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パリで観た名コレクション ベスト5 第3位 NUMBER (N)INEとランウェイミュージック 前編

ジョン・レノンの考え方と同じで、僕は洋服で世界を変えられると信じてずっとやってきた。
それが僕ではないにしても、素晴らしい才能を持った誰かが実現してくれると、今でも信じているよ。

ー宮下貴裕

パリで観た名コレクション第3位はナンバーナイン。
結論を言うと、東京コレクションを経て初めてパリでコレクションを行った2004-2005年秋冬が最も印象に残っている名コレクションです。
しかしながら、ナンバーナインはどのコレクションも思い出深いので、思い切って全コレクションを振り返ってみたいと思います。今回は前編として、私の視点から語るパリコレまでの軌跡と、現在の評価、東京コレクションについて。
そしてナンバーナインを彩った音楽的側面、ランウェイミュージックからもその魅力をお伝えします。

第3位 NUMBER (N)INE 前編

▪️ナンバーナインという伝説

「これまでの洋服屋人生の中で、1番思い入れのあるブランドは?」と聞かれる事があれば、真っ先に思い浮かぶブランドがあります。ビートルズの実験的ナンバー「レボリューション9」からブランド名を取り1996年に創設、数多くの素晴らしい功績を残し、2009年に惜しまれつつ解散した伝説的ブランド、ナンバーナインだ。

ナンバーナインが東京コレクションにデビューした2000-2001年秋冬は、私がちょうど販売員としてキャリアをスタートしたタイミングと重なります。そこからブランドが解散する2009年までの18シーズン全てを販売する側の人間として携わり、多くのコレクションを実際に観て、バイイングを担当した事は本当に貴重な体験となりました。デザイナーを務めた宮下貴裕氏は、私にとって永遠のカリスマであり、ファッションと音楽の関連性を具体的に示してくれた素晴らしいファッションデザイナーです。

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私のナンバーナイン歴は、通称「青タグ」と呼ばれていた初期の時代に遡ります。
当時は裏原系ブランドの括りで雑誌等でも紹介されていましたが、他のストリートブランドとは一味違い、ワークやミリタリーをベースにしたモード感のある上品なカジュアル、という印象でした。独学で服作りを始めた宮下氏が企画、プレスとして在籍していたネペンテスの影響も少なからず感じられるものだったと思います。
人気が爆発する前でしたが、私が勤めていたセレクトショップではすでにお取り扱いしており、自分も光るものを感じて、顧客として通っていた時からいくつか購入させて頂きました。

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2000-2001年秋冬コレクション

▪️東京発、次世代のロックスタイル

その後東コレに参加する1年ほど前から、ロック調のスタイルにシフトチェンジ。アイアンメイデンやAC/DC、FENDERロゴのパロディTシャツ(ロックTブームの先駆けだったのではと思います)、ピートタウンゼントが着ていたようなユニオンジャックのジャケットなど、音楽を背景にした洋服で一気に注目度を上げ、その勢いのまま2000-2001年秋冬より東京コレクションへ進出。

英国カルチャーを反映したようなクラシックなテーラードスタイルに、西海岸のグランジファッションをミックスさせ、グラフィックのセンスで東京らしさも取り入れた次世代のロックスタイルは、一大センセーションを巻き起こし、あっと言う間に東京ブランドの頂点に登り詰めます。モデルはうつむいたままランウェイをゆっくりと歩き、どこか退廃的な雰囲気のするブランドイメージはこの頃から定着します。

ジョンレノン、カートコバーン、リアムギャラガー、イアンブラウン、パティスミスなど、ロック好きにとって胸が熱くなるようなモチーフが多数登場し、次はどの時代からインスピレーションを得てどんなコレクションを発表するのかと、毎シーズンワクワクしながら新作の発表を待ちわびていました。
逸話としてよく聞く話だと思いますが、新作の入荷日には早朝から並んで頂き(ご予約と店頭分を用意していたため)、お店には常にほとんど商品がない状態で、通信販売希望のお電話が鳴り止まず。
これは全て本当の出来事でした。

