セノネース

ラテン語とか古典ギリシア語とかを勉強している大学院生。本を読んだり、人と対話したり… もっとみる

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ラテン語とか古典ギリシア語とかを勉強している大学院生。本を読んだり、人と対話したり、ことばを学んだりするのが好きです。ギリシア語家庭教師をしています→Twitter(@lingua_graeca_)

最近の記事

ホメロス叙事詩はラップバトルか

古代ギリシア最古(紀元前8世紀後半ごろ)の作品として知られるホメロス叙事詩『イリアス』『オデュッセイア』。 アメリカの hip hop カルチャー発祥のラップバトル。 一見すると突拍子もない組み合わせに見えるかも知れません。しかし、その二つを結びつけるキーワードがあります。そう、「リズム」、「即興」、そして「伝統」です。順番にお話ししましょう。 リズムホメロス『イリアス』、『オデュッセイア』を日本語で読もうと思い立った人は、おそらく岩波文庫を手に取ると思います。あるいは

    • イソップ寓話で学ぶ古代ギリシア語

      イソップ寓話のことを聞いたことない人はまずいないと思います。 しかし、イソップが実は古代ギリシアにルーツをもつことはあまり知られていないかもしれません。 イソップというのは人の名前で、ギリシア語ではΑἴσωπος(アイソーポス)といいます。歴史家であるヘロドトスは、このアイソーポスがイアドモンという人の奴隷であったと記しています。しかし、アイソーポスさんがどのような人物であったのか詳しいことはよくわかりません。 どのような経緯で日本にまで定着するほどに人工に膾炙するよう

      • 『教養としてのラテン語の授業』の気になったところまとめ

        まず 言いたいのは、私はこの本を悪く言いたいのではない、ということ。 この本のコンセプトは良いとおもいます。いろんなラテン語を引用しながら、著者のハン・ドンイルさんが自らの人生観を織り交ぜて話していくスタイル。 ラテン語の楽しさをいろんな人に味わってもらいたいと願う、ラテン語愛好家の一人として、この本が日本語に訳されたのは喜ばしいことです。内容に関しては、もちろん合う・合わないはありましょうが、私は楽しく読みました。 ただ、ラテン語の誤りがたいへん多く目に余るので、自

        • 「西洋古典学」ってなんだ?をわかりやすく書いてみた(おすすめブックリスト付)

          ——今日は「西洋古典学」について話してみます。 西洋古典学というのは、ざっくり言うと、「西洋古典」を研究する学問です。 ——確かに、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』は「西洋」の「古典」ですよね。 しかし、シェイクスピアの作品を研究するのは、英文学の専門になるのが通例だと思います。 西洋古典学が対象とするのは、主にギリシア・ローマ世界の文物です。 なんで?と思いますよね。 というのも、「西洋古典学」は英語では Classics(クラシックス) とか Class

        ホメロス叙事詩はラップバトルか

          「まいにちホメロス」まとめ②——死すべき人間と撞着語法

          Twitterで好評(?)のまいにちホメロスシリーズのまとめです。 まとめ①はこちら。 「古典」ギリシア語に「実用性」なんて言葉は不適当だと思われるかもしれません。 しかし、たとえ「古典」ギリシア語であっても、それは昔、実際に口にされていた言葉なのです。 たしかに、ホメロス叙事詩の言葉は韻律に従っているので、その意味では実際の口語ではありません。しかし、言葉が音として発音され、意味を伝達していたという、しごくあたりまえの事実は、古典語においては忘れられてしまうことも多

          「まいにちホメロス」まとめ②——死すべき人間と撞着語法

          「まいにちホメロス」まとめ①

          いつもTwitter、noteをご覧くださりありがとうございます。 もし気にいってくだされば、記事執筆の励みになりますので、 サポートしてくだされば幸いです。 さいきん始めた「古典ギリシア語家庭教師」というTwitterのアカウント(@lingua_graeca_)で、2023年1月15日から、ホメロス叙事詩の『イリアス』、『オデュッセイア』、そして『ホメロス讃歌』からランダムに詩句を引いてご紹介する、「まいにちホメロス」という試みをしています。 ↓こんなかんじ このよ

          「まいにちホメロス」まとめ①

          noteのサポートをしてくださる皆様、 いつも本当にありがとうございます!!😭 これからも精進いたします。 よろしくお願いいたします🙇‍

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          修士論文のスケジュールと所感と

          修士論文を書き終えました。いや〜無事提出できてよかったです。色々と大変なことはありましたが、なによりも提出期限が12月6日とやけに早かったので、それに間に合わせるようにスケジュールをたてるのがいちばんの課題でした。 学部の時は2月提出だったので余計に早く感じました。 情けないことに、つまらないミスで2回も窓口で弾かれました。博士課程の願書にミスがあったことと、予め出していた題目と「大文字小文字が違う」という理由(!)で。 僕は時間に余裕を持ってやってたので間に合いましたが

