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ライトノベルの賞に応募する(19)

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食事を用意してくれたのは、高瀬さんという人だった。3人は、僕に何かを聞くということもなく、朗らかに会話をしていた。でも僕の食事のスピードに3人とも合わせてくれている。先に食べ終えるということもなく、かといって全く食べないというわけでもない。僕はスープにだけ視線を落としていたが、その和やかな雰囲気に合わせて、次第に顔を上げられるようになった。
高瀬さんが僕に会話を向ける。
「シュウ君、明日の予定分かる? シュウ君は学校と、ミワちゃんは幼稚園だけかな?」
「…はい。」
「そしたら、明日はお休みしてもらわなくちゃいけないから、こちらから連絡を入れておくね。ほかに習い事とかはない?」
「あっ明日はないですが、サッカークラブに通っています。」
「シュウ君はサッカーをするのね。」
荒井さんが言葉をつなげる。
サッカークラブのことを思い出して、急に不安になってきた。
「あの。僕たちは、いつまでここにお世話になるんでしょうか? 明日で帰れますか?」
「明日かー。」
荒井さんが返事をする。
「明日はちょっと難しいかもしれない…。」
松波さんが答えた。
「でも、僕早く帰らなきゃ!」
「ご家族のことが、心配なのかな?」
高瀬さんが言う。
「…。それもあるんですけど…。僕、サッカー休めません。休めないんです。」
「サッカーはここでもできるよ?」
荒井さんが首を傾げた。
「ダメなんです。サッカークラブに行かないと。僕、休めないんです。」
「何か、事情があるのかしら?」
松波さんが聞いた。
「…。」
3人とも僕の答えを待っている。
「…。ダメなんです、行かないと…。折角選ばれたのに…。」
僕は一人ごとのように呟いた。
「何かあったら、教えて?」
松波さんが僕に続きを求める。
「カレンダーありますか?」
僕は顔を上げて行った。
「持ってくるね。」
そう言うと、高瀬さんが席を立った。
「僕、やっと選ばれたんです。セレクションに…。」
「セレクションってなに?」
荒井さんが僕に聞く。
「…サッカーの試験です。今日僕…サッカークラブで、今回の代表になれたんです。…だから行かないと…。」
高瀬さんが卓上のカレンダーを持って帰ってきて、僕に手渡してくれる。
今日は木曜日だ。
「今日11日ですよね?」
僕は言った。
「起きたら12日ね。」
荒井さんが言った。
コーチは再来週の土曜日と言っていた。
「火曜日と木曜日にサッカースクールがあるんですけど、再来週の土曜日にセレクションがあるんです。」
「再来週の土曜日って27日?」
3人とも僕のカレンダーを覗き込んでいる。
「…27日。それまでに帰らないと…。タカシと練習もしなきゃいけないし…。」
僕はカレンダーを一日づつ数えた。15。15日だ。
「さすがに、帰れますよね?」
松波さんが言いずらそうに口を開いた。
「どうだろう。まだはっきりしたことは言えないけど、難しいかもしれない…。」
「えっ? なんでですか? 2週間もここに居なくちゃいけないんですか?」
松波さんが、僕に向き直って続けた。
「あのね、シュウ君。あなた11歳よね?」
「…はい。」
「あなたは、未成年で、保護される立場にあるの…。わかる?」
「…。でも僕が殴られたわけじゃないし…。大丈夫です。」
「警察の人に聞いたんだけど、あなたがミワちゃんの面倒を全部見てるって…。」
「…はい。妹はまだ小さいので…。」
僕は怒られるのかと思った。
「あのね、妹さんの面倒を見てるってすごく偉いわ。でもね、それは本来はオトナがやらなくちゃいけない事なのよ…。」
「…?」
僕は言われている意味がよくわからなかった。ミワは小さいから、僕が面倒を見るのは当たり前だ。
「本当はね、お父さんとか、お母さんが、やらなきゃいけない事なの。あなたが背負うことではないの。」
「…?」
「ネグレクトて聞いたことある?」
「…ないです。」
「育児放棄、って意味なんだけど…。シュウ君はしっかりしてるからよく聞いてね。」
松波さんが言葉をつなげる。
「シュウ君とミワちゃんは、今回暴力を実際に振るわれたわけじゃない。でもね、オトナに生活の面倒を見てもらわなきゃいけない年齢なのよ…。それを保護者の方にしてもらえないっていうのは、暴力を振るわれるのと同じ、虐待を受けてるってことになるの。」
「っえ?」
ギャクタイ ヲ ウケテル? 僕が?