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商品への徹底したこだわりも大きな魅力で、グランジファッションを表現するため散弾銃や薬品でTシャツやパーカーに穴を開け、スニーカーや革靴には汚れ加工を施し、ジーンズにはリアルなダメージを再現。今でこそ中古加工は当たり前になりましたが、当時ここまでこだわっていたブランドはほとんどありませんでした。
一方ジャケットやブルゾンの裏地は、そのシーズンを象徴する柄(ドクロ、チェックなど)や刺繍が施され、ベントの裏には音符マークを入れるなど、こちらも洋服好きの心をくすぐるオリジナル仕様満載でした。

当初はロックやストリートの流れを汲んだロゴもの(Tシャツやパーカー)、ジーンズ、スニーカーなどカジュアルな単品アイテムに人気が集中していましたが、シーズンを重ねるごとにトータルコーディネート/ショーのルックに着目するお客様が増えて、ジャケットやライダースなどデザイン性の高いアイテムもより注目されるようになりました。特にテーラードジャケットは中期〜後期の大人気アイテム。
時を同じくして、ロックやテーラードを背景にしてシーンを席巻したディオールオムとの接点も徐々に浮かび上がってきます。お店にとってこの2ブランドは、2000年代序盤から重要なウエイトを占める存在であり、互いに良い刺激を与えながら、この時代を駆け抜けて行きました。

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2001-2002年秋冬コレクション

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2003-2004年秋冬コレクション

▪️ストリートブランドからの飛躍

どちらかと言うとストリートファッション好きに支持されていたナンバーナインと、モード好きに称賛されていたディオールオムが、ロックやテーラードという共通項を軸にお客様の層が重なり始めたのが2003-2004年秋冬頃(個人的な肌感ですが)。ディオールオムがLUSTER(ラスター)というテーマで従来よりエッジの効いたミニマルなスタイルで人気が爆発、一方ナンバーナインが宮下氏の体調不良による一時休止から復活を遂げ、あのカートコバーンをテーマにした名シーズンです。どちらもその後のブランドイメージを決定着ける素晴らしい内容で、計り知れないほどのエネルギーに満ち溢れたコレクションでした。

コーティング加工やヴィンテージ加工されたディオールオムのジーンズが大きな話題となり、いよいよスキニーブームが到来すると、ショーでも繰り返し登場したテーラードジャケットとのコーディネートがファッション層に支持され始めます。
この着こなしはリアリティがあって真似しやすく、かつ時代の空気感を端的に表していた事もあり、程なくしてメンズファッションの一大ムーブメントとなりました。

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Dior homme 2003-2004秋冬コレクション

それでも20万円を超えるディオールオムのジャケットは、なかなか簡単に手の出せるものではなかったので、その理由もあり、お店の中で注目度がグンと上がったのがナンバーナインのジャケット。
ディオールオムの3分の1くらいの価格でクオリティも充実し、お客様にコーディネートの提案をするにも非常にありがたいアイテムとなりました。
この頃、国内外様々なブランドを取り扱っていましたが、価格とデザイン、クオリティのバランスを考えても、横に並ぶものがないほど優れた商品で、モード好きな方にも支持され、数シーズンに渡り沢山のお客様にご購入頂きました。
ちなみにこのシーズンは、名作のひとつと言われているスクールジャケット(背中がストライプ柄の切り替えになっているもの)も初めて発売され、ナンバーナインのジャケット人気に一層火がつきました。

ディオールオムのおかげでナンバーナインのジャケットが注目されたという言い方をしましたが、実際はディオールオムが流行る何年も前から、テーラードジャケットをTシャツやパーカー、ジーンズで着崩すロックスタイルをナンバーナインは提案していたんですね。
ある意味、ディオールオムが日本であれだけ人気が出た要因として、ナンバーナインが東京のストリートシーンにおいて黎明期から新しいロックスタイルを提案し、それが布石となって2000年代中盤の大ブレイクへと繋がった。その構図は間違いなく存在しており、ナンバーナインは時代の一歩先を進んでいたと確信しています。

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2004-2005年秋冬コレクション

▪️アンダーカバーとナンバーナイン

日本国内での人気を不動のものにすると、2004-2005年秋冬より満を持してパリコレクションに発表の場を移行し、世界的にも注目される存在になりました。
世界的に高く評価されている日本のブランドと言えば、やはりコムデギャルソン、ヨウジヤマモト、イッセイミヤケと言った大御所。近年ではサカイ、カラー、ダブレットなどの名前が上がると思います。
しかし、私くらいの世代では高橋盾氏がデザイナーを務めるアンダーカバー、そしてナンバーナインの影響力は絶大で、この2ブランドの世界での躍進はリアルタイムで体感しとても勇気つけられました。

