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「私のこと好き?」

「……ねぇ、私のこと好き?」

少しアンニュイな感じで眼を見るでもなく、ネイルサロンに行ってきたと喜々として報告していた真新しく煌めく爪先のホログラムを、窓から差し込む夕陽に照らしながら問いかけてきた。

あ、これはマズイやつだ。

全ての感情を押し殺した無表情な声。
確実に怒っている。
そして確証をもっている。
あたふたと自分の機嫌を取ろうと慌てだすであろうことを。


「私のこと好き?」と「○○と私、どっちが大事?」を簡単に言える人間を尊敬する。
自己顕示欲の塊みたいに、何よりも自分が最優先されるのが当たり前だと信じてやまない精神が見え隠れする。

絶対に“私が傷つく答えなんて存在しない、いやさせない” その自信はどこから来るのだろう。
きっと今まで培った、大きくなったらプリンセスになる思考が為せる、ありとあらゆる手段を使って私が振り向かせて私の虜にさせたんだから、ワガママだって可愛げのうちでしょ?理論。

まあつまり簡単に言えば、自分をたまに持ち上げて相手に価値を再認識させておく手段。

カゴの鳥も、たまにはつっつくのよ。

一部の高嶺の花だと信じてやまない美貌と年齢層の特権。


あーあー、ほら。

あの手この手でなだめすかしてるよ、男はね。
甘えられるのに弱いから。
強くならなきゃって生きてきた女じゃなくて、選んじゃうのよ顔と中身の美しさが違うのを。



あたしは見てられなくて、欠伸をして夕陽がまだ差し込むクッションに丸くなる。

彼は、あたしをもうあまりなでてくれなくなった。
あの温かい手は、ここにはない。
あたしは一人で長く生きてきたから、あんな器用に、できないよ。


あの大雨の日に、ずぶ濡れのあたしを抱えて必死でタオルで拭いて家に入れてくれた彼との甘い日々をうとうとと思い出す。

「ニャーン」
小さく鳴いても聞いてない。
「ずっと一緒にいような」
って言ってくれた日の夢におちていく。




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