「僕、虐待なんか受けてません!」
僕は勢いよく立ち上がって、大きな声を出してしまった。
「僕も、ミワも、虐待なんか受けてません。」
3人はびっくりした顔をしていた。
となりに座った荒井さんが、立ち上がって僕の肩に優しく手を添えてくれた。
「そうね。そうよね。でも落ち着いて座って? ね?」
荒井さんに言われて、僕は背筋をピンと伸ばして腰を下ろした。
「そう。シュウ君は虐待を受けていないか、それを確認する必要があるの。わかる?」
松波さんが優しい声で続けた。
「今回ミワちゃんは、お父さんがお母さんに暴力を振るう所を見てしまったのよね?」
「僕はサッカーに行っていて、知りません。」
毅然として言った。負けてはいけない気がした。
「警察の人の話だとね、ミワちゃんは、お父さんがお母さんに暴力を振るう所を見ているって話なのね? それに、お父さんとお母さんは、口論が絶えなかったって聞いてるけど、本当?」
「…はい。母が夜遅く帰ってくると、父とケンカをしていました。でも暴力はないです。」
松波さんが続ける。
「あのね、シュウ君とミワちゃんがそういうところを見てしまうのも、私たちの考える、虐待に入ってしまうの。だからね、シュウ君とミワちゃんの安全をしっかり確認できないと、おうちに帰すことはできないのよ…。わかる?」
「…。」
「警察の人からね、お母さんのお怪我が酷かったお話も聞いてるのね? それにシュウ君はミワちゃんの面倒だけじゃなく、ご家族のご飯の用意も、お掃除も、お洗濯もしているのよね?」
「…それは。母が仕事で忙しいから…。」
「シュウ君は全部自分でやって、すごく偉いと思う。でもね? あなたもまだ11歳なの。保護者の方に面倒を見てもらう年齢なのよ。わかる?」
「でも、できます。」
僕は松波さんをまっすぐ見て、はっきりと言った。
「だから、家に帰っても大丈夫です。」
「…。」
3人は言葉を失っている。攻めなきゃ。寄せて攻めて、勝たなきゃ。勝たなきゃ意味がない。
「ご飯の準備だって、洗濯だって、掃除だって、ミワの面倒だって、僕にできます。だから明日帰してください。」
僕は、背筋をピンと伸ばして、はっきりと言った。僕にはできる。ずっと僕がやってきたんだから。
「そうね、シュウ君はすごく偉いのね…。」
荒井さんが優しく言葉をつなげてくれた。
「でもね、その状況が、シュウ君の、本当なら、シュウ君がシュウ君のために使う時間を、自分のためだけに使う時間を奪っちゃってるかもしれないでしょ?」
松波さんが言葉をつなげた。
僕が、僕のためだけに使う時間?
「シュウ君が、おうちに帰りたがってるのはよくわかった。明日また詳しいお話を聞かせてくれる?」
松波さんが続けた。
「今日はもう遅いから、お風呂に入って寝ましょう? 明日続きを聞くからね…。」
僕はからのお皿に視線を落とした。ダメだ言いくるめられてしまう。
「僕もミワも、そんなに学校や幼稚園を休むわけにいかないし。早く帰してください。」
僕は、視線を松波さんに戻して、はっきりと言った。
「…そうね、そうね。」
荒井さんが優しく言ってくれる。
「わかった。じゃあ明日お話を聞いて考えましょう。」
松波さんが言った。
「話すことなんてないです。早く家に帰してください!」
僕は負けない。
「わかった。わかったよ。」
松波さんが言った。
「じゃあ、明日家に帰してもらえますか?」
3人とも黙り込んでしまった。
今約束をしないと、勝てない。そう思った。
「とりあえず、お風呂に入りましょう?」
荒井さんが言った。
「お風呂のお湯沸かしてあるのよ。今日は疲れただろうから、ゆっくりお風呂に入っておいで。」
荒井さんが優しく言う。
ダメだ、今約束をしないと、言いくるめられて負けてしまう。
「明日、僕たちは家に帰ります。」
松波さんの目をまっすぐ見て、はっきりと言った。
松波さんが先に目線をそらす。高瀬さん、荒井さんと視線を移すが、二人とも目が合わなかった。
黙っていた高瀬さんが、目線を落としたまま、口を開いた。
「私たちは意地悪をしたいわけじゃないの…。」
そう言うと僕の目を見た。
「二人の味方になりたいと思ってるの…。」
「…。」
「信用してもらえないかな?」
松波さんも、荒井さんも僕を見ていた。
松波さんが続ける。
「シュウ君は、27日の土曜日にサッカーに行きたいから、家に早く帰りたい。そうね?」
「はい。練習もあるんで。」
「わかった。そのことは忘れない。今は約束できないけど、シュウ君の思いはわかった。」
「クラブに入って、1年頑張ったんです。クラブからたった二人の代表に選ばれたんです。このセレクションに通れば、プロになることだって、夢じゃないんです。」
「わかった。」
松波さんが言った。

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