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UNDERCOVER 2001年春夏コレクション

セックス・ピストルズ、そして彼らの衣装を手掛けたヴィヴィアン・ウエストウッドの服に衝撃を受けファッションの世界へ飛び込んだ高橋盾氏は、1990年にアンダーカバーを立ち上げ、1993年代にはNIGO氏と共同で原宿に伝説のショップ「NOWHERE」をオープン。アベイシングエイプと共に、アンダーカバーは瞬く間に東京ストリートシーンの象徴的ブランドになりました。
1994年に東京コレクションにデビューすると、ウィメンズ主体の発表に切り替え、それまでの原宿風パンクスタイルからマルタンマルジェラやコムデギャルソンにも通じるような既成概念を超えた独自の表現方法を模索していきます。
2003年春夏からは川久保玲氏の強い後押しもあり、パリコレクションにデビュー。その芸術性をさらに高い次元へと昇華させてきました。

高橋盾のブランドUndercoverは、稀有な野獣である。ストリートウェアのカルトスターとして、また、パリコレクションを賑わす常連として、等しく崇敬を集める同ブランドは、まるでSupremeとChannelが渾然一体となり、そこに東京アンダーグラウンドのエッセンスが注入されたような存在なのだ。

アンダーカバーはウィメンズ、ナンバーナインはメンズが主体という違いはありましたが、東京のストリートシーンから登場し、音楽を背景としたスタイルで世界に挑戦し、モードとストリートの狭間を行き来するクリエーションが特徴、という点においてやはり共通する部分を多く見て取れます。
2人はお互いの存在をリスペクトし、本当の兄弟のような関係性を築き、また時には良きライバルとして競い合います。単なる友情を超えた2人の姿には、いちファッション好きとして胸を打たれる物語を感じます。

20年近く前、東京綱町三井倶楽部で行われたNumber (N)ineのショーで高橋と宮下は出会う。宮下はこう振り返る。「僕は当時まだ何者でもありませんでしたから、彼みたいな大物が現れて、ひどく驚きました」。これに対して隣に座る高橋は「音楽を感じられるブランドはまだ少なかったから、誰であれその背後にいる人に会ってみたいと思っていました」と返す。宮下は初めこそスターに憧れるように高橋を見ていたが、現在の2人のデザイナーとしての関係は、師匠と彼の最大の(そしておそらく最も才能豊かな)ファンとの関係といったものではなく、それぞれの高い価値から自然に生ずる兄弟の関係のようなものに。

時は巡り、2018年1月に開催された、第93回ピッティ・イマージネ・ウオモ。ゲストデザイナーとして招集されたのはアンダーカバーと、宮下氏がナンバーナインを解散してから立ち上げたブランド「タカヒロミヤシタザソロイスト」。
ピッティの歴史上初となる2ブランド合同によるショーが開催され、世界的にも大きな話題となり2人の絆はより強固なものとなりました。

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Pitti Uomo 2018-2019年秋冬コレクション

▪️世界的なアーカイブの再評価

ナンバーナインは2009年に解散しますが、2010年代中盤頃からアンダーカバーやナンバーナインのアーカイブが世界的に再評価される時代がやってきます。

ファッションアイコンとしても絶大な人気を誇るカニエウエストやエイサップロッキーといったミュージシャン達が、ラフシモンズやマルタンマルジェラ、ヘルムートラングなど、ラグジュアリーやモードの領域でありながら、ストリートのエッセンスを感じられるブランドのアーカイブを求める過程で、日本のブランドのアーカイブにも注目するようになります。
アーカイブコレクターであり、カニエウエストのスタイリングも担当していたデヴィッド・カサヴァントの影響が大きかったと聞きます。
特にアンダーカバーとナンバーナインには熱い視線が注がれ、作り込まれたデザインと東京ならではのストリート感覚、音楽的な背景が評価され、すぐさま彼らのお気に入りとなります。そして彼らを崇拝する、リアルタイムを知らない若い世代からも、アンダーカバーやナンバーナインは熱狂的な支持を得ることになります。

