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猫とパンと選ばれた道、それに贖罪

実は、私、ミケに謝らないといけないことがあります。

猫とパンの匂い、それは私の人生の中で不思議な繋がりを持つ二つの要素です。大学生の時、私はパン工場でアルバイトをしていました。初めて工場の扉をくぐった時、甘いパンの香りが鼻腔を満たし、思わず「ここで働くのも悪くないな」と感じました。その匂いには、何か心を安らげるものがありました。毎朝、焼きたてのパンが並ぶ光景は、まるで子供の頃の思い出の一部が再現されたかのように感じられたのです。

しかし、時間が経つにつれて、その香りは次第に変わっていきました。毎日、同じ場所で、同じ作業を繰り返す中で、あの甘い香りは次第に重たく、そして耐え難いものになっていきました。まるで一度は心地よかった春風が、突然、鋭く刺す寒風に変わってしまったかのように。廃棄されるパンの山も、最初は「こんなに食べられるなんて」と喜んでいたのに、やがてはその存在自体が重荷になりました。あれほど愛おしく思っていたパンの香りが、いつしか私を遠ざける何かに変わってしまったのです。

そんなある日、家の猫、ミケが急に体調を崩しました。いつもは元気に遊び回っているミケが、何か重いものを抱えているかのようにぐったりと横たわっている姿を見た瞬間、胸が締め付けられるような思いがしました。けれど、その日はどうしてもシフトが開けられない日でした。工場の人たちのことを考えると、簡単には休めないと分かっていました。「私の中で、ミケよりもパンが大事なの?」自問自答しながらも、結局私はバイトに行くことを選びました。急いで、母にミケを病院に預けてもらうお願いをして。

その日、工場での作業中、パンの香りは一層強く感じられ、まるで私に何かを訴えかけているかのようでした。「お前は本当にこれでいいのか?」と。その問いは、私の心の奥底にある迷いや不安を引きずり出すものでした。作業が進むにつれて、私はますますパンの匂いが嫌いになっていきました。まるで、あの匂いが私の選択の誤りを暴露しているかのように。永遠にも思われた勤務時間がついに終わり、私は急いで更衣室に戻って、スマートフォンを取り出しました。LINEの通知を確認すると、母からのメッセージが表示されていました。「大丈夫。一晩入院するだけだから。」その短い文に一瞬ホッとしたものの、すぐに罪悪感が押し寄せてきました。ミケが苦しんでいる間、私はパン工場でただ機械的に働いていたのです。愛おしいミケを置き去りにしてまで、パンを焼くことに価値があったのか?自問自答しながら、帰り道を一歩一歩重たく踏みしめました。パン工場の甘い香りがまだ鼻に残っていましたが、今となってはその香りが私をさらに苦しめるものでしかありませんでした。あの香りに満ちた工場の中で、ミケがどれほど苦しんでいたかを思い浮かべると、胸が締め付けられるようでした。私は自分を責め始めていました。なぜミケを優先できなかったのか、なぜもっと早くシフトを代わる方法を探さなかったのかと。

電車に乗り込むと、外の景色は無意識に流れ去り、私の内側には一層の暗闇が広がっていきました。頭の中にはミケのことが渦巻き、そして自分の行動への疑念が重なって、心は完全に混乱していました。私の選択は本当に正しかったのだろうか。パン工場での労働と、ミケの命の重みを比べることなどできるはずもありません。しかし、実際に私はその選択をしてしまった。自分を嫌悪する気持ちと、どうすることもできなかった現実とが、心の中でぶつかり合っていました。

そんな時、ふと前の座席に座る幼稚園児とその母親の会話が耳に入ってきました。幼稚園児が小さな手に握っていたのは、あの工場で作られたパンでした。「あたち、このパン、大好き!」と幼稚園児が笑顔で言うその瞬間、私は無意識にその光景に目を奪われました。その無邪気な笑顔が、私の心に刺さりました。ミケのことを思うと、その子の笑顔がさらに痛みを伴うものに感じられました。私が働いた結果が、この笑顔を生んでいるのかもしれない。その思いが一瞬よぎったものの、それでも心の奥底では、ミケをほったらかしにした自分への批判が止まりませんでした。それでも、その幼稚園児の笑顔は、私に一つの問いかけをもたらしました。「ミケを放ってまで、あなたの選択は本当に間違っていたのか?」この問いかけは、私の心を深く揺さぶり、内なる葛藤を一層激しくしました。自分の仕事が巡り巡って誰かの役に立っているという事実を知ることが、果たして私の選択を正当化する理由になるのだろうか?ミケの命を軽んじた代償として、その幼稚園児の笑顔があるのなら、私はそれをどう受け止めればいいのか。私の心の中で、パンの香りがまるで過去の選択を嘲笑うかのように漂い続けていました。しかし同時に、その香りは、私が誰かの生活に影響を与えているのだという事実を示すものでもありました。この二つの相反する感情の狭間で、私はしばらく揺れ動いていました。自分を責める一方で、その笑顔に救われている自分がいることも否定できませんでした。

翌日、病院で少し元気を取り戻したミケを見た時、私はようやく少しだけ安堵しました。それでも、罪悪感は消えませんでした。パン工場での仕事が辛いものだったことは変わりませんが、それでも誰かのためになっていたのだと、少しずつ自分を納得させるしかありませんでした。それは、私が選んだ道が間違いではなかったという、わずかな希望を見出すための自己防衛だったのかもしれません。人生の中で、私たちはしばしば自分の選択に疑念を抱きます。その選択がどれほどの意味を持つのか、どれほど他者に影響を与えるのかを考えると、恐ろしいほどの重みを感じます。それでも、その選択が誰かの笑顔につながるのなら、それがミケの存在を犠牲にしたとしても、少しは救われた気がするのです。私たちの小さな行動もまた、誰かの幸せに繋がっているかもしれない。それが私の心に残った、複雑な思いと共に。

-終

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