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【医療コラム】 毒キノコ 危険だけど食べちゃう 石川県での診療経験

■ウイルス性胃腸炎、細菌性腸炎だけではない別の可能性


みなさんが、「嘔吐」「下痢」「腹痛」の患者さんを診たとき、ウイルス性胃腸炎、細菌性腸炎といった鑑別疾患をあげるでしょう。しかし、私の母校のある石川県では、「毒キノコ」も鑑別にあげないといけません。

「毒キノコ」っていっても対症療法しかないだろうと、思ってしまうかもしれませんね。でも石川県の「毒キノコ」の場合は、この後の展開が違います。救急外来などで、感染性胃腸炎だろうと決めつけて、大した問診もせずに入院で経過観察するうちに、「神経症状が出始めた」なんてことがあるのです。

■キノコ好きが多い県民性


実は石川県の能登地方には「コノミタケ」といわれる、マツタケと同等もしくはそれ以上に取引されるキノコがあります。生えているところは、たとえ家族だろうと教えない。秘伝のキノコなのです。香りはマツタケ以上。そう聞くと興味が湧きませんか?

■毒に魅せられて


私が診察したキノコ採りの名人は、こう言います。
「毒キノコかどうかは絶対にわからない。これまでに大丈夫だったキノコだけをとる。これが鉄則なんだ。だからキノコ採りは絶対に毒キノコなんかとらねぇ。でもな、図鑑にも載っていないし、見たことねぇキノコは食べてみたくなるんだよ。まさに毒に魅せられるんじゃ。とくに、マツタケやコノミタケに似通った「モドキ」なんか食べたくて食べたくて仕方ねぇんじゃ。何度も何度痛い目に合ったけれども食べたくなるのは、それだけキノコはうめぇってことだ。そんな中でも、このあたり(能登)では、マツタケとコノミタケのことは「コケ」って言うんだけど、それ以外は雑コケって言うんだよ」

実際に毒キノコは1種類ではなく、何種類も食べている可能性があるので、どんな症状が出るかなどわかりません。それまで安全として考えられていたキノコが、あるとき突然、毒キノコと認定されることもあります。例えば「スギヒラタケ」などは、2004年以降、脳症を引き起こす可能性があることが分かったキノコです。

■好きだからこそ、どんな目に遭っても食べてしまう


たかがキノコなのにそんなに美味しいの?

それは人それぞれかもしれません、私などエリンギ、しいたけ、しめじ、マツタケ、舞茸、マッシュルーム……。それで充分です。リスクを冒してまで、毒キノコの可能性があるものを食べたいなど思いません。

ただ、私は生牡蠣に何度あたっても食べますが、私の妻はカキフライは食べますが、生牡蠣は一度あたって下痢嘔吐をきたしてから、すっかり食べなくなりました。それでも生牡蠣を食べてしまう私は、毒キノコかもしれないものでも食べてみたくなる人と同じなのかもしれません。好きだから、痛い目にあたっても食べてしまうのです。

私の友人医師など、医師でありながら何度も何度も毒キノコにあたっても、キノコを食べています。キャンプ好きが高じて、いわゆるキノコ山を80万円ほどで購入して、キノコ狩りの時期など毎週のように自分の山でキャンプをしているのです。私の牡蠣と同じく、それだけキノコが好きだということです。

これはまさしく、「コノミタケ」が生息する石川県ならではの文化でしょう。

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