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ナンバーナイン好きを公言するエイサップロッキー

それに加え、ディオールメンズのデザイナーであるキムジョーンズや、オフホワイト、そしてルイヴィトンのメンズデザイナーでもあるヴァージルアブローなど、いわゆるラグジュアリーストリートと呼ばれる文脈のデザイナー達が世界のトップデザイナーとなり、藤原ヒロシ氏やNIGO氏から始まった日本のストリートファッション/裏原に影響を受けたと公言している事も、世界的再評価に繋がっている要因だと思います。

また宮下氏に関して言えば、その凄さをさらに裏付ける証言があります。アメリカを代表するファッションディレクターのニック・ウースターが2015年春夏に「今シーズン見たすべてのメンズブランドのなかでナンバーワンだった」とソロイストを絶賛したのでした。

ナンバーナインを経た現在も、宮下氏のクリエーションには世界中から常に熱い注目が注がれています。

高橋の場合と同様、宮下がデザインしたコレクションはヨーロッパの若者カルチャーの影響を色濃く受けている。彼は煙草の焼け焦げの穴が開いたTシャツや、ニルヴァーナのサウンド・トラックを描いたTシャツを発表。当時はヨーロピアンカルチャーに対するカウンターパートがほとんどなかったこともあり、これらは若者の熱狂的支持を受けた。
このようなトレンドは日本における宮下や高橋の先駆者たち ―川久保玲や山本耀司ー に成功のチャンスを与えただけではない。Number (N)ine やアンダーカバー(UNDERCOVER)といったブランドは今日のストリート系ブランドの精神的な出発点となったのである。私たちは今日、ヴァージル・アブローのオフホワイト(OFF-WHITE)やデムナ・ヴァザリアのヴェトモン(VETEMENTS)に同じような若さと音楽へのこだわりを見ることができる。ファッション好きなラッパーA$AP Rockyが、高橋や宮下の服を着ているのは決して偶然ではない。
東京コレクションとランウェイミュージック

それでは、東京コレクションを順を追ってご紹介して行きたいと思います。
「言いたいことを言葉で伝えられない」という寡黙な人柄で知られる宮下氏にとって、ファッションショーは自分を表現するための、重要なツールでありファクターなのだと思います。ショーに登場する洋服、音楽、演出全ては、宮下氏の頭の中に思い描いている宇宙そのもの。
世界的に見てもこれだけ音楽への愛とリスペクトを形にしたファッションブランドは、今も昔も存在していないと思います。
私が印象的に感じたサウンドトラックと共にナンバーナインの歴史をご覧下さい。

1.2000-2001年秋冬/REDISUN

もはや伝説として語り継がれているファーストコレクション。この時点でストリートカルチャーをベースにした、モノトーンのロックスタイルはすでに確立されており、今見ても全く色褪せない輝きがあります。
テーラードスタイルを全面打ち出しており、モードとストリートの絶妙なバランスが光ります。
ダイナライブという吸熱、蓄熱、保温に優れた機能素材をブルゾンやTシャツに使うなど、当時としてはかなり斬新なアプローチもしています。
また音楽雑誌「SNOOZER」ともコラボしており、ファッションという側面とは別の、本当のロック好きにも注目されるブランドになりました。

●代表的なアイテム●
ダイナライブスタジャン
散弾銃ジャケット
スパイダー柄ブルゾン
クロス柄スニーカー
ビートルジャケットなど

サウンドトラックは映画マトリックスで有名なClubbed to Deathで幕を開け、SuicideのChereeからPrimal ScreamのExteminatorに繋がる辺りが個人的なハイライト、今見てもゾクゾクします。フィナーレに流れるPatti SmithのPiss Factoryもエレガントで耽美的。
ストーリー性が感じられる選曲でとても格好よかったです。

1.Rob Dougan/Clubbed to Death(Kurayamino Variation)
2.Bauhaus/King Volcano
3.Anekdoten/The Sun Absolute
4.Suicide/Cheree
5.Primal Scream/Exteminator(Massive Attack Remix)
6.Autechre/Zeiss Contarex
7.Patti Smith/Piss Factory

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Primal Scream/Exteminator(2000)

