【医師 童話】本と発達障害と子どもと
街のはずれにある図書館には、怖い司書さんがいることで有名です。
司書さんがいつも怒っているからかもしれません。でも司書さんが怒っているのにも理由があります。司書さんは本が大好きだし、本を読む人も大好きです。だけど、本を借りる人の中には、返却期限を過ぎても返さない人がいるから。図書館の本は、町の人が全員誰でも読むことのできる本なのに、ルールを守れない人のせいで、次に本を借りようとしていた人が悲しい思いをしてしまうことが、司書さんは許せないのです。
そんな図書館に入り浸っている子どもがいます。名前は、タカちゃん。タカちゃんは友だちと遊ぶよりも、本を読むのが大好きです。
おうちにある本を全部読み切って、図書館にある本も全部読み切ろうと、毎日毎日通っています。けれど、図書館にある本も、ほとんど読んだものの、心がワクワクするような面白い本には出会えていません。
「ここには、ないのかなぁ?」
タカちゃんが、キョロキョロとしていると、あの怖い司書さんと目が合いました。タカちゃんも図書館には通っていますが、まだ一度も怖い司書さんとは話したことがありません。
タカちゃんと目が合った司書さんは、タカちゃんの方に歩いてきます。
「どうしよう。怒られちゃう!?」
怒られる理由がわかりませんでしたが、家でもお母さんに怒られることがあるので、気づかないうちに何かをしてしまった可能性はあります。
ドキドキ
「ぼうや、この本を読んでごらん」
「え? 本?」
怒られると思っていたタカちゃんは拍子抜けです。司書さんが持ってきた本は絵本で、今まで見たことのないものでした。
「ただしこの本は周りに誰もいない時に読んでね」
タカちゃんはよくわかりませんでしたが、頷いて、その本を借りていくことにしました。
家に帰って、さっそくお母さんと一緒に本を読みます。絵本の内容はいつもお仕事を頑張っている、お父さんとお母さんに子どもが料理を作ってあげるという内容でした。ただ、美味しい料理の具材を探すために、子どもが冒険をするというもので、確かに面白いと思いましたが、それだけです。今まで読んできた本と何が違うのかがわかりません。
夜になり、司書さんは何でこの絵本を僕に進めたんだろう? と、タカちゃんは考えました。
「そういえば、1人の時に読んでって言ってた!」
言われた時は、意味が分かりませんでしたが、布団の中でこっそり絵本を開いてみます。
すると不思議なことに、タカちゃんは絵本の中に吸い込まれてしまいました。
タカちゃんは、絵本の中の男の子になって、魚を捕りに行きました。色々な人に教わりながら魚を釣るのは初めての経験で、とても楽しい夜でした。翌日も、布団の中で絵本を広げます。今度はお肉をとるために、みんなと協力してマンモスを狩りました。その次の日は、山菜。その次の日は、みんなで料理を。そのまた次の日は、お父さんとお母さんと一緒に食事をしました。
タカちゃんは、毎晩がとても楽しくて、こんな気持ちになったのは初めてでした。
日曜日になり、タカちゃんは借りていた絵本を持って図書館に行き、真っすぐに怖い司書さんのところに行きました。
「この本、すっごく面白かったよ!」
「それはよかったです」
タカちゃんは、司書さんに絵本のどういうところが面白かったのかを、一生懸命話しました。タカちゃんはいつも1人でいたので、誰かと話すのは珍しいことなのですが、タカちゃんは聞いてほしくて仕方なかったのです。
その後も、司書さんが勧めてくれたクイズの本や怖い話を狩りました。どの話も、やっぱり本の中に入ることができました。
タカちゃんは気が付くと、家の中でもよくおしゃべりをする子になりました。お父さんとお母さんは、顔を見合わせて驚いています。
そして、タカちゃんはお母さんと一緒に図書館に行きました。その時も、タカちゃんは司書さんに話しかけ、楽しそうに話をします。お母さんは、あの怖い司書さんとタカちゃんが仲良く話をしているのを見て、腰を抜かしました。
だけどだんだんタカちゃんは、本の中に入るだけでは物足りなくなっていきました。本の中で色々な人たちと話をするのが面白いと気付いたからです。
タカちゃんは小学2年生。
「今まであんまり話したことなかったけど、クラスの子とも話してみようかな?」
次の日。初めはちょっと勇気がいりましたが、クラスの子に話しかけてみると、すぐに輪の中に入れてくれました。そして友だちもすぐにできて、タカちゃんは読書以外の楽しみを見つけたのです。
今でも図書館に行って本は読みますが、友だちとも遊んでいます。タカちゃんは、本を通じて人間的にも成長したのでした。
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