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送る先のないクリスマスカード

11月の終わりには、ミュンヘンはクリスマスムード一色になる。街のあちこちでクリスマスマーケットが開き、大勢の人がクリスマス柄の可愛らしい陶器でできたカップに入った Grunwein(グリューンワイン)を片手に嬉しそうだ。お店でとっても可愛いクリスマスカードが並んでいたので日本のバイオリンの先生に送ろうと思いつき、購入した。
家に帰り、早速クリスマスカードを書き始めた。前の日記にも書いた通り、先生はレッスンのたびに僕を褒めてくれた。毎週先生に褒めてもらうのが嬉しくて、毎日頑張って練習した。高齢の先生は入退院を繰り返すようになった。一度は心臓が止まってしまい、魂が部屋から廊下に出て、すっとまた体に戻って生き返ったと退院後話してくれた。入院中にお母さんに先生から2回電話がかかってきた。”彼はバイオリニストだよ。お母さんは真剣に捉えて、サッカーをやめてバイオリンに打ち込むべきだよ。本気でやるなら先生を紹介するよ” と言ったらしい。
先生にドイツで、良い先生に出会えたことや、細かい指導で上手くなったことを伝えたかった。
クリスマスカードを書き終えて、住所を書こうと先生のホームページを開くと、先生の訃報の知らせが目に飛び込んだ。信じられなかった。もう会えないし、上手くなったバイオリンを聞いてもらえないと思うとすごく寂しい。また褒めてもらいたかった。上手くなって一番喜んでくれる人がいなくなってしまった。
僕は気づいた。僕がドイツに来て、すぐ良い先生に巡り会えた奇跡は先生の魂がドイツまで飛んできて、繋いでくれた縁に違いない。でも僕はまだサッカーをやっている。天国の先生は早く辞めてバイオリンに打ち込めと言ってるかな。ちなみに今の先生にはバイエルンミュンヘンに行くならバイオリンを趣味にしていいが、それ以外ならバイオリニストになってサッカーを趣味にしなさいと何度も繰り返し言われている。
もうすぐタイムリミットだ。今僕にできることは両方ベストを尽くすことだけだ。
        

先生が入院してしまったので生徒全員が自力で練習して行われた発表会。先生は絶対安静の中病院を抜け出して車椅子で見にきた。僕の演奏を聞いて素晴らしかったよとまた褒めてくれた。

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