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Patti Smith/Hey Joe、Piss Factory(1974)


2.2001年春夏/TIME MIGRATION

ジムキャリーが主演を務めた映画「マンオンザムーン」でもその生涯が語られた伝説的コメディアン、アンディカフマンをテーマにしたコレクション。
アンダーグラウンドな世界観を、どこかコミカルでシュールな雰囲気のする演出で見せています。
ガーゼ素材の切りっぱなしジャケットや、スケーター調のワイドシルエット、エスニックなモチーフなどクリエーションの幅がかなり広がりました。
弾痕のような穴の開いたドクロプリントのパーカー&スウェット、ロゴグラフィックTシャツ等がとにかく大人気でした。

●代表的なアイテム●
ドクロ柄パーカー&スウェット
MILK&COOKIES Tシャツ
センタシームジーンズ
ドクロ総柄ジャケット
エナメルスリッポンシューズなど

宮下氏が注目していたカナダのポストロックバンド、god speed you ! black emperorやエレクトロニカを中心としたダウナーなサウンドの中、光り輝くRadioheadのOptimisticがやはりハイライト。
当時、私もわざわざ予約をして発売日に購入、思いっきり肩透かしを食らった「KID A」。
しかし聴けば聴くほど中毒性があり、お店でも毎日のようにヘビープレイしていました。
フィナーレにはJeff BuckleyのHallelujahに乗せて、タキシード柄のトロンプルイユTシャツを着た、謎のコメディアンが登場するというシュールすぎる演出も。

1.god speed you ! black emperor/Providence
2.LFO/Nurture(Surgeon Mix)
3.Nightmares On Wax/Playtime(John McEntire Mix)
4.Radiohead/Optimistic
5.Apex Twin/#15
6.Trans Am/Casual Friday
7.god speed you ! black emperor/Blaise Bailey FinneganⅢ
8.Jeff Buckley/Hallelujah

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Radiohead/Kid A(2000)

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Jeff Buckley/Grace(1994)


3.2001-2002年秋冬/STANDARD

ナンバーナインの評価や人気を、より確かなものとした名コレクション。
「ベーシックなものを作ろうとするのではなく、新たなスタンダードを作ろうと思って作り上げたコレクションです」との宮下氏の言葉通り、20年近く経った今見てもメンズファッションのお手本になりそうなアイテム、スタイリングがずらりと並ぶ秀逸な内容。
加工&リペアデニム人気の先駆けとなったグランジデニム(超人気アイテムでした)にテーラードやブルゾンを組み合わせたクラシックなスタイルの他、フーディやアフガンストールを使ったストリートライクな着こなしは、現在のラグジュアリーストリートの出発点とも言えるもの。
同時期に通称「テロリスト期」のコレクションを発表し、モード×ストリートの源流を作り上げたラフシモンズとも双璧を成す内容です。

●代表的アイテム●
グランジデニム
エンブレムパーカー/スウェット/ストール
モーターサイクルジャケット
アーガイルニット
フェンダーコラボ小物など

ショーが始まる前、暗闇の中John LennonのLoveが流れるというドラマティックな演出。本編はMogwaiの壮大なサウンドプロダクションを中心に、幻想的でミステリアスな世界に包まれます。

1.John Lennon/Love
2.不明
3.Mogwai/You Don’t Know Jesus
4.Clinic/Porno
5.Mogwai/Two Rights Make One Wrong
6.Atom TM/Jealous Guy

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John Lennon/ジョンの魂(1970)

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Mogwai/Rock Action(2001)


4.2002年春夏/MODERN AGE

1950〜60年代にかけてニューヨークを中心に広がったカウンターカルチャー、ビートニクにインスパイアされたアートを感じるコレクション。これまでの黒中心のイメージから、白を主体とした内容に。カットアップの手法を想起させるようなレタリングのパッチワークや、リアルな汚れ加工を施したアイテムが印象的でした。
ジョンレノンが着ていた「NEWYORK CITY」のパロディTシャツなど、ニューヨークをモチーフにしたアイテムも多数登場しています。

●代表的アイテム●
カットアップ柄のTシャツ&ジーンズ
ニューヨークモチーフのTシャツ
ワッペン剥がしレザーライダース
パッチジーンズ&Gジャン
紐なしシューズ&ペコスなど

