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2020の集大成(後編)

フィルター越しの青色よりも肌を撫でる海風の方が鮮明に残った夏、陽に目を細める横顔に惚れる夏、自然体の自分が心から開けた夏、ちょっと物足りないが似合う夏。少し背伸びしてバイクに乗せてもらった三日間。高校生だったみんながいつの間にか大学生になっていて、行きたい場所へいつでも飛ばせる能力を持った。学校で数回しか話したことなかった人の腕は一日目で既にこんがり焼けていて、ウエストは引き締まっていた。声はヘルメットと風でこもって聞こえにくかったから、お互い適当な相槌を打つ。それでも体温で繋がってたと思う。夜景を観ようと、道路照明灯のないガタガタの山道をグーグルマップに導かれ、何に出会すか予想できないような暗闇の中、バイクのライトだけを頼りに登山。吊り橋効果は効いたのかもしれない。星夜の下、初めて中身のある会話を交わした。普段見ない一面、笑ってはいるけど何かしら悩みはあるのは当たり前か。クラスメイトから親友へ昇進した、濃い三日間をどうもありがとう。手紙は家へ戻ってから読んでください。


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桁外れの距離を一緒に乗ろう、風に溶けながら


祖母の反対を脇に、英国の感染者数が増え続ける中、新しいフラットの契約もあるので、複雑な気持ちのままロンドンへ。5ヶ月間留守してた部屋の窓を開け、気持ちよく陽を浴びながら心を整える。けれどまだ海風の鮮明さに囚われている私。何かしらの形で感謝の気持ちを今年一番楽しかった三日間を作ってくれたバイクくんに伝えたい。実はフライトの前日、高校在校中の二年間片思いしていて、私が2年前にロンドンへ留学することを決めて台湾を後にした4ヶ月後に彼からきた突然な連絡で両思いだったことが明らかになった、私にとっては特別な存在である人とやっと会えまして。会えるかまだ決まっていなかった仲夏から、彼が私の心へ忍び込んだ最初の一秒からその手紙を書いてるその瞬間までの、彼を想う全ての刹那を文書に、重いけど誠実であるものを私はいくつかの眠れない月夜で書き残した。時と場所はずれたけど、あなたの存在は私の夢と心中で息し続けるよ、なんて自分でも恥ずかしくてとても口には出せないような文章の集まり。読み終えて、気分悪くなった場合は直ちに燃やしてくださいと最初に警告してあるのでご安心ください。


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(手紙の返事のまとめ)今までずっと好きでいてくれてありがとう。もし僕の言葉で傷つけてしまったらごめん。でも今の自分のせいであなたの周りにあるチャンスを逃してしまうことだけは避けたいから。これでも僕を嫌わないでいてくれるなら、これからはあなたと親友でいたい。


話題を戻すと、ロンドンへ戻る主な理由である引っ越しを無事に終え、日本とは違った時間感覚を持ち、時間に非常にゆる〜い家具処分の担当人が予定より9週間遅れてやっと処分してくれ、慌てて新しい家具を買い揃え、そわそわしながら大学が始まって。かと思いきや1ヶ月も経たないうちに100パーセントオンライン化授業、そしてロックダウン。部屋にいる時間が必然的に増え、フラットメイトたちとの合わないスケジュールと生活音に悩まされ、精神的に辛かった。不満を直ちに口に出せないのもあり、溜め続けること3ヶ月。体からサインが出るほどになったので、言いたいことを整理して、落ち着いて面と向かって話すと決意した夜、キッチンへ向かうが、彼女は友達と電話中だったので引き返し、紙に書き出し、彼女のドアノブに貼って、就床。心臓はバクバク。誰が最初に見つけて、誰が他のフラットメイトの元へ伝えに行ったか、一挙一動、全てはっきりと見えた。


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上の住人が引っ越してくる前、朝焼けと静けさ
今は彼らのスマホの振動も、聞こえます


私は曜日に関係なく、遅くて二十三時寝、七時起きと規則的な日々を過ごしているのに対し、彼女の晩飯支度が私の就寝後になる時が多く、脂っこいお料理をすることが多いので、起床時の廊下が油臭さに塗れ、リビングに干した洗濯物も、着ているパジャマも、髪も油粒子に附着される。生活習慣が違うので、仕方ない。でも壁が薄いのを承知した上での、必要以上に大きな音が出るドアノブを回さない閉め方や、朝三時のシャワーでガラスドアを手加減しないで壁が揺れるほどスライドするあたり、数回注意してもあまり改善されないところは、気遣いというか、思いやりという概念が今までなかったからなのだろう。ロックダウンで外出を最低限に抑え、本来物理的にも精神的にも自分だけの空間である部屋という逃げ場がそうで無くなってきたので、唯一外出するスーパーや薬局へ向かう間、脳内ではどんな紐をショッピングリストに入れようかと考えたり、車に轢かれたらある意味ラッキーだと思ったり。でもお店の防犯カメラで買うものが明らかに怪しかったらいけないから数回に分けて準備しないといけないな、とか、遺言はまだ書いてないや、とか。そして思想はあっても交通ルールは相変わらず守ってたので、多分まだ、生きるんだと思う。私だけに設けたプロジェクト、ロックダウンフィルムを現像するまで死ねない。「どうしてあなたに束縛されなきゃいけないの?ドアの音なんて、そんな小さなことを気にするのは他に集中する物事がないからだし、シャワーで聞く音楽すら文句言われるのは呆れた。誰も彼もが私たちみたいに、あなたの為に変わるとでも思ってるの?私はあなたのことを思ってるから仕方なく合わせてるけど、私は自由に生きたいから、これからあなたに合わせるのはもう嫌だ。」私が目指しているのはフラットメイト全員にとっての快適さである。散らかった台所を毎朝掃除し、私の部屋から音漏れしないように音量を気にしたり、まだ寝ている私以外の人を起こさないようにドアの開閉に気をつけたり。冬休みは帰国できない。休みが明けて、こんな生活を大学卒業まで過ごすと想像するだけで気が滅入る。このフラットでクリスマス前にも数回パーティーをしたがってたが、現状適しないので、全否定するよりも、自分が参預する意志をあまり見せなかった結果、他の人も来るのを辞めて、パーティーはキャンセルされたのだが、彼女曰くそれは私が来客に歓迎された気分を見せなかったせいだと。友達とフラットメイトでは話が違う件、そして国民性の価値観の違いがはっきりとわかった一年。


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急ではあるが、親からイギリスの状況が収束するまで台湾に戻っておいで、と年越し五日前に言われ、安堵の気持ちが不安に勝った。


白く揃えた家具も、もったいなくて貯めてある日本食も、大好きなスプーンも、アロエのるぅちゃんも、さよならだけど。変種コロナで、来年大学へ通えるとも考え難いし、ロンドンにいるのにどこにも行けない、誰にも会えない、そして自分の空間を確保できるかも危うい状態が続く中、家族からの「帰っておいで」、心の中でガッツポーズして喜びの涙で走り回りました。ありがとう、としか言えなかった。私も似たような提案があったからよかった。今の自分に逃げ場は必要でした。2020は私の心の修羅場。ボロボロです。死ぬなら潔く、美しく死にたいので、その際は整えてから最善の状態で。まずは休養です。

(明けましておめでとうございます。もう年が明けてしまいましたが、ここまで読んでくださいました皆様に心から感謝申し上げます。書くことも描くことも、私は辞められないので、2021年も引き続きnoteにて、お世話になります。)


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