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ホストマザーに怒られる

ホストマザーに怒られた。
(ホストマザー:以下マリリン、
 ホストファザー:以下アレックス)

同じミスを2度もやらかしてしまった。

現在のホストファミリーで借りている部屋について。部屋のドアはロック機能付きで、内側からロックをかけるタイプだ。部屋の内側からロックしてドアを閉めるとロックされるので、ちゃんとカギを部屋の外へ持って出ないと締め出しを食らうことになる。
何人もの顔も知らないハウスメイトが同じフロアに暮らしているために、念のため部屋の外に出る時は毎回鍵をかけるようにしているのだが、これを以前部屋の中にカギを置いたままロックして部屋の外に出てしまい、締め出しを食らった。その時はちょうどアレックスとマリリンが在宅していて、事情を話すと「仕方ないなあ」とアレックスが引き出しから予備キーを取り出して、すぐに対応してくれた。
それからマリリンに「今回はアレックスがいたから良かったけど、彼がいなかったらあなたを助けてあげることはできないから、ちゃんと今後は気をつけるのよ」と少し注意を受けた。

しかし、先日また締め出しを食らってしまった。

夕食前にトイレに行く時だったか何かだと思うが
ドアをロックして、外に出てドアを閉めた途端、
「しまった!!!!」と思った。

カギを部屋の中に置いてきたのだ。

また注意されるぞ、これ。

嫌な気持ちで夕食を食べに二階に上がっていくと
そこにマリリンがいた。

僕は申し訳ない気持ちで告白した。
「ごめん、マリリン、またやっちゃった。また締め出し食らっちゃったよ」

するとマリリンは「はあ?!」とあきれた顔をして「前に言ったわよね、助けられないって。アレックスがいないと予備キーの場所は分からないし何ともしようがないわ。アレックスにあなたが電話して聞くしかないわよ」と言った。

アレックスの夜勤なので、だいたい午後6時、僕らが夕食を食べる頃になると仕事へ出掛けていく。
僕が2階に上がった頃にはすでにアレックスが出発した後だったのだ。

マジか、、、

人の仕事中に「また締め出されちゃった。カギどこですか?」なんて電話したくない。
さすがに気が引ける。

マリリンは「まあ、とりあえず電話はあとにして、まずご飯を食べなさい」とだけ言って呆れかえった様子で部屋を出ていく。

そんなこんなで「クソう、おれはなんてアホなんだ」とトホホな気分でとりあえず飯を食べ始めた。家の中でも自分の部屋のカギを常に持ち歩くという慣れない習慣のせいにしたい気持もあるが、仕方ない。おれが悪い。
しかし、こんなつまらんことで怒られるとは不甲斐ない。

しばらくするとマリリンが用事を終えたのか食卓へ戻ってきて「一体なんでまたそんなことになったのさ?」と言う。
なんで?と言われても部屋の中にカギを忘れることに理由なんてないのだが「ただカギを部屋から持ち出すのを忘れちゃったんだ」と答えた。
マリリンは「はあ」と呆れた顔で
「それでカギはどこにあるの?」と聞くので
「部屋の中だよ」というと、またムッとした顔をする。

Sorry

僕は謝った。
謝るしかない。

マリリンは僕の Sorry が気に入らなかったのか
(ちょっと反省なのだが、あまりにも機械的な Sorry の言い方だったと思う)
不機嫌な顔で言った。

「ごめんだけ言えばいいと思って、ほんとうにあなた反省してるの?
この前も同じことをやったばかりよね?
あなたに渡したカギは一つしかないんだから、ちゃんと責任もって扱ってもらわないと困るわ。」
というようなことを言った。(たぶんそんな感じのこと言ってた)

それから
「どんなにカギが大事なものか分かるわよね?」
と真面目な顔で僕に問いただす。

僕はYesと言う。

Yesしか出てこない。

「カギを大事にできない人は成功しないわよ」

、、、、

ん??
一瞬、何を言っているのかわからなかったが、なんかの比喩だろうか。
カギのような重要なものを大事に扱えない人は何事に対しても責任を持つことができない、すなわち、そんな人は成功しない。そういうことを言いたいのだろうか。なんとなく意味を想像してみたが、分かるような分からないようなだ。
しかし、とりあえず相槌はうつ。

Yes

「でも、どのみち私は予備キーの場所がわからないから、どうしようもできないわ」
そうマリリンは言った。

しかし、僕はなんとなく覚えていた。前回、締め出されてアレックスが対応してくれた時にキッチンの引き出しから予備キーを取り出していたような覚えがあった。僕の記憶が正しければだが。

「たしか、この前アレックスがその引き出しから予備キーを出してた気がするんだけど」

引き出しを指差して、そうマリリンに伝えると
「ダメよ、勝手に引き出しを開けないでちょうだい」とまだ何もしないうちに強めにくぎを刺される。もちろん勝手に開けるつもりはなく、ただ
マリリンに取り出してもらおうと思って伝えただけだが、僕が予備キーの場所を知っていて引き出しを開けようとしていると思ったらしい。

「いや、もちろん勝手に開けはしないけど、
たしか、そこに予備キーがしまってあるんじゃないかな」

そう僕が言うと、マリリンは
「今あなたは予備キーの場所を知っているのね。でもそれも問題なの。あなたが予備キーのありかを知っているということは私たちにとっては大きな問題なの。予備キーには他の部屋のカギもぜんぶ一緒についてるわ。つまりあなたが予備キーの在処(ありか)を知っていて、もし悪用して何か起きたとすれば、それは私たちの責任にもなるの」
と言った。
「だから、もしここに予備キーがあったとしても、あなたに簡単に渡すことは本来なら私達の信用問題に関わることなの」

たしかに言うとおりだ。
何も間違っていない。

I know. (そうですよね)

当たり前である。そりゃそうだ。
なんか申し訳ない気持ちがまた込み上げてきて
もう一度謝った。

Sorry. It's my fault.
(ごめんさない。僕がいけないんです)

ただ、僕は人の部屋に入ってものを盗んだり、こんなにも毎日お世話になっているホストファミリーに泥を塗るようなことは絶対にしたくない。
できるはずがないじゃないか!それだけは言おうと思って


but I never do that.
(ただ、そんなことは絶対にしません)
と言った。


するとマリリンはやれやれという感じで
「分かったわ。どうしようもない状況だし、あなたを信用する。あなたを信用して今回はカギを貸すけど、ホントに気をつけてちょうだい」
と言って、カギを取り出して僕に渡してくれた。
(たぶんマリリンも予備キーの場所を本当は知っているのだが、アレックスがカギの管理係をしており、一応アレックスしか知らない体にしているのだろう)

渡された予備キーには、たしかに他のカギもジャラジャラといっぱい付いていた。
「どれがあなたの部屋のカギかはわからないから、自分で確認して見つけるのよ。そして使い終わったらすぐに私に返してちょうだい」

Thank you. I appreciate it.
(ありがとう。本当にありがとう)

僕はマリリンに感謝を伝えた。

するとマリリンは
「あなたは忘れっぽいわね。いまの年齢でそんなにいろいろ忘れていたら、40歳になったら何も覚えておけなくなるわよ!」
と言った。

まだマリリンは怒ってるのだと思ったが、
とっさに英語での回答も思い浮かばず、
苦笑いしながらYeah
と答えると、マリリンはアハハと笑った。
ただ冗談めかして僕を少しからかっただけだった。僕は少し安心した。


優しいホストマザーで良かった。
マリリン、ありがとう。



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