Vincent Galloが紡ぐ美しいメロディで幕を開ける今コレクション。白いアイテムにダーティな加工を施しているように、イノセントでありながらどこか影を感じるサウンドセレクト。60年代ニューヨークのアヴァンギャルドな空気を表現するVenus in Fursが妖艶に鳴り響き、それに続くSigur RosのSvefn-g-englarで天にも舞い上がるような浮遊感を覚え、そしてフィナーレに向かいます。

1. Vincent Gallo/When
2.Boards Of Canada/You Could Feel The Sky
3.Set Fire Two Flames/Steal Compass,Drive North,Disappear
4.Super Furry Animals/[A]Touch Sensitive
5.The Velvet Underground,Nico/Venus in Furs
6.Sigur Ros/Svefn-g-englar
7.Silver Mt. Zion/C’mon Come On(Loose And Endless Longing)

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The Velvet Underground,Nico(1967)

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Sigur Ros/Agaetis Byrjun(1999)


5.2002-2003年秋冬/NOWHERE MAN

2001年11月に他界したジョージハリソンへ捧げたコレクション。彼のワードローブや音楽に着想を得た、ファーブルゾンやネルシャツ、カウチンニットなどを主体とした暖かみのあるカントリー/ボヘミアン調のスタイルは、それまでの黒白モノトーンのブランドイメージを覆す全く新しいものとなりました。宮下氏本人も2000年代半ばのインタビューで、これまでの最高傑作だと発言しています。新しい世界への扉を開いた、とても意欲的なコレクション。

●代表的なアイテム●
ファーブルゾン
錆泥加工ジーンズ
カウチンニット
ブラウンカラーのネルシャツ
トナカイ柄ニット
ビルケンコラボシューズなど

フラワームーブメントのサンフランシスコやインドに誰よりも早く着目し、その影響をサウンドや自身のファッションにも反映してきたジョージハリソン。
彼の生み出した牧歌的で甘美なメロディが、ナンバーナイン流カントリースタイルにとてもマッチしています。

1.George Harrison/Ballad Of Sir Frankie Crisp(Let It Roll)(Rough Mix2)
2.George Harrison/My Sweet Lord

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George Harrison/All Things Must Pass(1970)


6.2003-2004年秋冬/TOUCH ME I'M SICK~A NEW MORNING

宮下氏の体調不良による一時休止から復活を遂げた名コレクション。テーマはずばりカートコバーン。
もはや説明不要ですが、どのルック、アイテムを見ても生前のカートコバーンをイメージできるものに。
赤黒のボーダーニット、パッチワークのデニム、パジャマ、ナチュラルカラーのカーディガン、大ぶりのサングラスなど、ナンバーナインのフィルターを通して描かれた彼のワードローブは、確かなもの作りに裏打ちされた忠実な再現性を楽しめます。
「自分自身の中で一番大切なコレクションです。自分の非常にまずい状況を、洋服とスタッフたちが救ってくれました。やりたいことがやれたという点でも大きな意味を持つコレクションですね」と後日語っています。

●代表的なアイテム●
ストーンズベロTシャツ&キャップ
ストライプスクールジャケット
コーデュロイボアブルゾン
パッチワークデニム
パジャマ
ウエスタンブーツなど

90年代のグランジシーンを象徴するような、アグレッシブな選曲になっていますが、その中でSmashimg Pumpkins/Todayの美しいメロディが際立ちます。
ライバルだったニルヴァーナの大成功によって自分の存在意義を疑い始めたビリーコーガンは、長い間憂鬱と極度のスランプで精神的に追い込まれた時期を過ごします。そんな苦しみを経験し、絶望の先に誕生したのがこの名曲。
宮下氏も当時、精神的な問題を抱えてブランド休止を決めたといいます。哀しみや孤独の先に生まれたクリエイションは、この曲と同じように、美しく、そして真っ直ぐな強さを放ち、大きな感動を与えてくれました。
(このコレクションの動画、音がないのが本当に残念です)

1.Primal Scream/Kill All Hippies
2.Smashimg Pumpkins/Today
3.Mudhoney/Touch Me I’m Sick
4.The Vines/Get free
5.Hole/Violet
6.Nirvana/Territorial Pissings
7.Smashing Pumpkins/Tonight,Tonight
8.The Clash/Groovy Times

