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中小企業の経営者に知ってほしい賃金制度の作り方#3

今回は前回に引き続き、「賃金水準」の考え方についてお話ししたいと思います。今回は、「労働力の需給」の観点でみる賃金水準です。

「労働力の需給」という視点で賃金の水準を考えるわけですが、”採用における競争力”と言い換えると理解しやすいかもしれません。

人材の確保に苦慮している企業は数えきれないほどあるのではないでしょうか。やはり、人材の確保についても、競合を意識することは必要だということですね。

競合との比較をする場合、いくつかの方法がありますが、中でもオーソドックスなものをご紹介したいと思います。

ただ、その前に2つ用意する必要があります。1つは、「実在者の賃金」です。これは言わずもがな、ご理解いただけると思います。

少なくとも「基本給」、「所定内賃金(基本給+毎月決まって支払う手当)」、「年収(所定内賃金×12+概算賞与)」の3つについて、年齢や勤続年数別にデータを整理しておきましょう。

続いて、用意してもらいたいもの2つ目ですが、それは「モデル賃金」です。

この「モデル賃金」とは、新卒で入社してたどる賃金の推移です。一般的には課長クラス(いわゆる管理職)までの道筋を設定したものです。イメージとしては、以下の図1にある通りです。このようなものを60歳ないし65歳程度まで作成します。

【図1】モデル賃金のイメージ

なお、モデル賃金と聞くと標準的や平均的というイメージを持つ方がいらっしゃいますが、それは違います。理想的な賃金の推移を表しているので、それなりに昇進・昇格する優秀な方を指します。標準的、平均的なモデルを描く場合は、あえて標準者モデルということもあります。

さて、ここで「中小企業でそんな新卒採用なんていないよ!」という声が聞こえてきました。確かに中小企業では中途採用がメインになっていることもしばしばです。しかし、その中途採用された人もどこかの会社で新卒採用されて、キャリアを歩んできたはずです。

ですから、新卒採用に力を入れる入れないに関係なく、”入社して何年勤め、どれくらいのキャリアを積めま給与はいくらとなるのか?”というのはあらかじめ設定しておきましょう。すると、中途採用の時に給与の提示を悩むことは、格段に減ります。

話は脱線しましたが、”実在者の賃金”と”モデル賃金”が揃ったら、図2のようなグラフを作成してみましょう。

【図2】実在者の賃金プロット図とモデル賃金の比較

上記の図で、折れ線グラフが入っていますが、これは厚生労働省で公開されている賃金構造基本統計調査を利用しています。それ以外にも、参考となるデータは無料で公開されているので、確認してみてください。

【図3】各種機関のモデル賃金等調査

これら公開されているデータの統計的な解析の部分は割愛をします。これらを用いる場合、”給与の中に含まれている手当の内容、用語の定義についてはあらかじめ確認”してください。

さて、これらの公開されたデータを入手したら、図2にあるようにグラフ化して比較をします。”ターゲットとしている年齢層や職種”のと比較して、差がどの程度あるのかを確認してみましょう。すると、自社の賃金水準上の競争優位性が分かってくるかと思います。

ちなみに、私は”インディード”で公開されている賃金データも参考として確認をします。こちらは最新の求人情報が集まっており、肌感により近いからです。

上の画像は実際に検索してみた画面です。公開されている賃金統計値ほど、精緻なものでなくても概ねの賃金相場が見えてきます。そのうえ、求人を確認するとさらに実態が見えてきます。

自社の給与が中央値よりも高い(支払い余力があるならば第三四分位くらい)”のであれば、ある程度、競争力があると判断していいと思います。

特に”初任給については競合を意識”して確認をしてください。結局のところ他社より高いのか?が論点になります。大卒、専門卒、高卒の水準はぜひ意識をしてください。

ここで少し話は変りますが、とても大切なので人材確保と賃金の役割について、考えてみたいと思います。

【図4】人材の流出と賃金の影響

厚生労働省の転職実態調査によれば、転職理由の上位3つのうち”第3位に賃金が低かったから”とあります。したがって、”賃金の水準は退職理由になりうる”と考えられます。

一方で、転職先として勤め先を選ぶ理由を確認すると図5にあるように、賃金の水準は上位にはありません。

【図5】転職先として現在の勤め先を選んだ一番の理由

皆様はこれを見て、興味深い結果だと思いませんか?

賃金水準が高いから”だけで仕事を選んでいるわけでないことが分かります。中小企業の経営者には朗報かもしれません。賃金水準が中央値程度であれば、”自社の仕事内容や仕事の醍醐味を訴求する方”がよさそうです(これはこれで、求人票の見直しなど楽ではありませんが…)。

ここまで採用における競争優位性としての賃金水準についてまとめました。こちらの情報が、給与の改定に役立てば何よりです。

次回は「賃金水準」でも”生活水準”という視点についてお話ししたいと思います。多くの社長から、「従業員の生活に十分な給与をうちは支払えているのか?」というご質問をいただきます。その点について、お話しできればと思います。

次回の記事も気長に待っていただければ幸いです(笑)

最後に、2023年10月12日に上場を目指す経営者に向け、人事と労務に関するセミナーを開催します。よかったら、ぜひ、参加お申込みください。


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