          修士論文のスケジュールと所感と

          いつもサポートしてくださるみなさま、本当にありがとうございます😭 温かい励ましをいただきまして、記事更新の糧となります。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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          「アプロディーテー讃歌」序文のギリシア語解説

          このnoteの写真は、わたしがギリシア旅行に行ったときに撮影したものです。この像は愛の女神アプロディーテーに牧神パーンが激しくアプローチしている様子が描かれており、パーンの角をエロースがつかんでいます。このようにアプロディーテーは愛の力で人々のみならず神々もまた支配する、ある意味おそろしい女神であることがわかります。エロース(愛)といえば、ロンゴス『ダフニスとクロエー」にこんな言葉があります。 ギリシア語中級への道——『ダフニスとクロエ』をギリシア語原文で読むという記事も書

          「アプロディーテー讃歌」序文のギリシア語解説

          ギリシア語アルファベットを学ぼう!資料

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          ある日のインドカレー屋さん

          疲れた ソファーにうずくまること約1時間。そろそろ腹も減ってきたし動かなければならない。 疲れたア さいきんは朝からランニングをする習慣を身に付けている(あるいは身に付けようと試みている)。走り終えてシャワーを浴びる時間は気分爽快なものの昼頃になるとドッと疲れが押し寄せてくる。 冷蔵庫になにかあったっけと見てみるが心惹かれるものはない。戸棚には未開封のパスタが2袋あって「もう歳なのか?!」と閉口する。 そうだ、インドカレー屋さんに行こう インドカレー!なんて素敵な

          ある日のインドカレー屋さん

          ギリシア語中級への道——『ダフニスとクロエ』をギリシア語原文で読む

          この記事に関する質問やコメントに関しては、このnoteのコメントかTwitterのDMでいただけますと幸いです。 ☆ 本noteは次のような方々を念頭に書かれています。 本noteの特色は、ギリシア語初級者の学習者を念頭に置き、語学力を上げることを目指している点です。なので、全ての単語をひとつずつ語形分析することはせず(※)、ギリシア語を読むときに「なにを」「どう考えるべきか」の道筋をできる限りわかりやすく示します。思考のプロセスを追うことで、ギリシア語を読むために必要

          ギリシア語中級への道——『ダフニスとクロエ』をギリシア語原文で読む

          ホメロス叙事詩に学ぶアンガー・マネジメント

          はじめに暑くなってきましたね。暑いとイライラしたりカッとなったりすることがあるかと思います。私自身はそんなにイラっとすることがないタイプの人間なのですが、思い返してみると怒りを覚えたことが何度かあります。 〜回想〜 一度目。高校生の時にクラスメイトが集まって卒業パーティをしていたときのこと。クラスメイトにいきなり殴られたこと。そのときは怒りよりも頭が真っ白になってしまいあとあとになって思ったけど、なんで殴られなきゃならなかったんだ。 二度目。昨年度末に帰省のため新幹線に

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          聖書のギリシア語を読む——コイネーギリシア語の旅

          初めにキリスト教の聖書は主にヘブライ語とギリシア語で書かれています。「旧約聖書」と呼ばれるテキスト群はヘブライ語(少しだけアラム語のところもある)、「新約聖書」と呼ばれるテキスト群は「コイネーギリシア語」(「コイネー(=共通の)ギリシア語」という意味)で書かれています。 このnoteでは、「聖書を原文で読んでみたい!」という人のために、できるだけ分かり易くギリシア語を解説してみました。選んだテキストは『ヨハネによる福音書』の冒頭です。この箇所は聖書に触れたことがなくても聞い

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          語学者という生き方:関口存男

          私が関口存男という名前を聞いたのは大学に入って二年ほど経った夏休みごろ、この夏はドイツ語を一丁仕上げてやろうと思い立って『関口・初級ドイツ語講座』を手に取ったときであった。日本のドイツ語学習者で彼の名前を知らない者は少ない。この人はまさに語学者と呼ばるるに相応しい人物だと思われる。 そんな関口の人物像を詳しく伝えている本に『関口存男の生涯と業績』(三修社, 1959年)がある。彼に関わった者たち——身内や弟子や同僚——が文章をかき集めて作られた分厚い本である(古いものなので

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