【ショートショート】 悲願のはじまり


「おお、こっちだ! 早くこい」

手招きされた方へ、私は急いで席につく。
テーブルの上には温かな料理があった。
みな浮かれているのか、酒を飲んで談笑をしている。

「お前も飲め!」
「いや、俺は遠慮しておく」
「つきあい悪いぞ。一口でいいから、飲むふりぐらいするもんだ」

そう言って、酒を空っぽの杯になみなみと注ぐ。
俺は言われた通り、杯を傾け飲むふりをした。

「おお、いい飲みっぷりのふりだ!」
「それで、この集まりは、領主殺しの犯人をさがす輩たちで、間違いないんだな」
「ああ、その会議はもう終わって、今は宴会をしてるようなもんだが、宴会から来たやつは、そろそろ」
「静粛に!」

賑やかだった宴会が、しんと静まりかえる。
手招きした男も、人が変わったかのように真剣な面持ちで、声の主を見た。

「諸君! 忙しいなか、集まってもらい、非常にありがたい。それだけ、領主殺しに関心があることだろう。だが、ここでは手短に済まそう。この素晴らしき宴を崩したくないのでな」

声の主は、高らかに宣言した。

「領主殺しは、見つけ次第殺せ。ただし、殺すのは証拠をおさえてからだ。無駄な血を流させたくはない」

このときを待っていた。

領主だった父の仇を討てる。