である翔平は、

「多分面倒をみるとかじゃないと思うけど……」

 と、気まずそうに訂正する。

「ねぇなんで? なんで好きな相手を振るのよ」

「何度もおんなじことを繰り返してまた別れそうで、辛いから、だってよ。それはまぁ、俺もそう思う。あの人は気が強いし癖も強いし、俺はまだガキで、まだ寛容じゃないから」

 翔平は、縁石からズズッと腰を落とし、ララに向かい合う形で膝立ちになった。

「ねぇ、宮脇氏」

 ふいに上目遣いで、ララの目を捉える翔平。

「俺、宮脇氏が好きだから、本当のことを言いたいんだ。だから、サイちゃんのこと、今はまだ気になっているし恋している気持ちが残っている……。それが、大前提なんだけど」

 そういっておもむろに季節外れのタンポポを引き抜き、跪(ひざまず)き、まっすぐにララに差し出した。

「バスケットコートで声をかけられたときと同じだ」

 ララは、予想外の事態に息を呑む。

「俺と踊ってくれませんか?」

 マイケル・ジャクソンの『Girlfriend』に背中を押されるように、翔平は顔をあげた。

「宮脇氏は完璧すぎる美人だし。モデルさんだし。まだ、アツい感じで『恋をしている』っていいきるには、ちょっと前の段階なんだけど。『俺なんかが恐れ多い』って、今も腰も引けてるし……」

 翔平が一度、気弱そうに目を伏せる。それでも数秒後には、まっすぐ顔を上げ、ララの目をまた捉えた。

「でもただ、宮脇氏はきれいなだけじゃなくて、すげぇいいヤツで大好きで、一緒にいるといつも笑って、楽しくて。サングラスをかけてくれた時、ドキッとして、背骨がビリビリってしびれた」

 切なげな低温ボイスに、今度はララの背骨に、心地よい痺れが走る。

「今は、元カノを引きずっていても、もし、宮脇氏が彼女になってくれたら、きっぱり忘れて連絡は絶つよ。サリーンさんも怖いし。だから今日、俺と踊ってみて、考えてくれないかな?」

 緊張で低く掠れた声と、いつもの不敵キャラとは打って変わって充血した「子犬の目」に、ララ自身も惹かれているのは確かだった。

 イケメン声優マニアのララにとって、「低いイケボ」は、「推せるポイント」のひとつだった。その時、ララと翔平の間にも、ちゃんと「可能性」を孕んだ電流が走っていた。

 でも……。

 タンポポを受け取ろうと手を伸ばした時、女友達に肩を抱かれてうなだれ、出口に向かうサイコと、その脇でよりそって踊る中年カップルが目に飛び込み、一瞬、手が止まる。

「ねぇ宮脇氏は、どう思う?」

 告白の瞬間こそ緊張で声が掠れていたが、美女を前に自動的にモテ男スイッチを取り戻した翔平は、自然と色気のある笑顔を作る。

 ララは、「えぇい」と揺れる気持ちを補強するようにタンポポをひったくると、もう片方の手でガサガサとエコバッグをあさり、さっき投げられた中からひとつだけもらってきたバラの花束を引っ張り出す。

「あのさ、ちょっとあのカップル見て。エアロビのコスプレしているおばちゃんと、ミニオンズみたいなおじちゃん」

 そういって、サリーンの元同級生の鈴木夫妻をタンポポでまっすぐ指差す。

「ミニオンズって、坊主でメガネかけて、シャツ黄色なだけじゃん。宮脇氏それ悪口」

 翔平は、ミニオンズがツボにはまったのか、特徴的な「引き笑い」を漏らす。

「あのおっちゃんとおばちゃん、中学時代に付き合ってたんだって。でさ、別れて、いろんな人と付き合って子供もいて、結婚して離婚して。四十超えて今、中学時代の恋人とラブラブなんだって」

 勢いよくまくしたてながら、

「そんなのはレアケースだし、あたしだって坂口氏は大好きなだけじゃなくかっこいい男子って思っているけど。だけどさ、もったいないじゃん。中学の彼氏彼女なんてそのうち別れるから? それが怖くて、一番気になる女にアプローチできないなんて」

