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喋々(ちょうちょう)
2023年8月10日 19:35
「まだ、来ないのか?」「まあ、急がんでもいいでしょう。ただの名づけの儀式ですし」「名誉ある儀式に遅れるとは…」「そーゆー子なんでしょ。気にしちゃ負けよ」「お前の推薦はいつも遅刻するな」「私のせいじゃないでしょー」「お前のせいだろう! 弟子なのだから!」「遅くなりました」「遅い! 名づけの儀式で必要なワシらしか残っとらんわ!」「まあまあ…来たんだし、いいでしょうが」「久しぶり
2023年8月6日 19:29
「おお、こっちだ! 早くこい」手招きされた方へ、私は急いで席につく。テーブルの上には温かな料理があった。みな浮かれているのか、酒を飲んで談笑をしている。「お前も飲め!」「いや、俺は遠慮しておく」「つきあい悪いぞ。一口でいいから、飲むふりぐらいするもんだ」そう言って、酒を空っぽの杯になみなみと注ぐ。俺は言われた通り、杯を傾け飲むふりをした。「おお、いい飲みっぷりのふりだ!」
2023年5月18日 20:09
生まれ故郷の空は地上よりも偉いと教えられた。地上へ降りることは禁忌とされていた。でも、俺は地上を見てみたかった。地上へ降りる方法は、たったひとつ。翼を地上に落ちるまで、使わないこと。俺は地上へ真っ逆さまに落ちていった。「馬鹿なのかい。あんたは」落ちた先で、俺は女に拾われた。とんがった帽子とマントを羽織った女。とても美しい。「森の中でじっとしてたら、魔物にみつかるだろ。私
2023年5月18日 20:05
恋心を食べるのが好きだ。甘く酸っぱく、ときどき苦いが深みある味わいで、いつも食べていたいが、街中に行く必要があるのがキツい。私は感情喰いと呼ばれる、人間の形をしている人間ではないものだ。人間との違いは、実体のあるものに触るには、私が触ろうと思わなければ触れないということぐらいだろうか。人間はこういうものを幽霊と名づける。だが、私は感情喰いとしてありたいのだ。感情喰いとしての誇りあ
2023年5月11日 20:16
「おめでとう。領主様」「ありがとう」晴れて領主になれはした。だが、あの噂が耳について離れない。領主というのは世襲制である。だが、近年の領主は世襲できぬほどに殺されていた。凶器のたぐいは見つからず、顔の原型をとどめないほどになにかで殴打されて死んでいることが多い。しかも、領主に限らず、いわば様々な人をまとめる人間が狙われることが多いというのが、もっぱらの噂である。そして、必ず着
2023年4月26日 20:31
「もうキスはいいよ。加護だらけになる」白い翼をもつ人間が、ぎろりと私をにらむ。扉の前に立たれては、外へ出かけられない。魔女である私がこの白い翼の人間をひろったのは、ずいぶん前だ。こいつは空から落ちてきた。昔から、翼をもつ人間は空で暮らしている。空に王国があるのだ。空は神聖なものだ。その神聖なものから、こぼれ出てきたもの。人間の形をした人間ではないものたちは、王国の者がみつけれ