超こわくない話(ギャグ劇団笑)『1mmの女幽霊』
「新入り警備さん。この昭和初期に創設された私立小学校は、気味の悪い話がいっぱいあるんだ。ぶるぶる……」
校長は震えながら、警告をしてきた。
真夏。臨時警備のアルバイト。
当直勤務はすぐやめてしまい、なり手がいないのだという。
恐ろしく古い校舎だった。
隣に建設中の校舎が見えている。来春、取り壊しするまでこの奇怪な校舎で授業を続けるらしい。
新校舎の警備に人員を取られてしまい人手が足りないのだ。
校長は“この若造で、本当に大丈夫か?”という疑心暗鬼の目で見ている。それでも僕をクビにできないことで、人手不足の状況が切羽詰まっていることがわかる。
(気味の悪い話?)
僕は、またかと思った。
僕は、お寺の息子。
本当は怖がり。見たくないが、見えてしまう。
でも絶対に僧侶になりたくないので、警備員のアルバイトをしている。
「どんな、奇怪な話があるのです?」
「1mmの女幽霊」
校長は告げた。
「創設当初、戦争の空襲で死んだ女性教員の霊らしい。噂の出どころはよくわからない。知りたくもないし」
「空襲?」
「うん。でも暑い夏は背筋が寒くなってクーラー要らずで、ちょうど良いかもね。さよなら」
校長は青い顔をして、さっさと帰っていった。
確かに古い校舎は、不気味だった。
夜の巡回をしていると、『実験室』の看板が見えてくる。
ここで、今も理科の授業を行っているのだ。
奇怪な噂があるのは、この部屋だったはず。
懐中電灯に照らされる室内。筋肉組織がむき出しになった人体模型や、白骨化した死体のような骨格標本。
背筋が寒くなる。
棚の隙間や床の端まで調べ上げる。
僕はホッとした。幽霊などどこにもいない。
電子顕微鏡がいくつか並んでいた。新校舎を建てるので、地元企業から寄贈されたといっていたはずだ。
マイクロスコープのついたデジタル顕微鏡。巡回の時に、ぶつかって壊さないように言われている。
高くても、20万円くらいだろう。
それでも今の僕には大金だ。とても弁償できる金額ではない。
顕微鏡のスコープを覗き込んだ。
「あ」
女が手を振っている。小さな女。1mmどころじゃない。
「今の私、0.2nm(ナノメートル)」
「生前、理科の授業を担当していたの。研究好きで微生物と生きるのが夢だった。当時は顕微鏡がなかったから、こうして死んでから夢をかなえたの。小ささの限界まで挑戦するつもり」
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