 翔平のサーファーらしい分厚い胸にバラの花束を押し付ける。

「かっこ悪いし、意気地がないし、つまんねーよ。将来どう転ぶかなんてわかんないよ。男だろ。ほら、立って行ってこいよ! 現時点で一番好きな女、誘ってこい」 

 面食らう翔平に無理やり花束を握らせ、二人はしばし見つめ合う。

 「なんだよ、やっぱいい男じゃん」「それにしても、ほんときれいだよな」お互いの気持ちが電流を通して伝わるのを、強制シャットダウンするように、

「ほらっ! 走れよ! 好きなら、男なら走れっ!」

 とララが威嚇する。

 あまりの剣幕に面食らった翔平は、ピョコンと勢いで立ち上がって踵を返し、一歩踏み出してから振り返る。

「ありがと、宮脇氏。なさけねぇな」

 頭を下げ、意を決したのか全速力で走り出した。

 翔平は、泣きながらグラウンドを立ち去ろうとするサイコに追いつくやいな肩を荒く掴んで、なにかを耳元で怒鳴ってバラを叩きつけるように差し出す。

 さっきまでの、脆いものにそっと触れるようなララへの求愛と比べると、二人のそれは遠目では告白というより喧嘩のように見えた。

 それでも、目を拭ったサイコが花束を受け取り、翔平の肩に手を回して、踊り始めると、二人から、同じ濃度の色気がふわっと香り立つ。

「あの人たちは良くも悪くも、男と女としての『濃さ』が似通っている。多分あたしは、少し薄い」

 恋をすると、発情期の欲望の強さは匂いで分かる、というサリーンの言葉が頭に浮かぶ。

 翔平とサイコの周りでは、思いがけない青春ドラマに友人たちが狂喜乱舞して、手を叩いている。

「なにあれ、本物のプロムキングとプロムクイーンじゃん」

 タンポポを胸ポケットに入れたララは、頬に熱さを感じて、自分が涙を流していることに気が付いた。

「あたし、ちょっとは好きだったの? だったらなんで? バカじゃん」

 もはや、自分が声を出しているのか、心の声なのかも、判断がつかなかった。

「ほんとバカよね、確かに。でもよかったんじゃない。あいつら、雰囲気がエロすぎてまた妊娠しそうだよ。それにさ、あの程度のルックスのカップルにあんたが負けるわけ、ないじゃない。ね、立って。あいつらに集まった視線を全部、奪っちゃうよ」

 振り返ると、アラジンのような絶世の美少年が、胸に手を当てて、ひときわ華やかなブーケを差し出していた。

「姫、踊っていただけますか?」

 レオンはあえて「男のイケボ」を絞り出し、優雅な手付きでララを立たせて腰のクビレに手を回す。

 ララは、涙を拭って、特注の花束を受け取った。

 グラウンドセンターに帰還したキングとクイーンに、再びオーディエンスが黄色い声をあげる。

 



 

 ララと翔平が座っていた背後の植え込みがガサガサッと揺れ、「あー、暑かった」「のぞきも楽じゃねーな」「汗やばいね更年期?」と、聞き耳を立てていたサリーンと藤子と聡美がひょっこり顔を出す。

 突如現れたお盆の妖怪のような三人組に、通りがかりの中年男性がビクッと体を震わせて、そそくさと逃げ出した。

「あら、失礼」

「ちょっと清掃作業を。ほほほ」

「ごめんあそばせ」

 中年三人組は気取った仕草で葉っぱを払い、縁石に腰をおろし、足を組む。

「切ないね。うちのララ、いい女すぎじゃない?」

「ほんと、あの三角関係? 四角関係? 今後、まだ二転三転しそうだ。教師として目が離せないわ」

「学生グループの恋愛ドロドロシャッフル事情、萌える。あたし、『ビバリーヒルズ高校白書』とか『ゴシップガール』、大好きだったんだけど」

「あったね、海外ドラマでしょ」

 すみっこでビールの缶をプシュッと開けてくつろぐ美魔女三人をよそに、ララとレオンは、星のようなスマホのフラッシュを浴びて、センターで燦然と輝いていた。DJに「キングアンドクイーン!」とあおられ、手を振る二人の姿は、フィギュアのように完璧だった。 

「ああ、若い子って、きれいだね……。流れ星みたい」

 目を細める聡美の言葉に、サリーンと藤子は幼児のようにシンクロしながらこっくりとうなずく。

「それでもあたしは、あっちが、裏ボスで、真のキングアンドクイーンだと思うけどね」

 サリーンが指さした先では、幸せ太りの鈴木夫妻がこっそりキスをしており、聡美と藤子が、「ヒューヒューだよぉ」と、いにしえの声援を飛ばす。

 音楽にかき消されたはずの声を第六感で察知したのか、ミニオンズそっくりの旦那が振り向いて、イケメン時代を彷彿させる仕草で手を振る。

 妻の腰を引き寄せる男と、照れて長い髪を垂らして仰け反る女。二人の丸っこいシルエットに、「サッカー部の美少年」「バスケ部の美少女」の姿が、オーバーラップして揺れる。

「おや、きれいな鈴木夫妻が浮かび上がって見えるぞ。老眼?」

 藤子が目をこすると、

「きれいなジャイアンみたいに言うな。二人のご先祖様じゃない? お盆だし」

 聡美がつぶやいて、サリーンが笑い転げる。

「お盆の霊なら、うちの旦那呼んでよ.。ちょっと藤子、ジャクソン5リクエストしてきて」

「えーやだよ。DJブース、櫓のうえじゃん」

「ほんと龍くんも召喚したい。おーい、うちの姪の勇姿自慢したいから降りてこーい」

 サリーンが天をあおいで両手を掲げると、今宵のシンデレラガール・ララが、すみっこでやさぐれている魔女三人を目に止め、ちょいちょいと手招きをした。

 中年三人は、内心「まってました」と喜んでいることを悟られないよう、「めんどくさいけど、しょうがないなぁ」「ここは、アタシが出るしかないようだな」「笑われる予感しかしないんだけど」と天邪鬼なセリフを吐きながら、重い腰をあげる…。

 広場で揺れる人々は色とりどりの魚に似ていて、ムワッとした人熱れが波のように魔女たちの頬を撫でる。

 センターではララが、三人をまとめてハグしようと、両手をめいっぱい広げて待ち構えている。

 サリーン、聡美、藤子の順に、生暖かい人混みに飛び込んで泳ぎ始めた瞬間、ジャクソン5の『I Want You Back』の転がるようなイントロが降り注ぎ、つむじ風となって足元の熱気を巻き上げた。

 了

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