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冬の花火 〜才の祭 小説部門応募作品

ねぇ、星降る花火をみたこと、ある?
空いっぱいに、パァッと広がった花火がね、
ゆっくりゆっくり落ちてくるの。
そのキラキラに焦がされそうで、
「危ない!」ってところで、スッと消えていくんだよ。



パソコン画面の向こうの梨香が、上を見て空を割くように大きく腕をまわし、“危ない”のところで身体を縮こませる。

「わかる?それがね、星空の中にいるみたいで、すっごく神秘的なの。」
顔がグッと近づいて、画面全体で力説する。

「へぇ、そんなにすごいんだ。」
「うん、お腹にね、音がズドンと打ち込まれたように響くんだよ。」

今度は、お腹をおさえてひっくり返っていた。
僕は思わず、笑ってしまう。

「その迫真の演技見てたら、本物観たくなったわ。」
「でしょ⁈ 行けるようになったらさ、優吾、一緒に観ようね。」
「オッケ、わかった。」



僕たち2人の初めての夏は、緊急事態宣言で、毎晩リモートで会話をするのが日課だった。夏が好きだと言う梨香は、遊びに行けない鬱憤を画面越しでも存分にはらした。今すぐにでも直接会いたいけど、未来の約束があれば、梨香が近くに感じられる。明るい梨香に救われている。




「うわー!キラキラの渦!キレイだねぇ。」
やっと、全国的に宣言が解除されたのは、彩る秋とオバケカボチャを通り越し、あちこちで初雪の便りが届く頃だった。
お楽しみを取り戻すように、自由を祝福するように、街のイルミネーションは、今までの何倍も輝いていた。

隣を歩く梨香が、あっちもこっちもと指差している。
その瞳に煌きが映って、思わず見惚れる。
「どうしたの?」
慌てて目を逸らす。あんまりキザな台詞は、言えない自分がもどかしい。
「いや、別に。それより寒くなってきたな。手が冷たいよ。」
繋いでいても、冷えてきた手をさらに強く握る。
「そう思ってた。寒いよね、家行こう。」
梨香が、ブルっとする。



夜ご飯は、僕の部屋で2人で作った。
久しぶりの時間を、雑踏に紛れさせたくなかった。
2人きりでのんびりしたい。この想いが同じだったことも、梨香に居心地良く感じるところだろう。

それに家時間が長かったから、お互い料理の腕をあげていた。思わぬ得意料理に、ビックリしたりして。テーブルの上は、たちまちいっぱいになった。
2人で取り分けて、美味しい!とか、今度レシピ教えてなんてしゃべっていたら、1人で食べるよりお腹も心も膨らんだ。
温かいご飯を一緒に食べることが、こんなに嬉しいなんて。改めてその大切さを、感じる。




皿洗いを終えて、一息つく。
このタイミングに、僕は動いた。

「こちらへどうぞ。」
梨香を、部屋の真ん中のソファーに誘導する。
「何、何どうしたの。」
「いいから、真ん中にちょっと上向きに座って。
はい、これ。」
うちわを渡す。
「はい、次これ。」
冷えたビール缶も握らせる。
「え?ずいぶん用意が……。」
「いいから上見てて!いくよ!」


僕は、電気をすばやく消して、準備したプロジェクターを付ける。

「わぁ!すごい!」

梨香の顔がほころぶ。


部屋の壁、天井一面に無数の花火が打ち上がる。
色とりどりに大輪に光が流れる様を、2人で肩を並べて眺める。

「ね、星が降ってるね。」

梨香が、俺の肩に半身起こして寄りかかる。
「覚えていてくれたんだ。ありがとう。」
「一緒に星降る花火見る約束、今年はこれだけど、来年は、本物を見ような。」
「うん!でも、これも悪くないよ。2人占めだし。」


梨香の瞳に反射した光が潤んでいる。
また、僕は見惚れる。

「もうすぐ一年になるんだね。」
その瞳が、真っ直ぐに僕を映す。
「半分くらい会えなかったけどね。でも、梨香とのZoomのおかげで寂しさはまぎれたよ。」
「本当?なら良かった。でも、やっぱり隣にいたかったな。」
イタズラっぽい瞳。
やっぱり一生懸命盛り上げてくれてたんだね。


「ちょっとそっちのクッション、取って。」
僕は梨香の横を、指差す。
「これ?はい…あれ?何かある。」
「開けてみて。」
上体を起こした梨香のシルエットを、花火が彩る。

「オリオン座だ!可愛い。ありがとう!」
「1周年記念。あの日、オリオン座見えてたからさ。」
僕は、そのネックレスをつけてあげる。
夏の花火を浴びる、冬の星座。
一年経っても変わらない笑顔。


「実はね、私からもあるよ。
サプライズは、温かいものの中!」
「え!まさか!」

僕はキッチンに走り、スープの鍋をのぞく。
梨香が笑い転げている。
「さすがにそこはないよぉ。でも、近い!」

「近い…の?」
薄暗い中を、ゆっくり周りをみる。
テーブルまで来た。「もう少し!」
「あ、これか?」
紅茶のポットカバーを持ち上げると、ラッピングされた包みがあった。


「正解!持って来て、早く!」
「ちょっと温まってるけど?大丈夫⁈」
「いいから、開けて開けて。」

現れたのは、フワフワの手袋だった。
しかも、温かい。ホカホカ手袋。
「最高の状態じゃん!サンキュー。」
僕は左手をはめて、右手を梨香にはめる。
そして、手を繋ぎ、2人並んで再び途切れることない花火を見上げる。


イルミネーションもキラキラの花火も、散っていく。片方ずつの手袋をつなぐ人工の熱が冷めても、ずっと2人の手と心の温かさが続きますように。

夏と冬が交差する部屋で。
「次は、花見かな?」「私、穴場知ってる!優吾に教えるね。」
2年目の約束が、花開く。

花火は上り続ける。
半年後の本物にも、きっと負けないこの瞬間に。
2人は笑いながら、星降る夜の光を浴びる。


           +

こちらの小説は、この才の祭企画に書きました。

小説っていうか、シナリオっていうか、文章にならなかったかなぁ。
自分で悔しいので、もう一つ書くかも笑

ステキな豪華なクリスマス企画です。
PJさん、教えていただきありがとうございます😊
物書きの、皆さんも、是非に是非❣️🎄

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