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これまでの問診、診察そして検査結果からすると、この患者の考えられる病気はあれとあれになる。年齢からすると治療法はこれか、いやあれしかない。

医師の仕事は科学的根拠に基づいた選択をする仕事と言ってもいい。この、「選択をする」という作業は、非常に脳に負担がかかると言われている。ある研究では、人は1日に35000もの選択をしていると報告している。そして、その選択も午後になってくると時間がかかったり、投げやりになったり、先送りにしてしまう。選択をするのにも、疲れが出てくるらしい。

とはいえ、選択は必ずしも苦しいものばかりではない。私が新潟に行くときは楽しい選択が待っている。私が新潟に行くときは、友人と酒を呑みに行くことと同意になっているからだ。

新潟駅の駅ナカには地酒の自販機があり、たくさんの利き酒ができる場所がある。沢山あると、どれにするのか迷ってしまう。幸福の選択だ。そして迷った結果飲んでみると、これはなんてまろやかな味なんだ…言葉では言い表せないと唸る酒と出会うこともある。
言葉は人に多大な影響を与えるもの。だから、言葉にしたいという気持ちもあるのだが、うますぎると言葉が出ない。色々と矛盾しているような気もするが、そういうものである。

なので私は新潟駅に行く時は、友人との待ち合わせ時間よりも、かなり早めに到着するように移動する。そして友人とまた会える楽しみと、酒を選べる楽しみに酔いしれている。

一つ言っておくが、新潟駅に行くのは酒だけが楽しみなのではない。友人と会うのも楽しみなのだ。だから、土曜日に友人に会うことが決まると、そのことばかりを考えてしまい、曜日感覚が狂ってしまうこともしばしばある。早く土曜日が来ないかなと思って、水曜日なのに、今日は木曜日だ!と思い込んでしまったり…。人間というのは、いくつになっても、楽しいことがあるとはしゃいでしまう生き物だと思う。

そんなワクワクを抱えて新潟に行くのである。友人と酒。これ以上に求めるものが他にあるだろうか。そうしてやがて友人が到着すると、内心はご主人様が家に帰ってきた時の犬のように喜んでいるのだが、表情ではスマートな感じで「よう」とだけ言う。大人のたしなみだ。

友人と思い出話や最近の話をしながら私の選んだ酒を酌み交わす。地球最後の日には何の酒を飲むのかぐらい悩んで決めた、逸品の酒。美味しい以外の感想は出てこない。私はそんな大人の遊びが好きだ。

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