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Smashing Pumpkins/Siamese Dream(1993)

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Nirvana/Nevermind(1991)


7.2004年春夏/DREAM BABY DREAM

英国のパンクバンド、ザ・クラッシュへのオマージュとなった東京でのラストコレクション。
ブラックのタイトなパンツにライダースやテーラードジャケットを組み合わせ、テディボーイ/パンク/ロカビリーを経由したナンバーナイン流ザ・クラッシュスタイルを提案しました。
レオパード、ユニオンジャック、スカルモチーフ、スタッズと言った象徴的なデザインが、より一層エッジの効いた雰囲気を盛り上げます。
リーゼントヘアできめたモデル達がランウェイを颯爽と歩き、どのシーンズよりも凛々しく、ブランドとしての自信や安定感をコレクションからも感じ取る事ができました。

●代表的なアイテム●
刺繍シルクスカジャン
ブラックデニムパンツ
ヒョウ柄スクールジャケット
ドクロワッペンジャージ
ドクロミュージシャンTシャツ

70年代末のロンドン〜ニューヨークパンクの臨場感をそのまま詰め込んだような選曲。初期のようにエレクトロミュージックとロックを交錯させるスタイルも好きでしたが、このセレクトもストレートで潔さを感じます。個人的にはリチャードヘルの格好良さにやはり痺れます。

1.Nino Rota/Main Title(The Godfather Waltz)
2.The Clash/London Calling
3.Richard Hell&The Voidoids/Blank Generation (Electoric Lady Studios)
4.The vibrator/Baby,Baby
5.Buzzcocks/What Do I Get?
6.The Boys/Brickfield Nights
7.Ramones/The Return Of Jackie And Judy
8.Johnny Thunders&Heartbreakers/I Love You

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The Clash/London Calling(1979)

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Richard Hell&The Voidoids/
Blank Generation(1977)

▪️終わりに

ナンバーナインがファーストコレクションでコラボレーションし、2011年に惜しまれつつ終刊した音楽雑誌「SNOOZER」。宮下氏のインタビューも時折掲載され、私も長い間愛読し「年間ベストアルバム」などの企画は特に楽しく拝見していました。
昨年、元編集長でもある田中宗一郎氏と宮下氏の対談が実現、とても興味深い内容だったので最後にご紹介します。

冒頭で引用した「僕は洋服で世界を変えられると信じてずっとやってきた」というコメントもこの対談から。
世界を舞台に活躍し、素晴らしい功績や名誉を得たにも関わらず、真摯な気持ちを忘れず、変わらない信念を持ち続けているその姿には、私も心揺さぶられ、思わずハッとさせられました。

世界が大変な状況に直面し、私たちの生活も大きく変化する中、ファッション業界も苦境に立たされています。大変な状況だというのは十分に承知した上で、宮下氏はファッションデザイナーの使命として、前を向きクリエイションを続けています。
その言葉、姿勢に希望と勇気をもらい、私たちも平穏な新しい未来を思い描き、力強く前に進んで行きたいと思います。

いつの時代も状況が悪ければ悪いほど、人って新しいものを生み出すじゃないですか。何もかも条件が揃った状態で何か新しくてかっこいいものが生まれるかっていうと、僕はそうじゃないと思う。こんなディストピアは嫌だけど、クリエイションだけを考えるならチャンスとしか言いようがない。全部リセットされたわけだから、全員チャンスなんです。過去にすごいことをやっていた人たちも、一回カウントがゼロになって、今は、いっせいのせ、で全員が同じスタート・ラインに立っているんだから。

世の中は美しい、戦う価値がある。
きっと世界は洋服で変えられるのだから。

ー宮下貴裕

画像出典:
•VOGUE JAPAN
https://www.vogue.co.jp
•WWD JAPAN
https://www.wwdjapan.com
•Wrangler Jeans
https://wrangler-jeans.jp
•Dior
https://www.dior.com/ja_jp/home
•Fashion Headline
https://www.fashion-headline.com
•Isetan Men’s Net
https://www.imn.jp
•Girl Houyhnhnm
https://girl.houyhnhnm.jp
•Amazon Japan
https://www.amazon.co.jp/ref=navm_hdr_logo


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