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市民参加型プラスチック循環の実験で「つくる」を実感してもらうための工夫

1本前の記事で市民参加型プラスチック循環の実験“キャップノソノゴ“を紹介しました。“キャップノソノゴ“は、資源循環の中の「回収」から「製造」を体感することで生活者が資源循環を担う感覚を実感として持てるのではないか、という我々の狙いがありました。この記事では狙いの中で注力した「製造」、つまり「つくる」を実感してもらうために取り組んだ工夫、そしてその背景にある文脈について伝えます。(文責 デザイナー 神崎将一)

「つくる」を実感してもらう工夫

「つくる」体験を拡張する

“キャップノソノゴ“はプラスチック地捨地消を目的にしたしげんポストという取り組みがインスピレーションのひとつになっています。家庭に眠っているプラスチック資源をしげんポストで回収し、住民のアイデアを反映させた地域の役に立つモノへと再製造する取り組みです。ポストというメタファーを使って既存のゴミ箱や回収箱の概念を変えようとしているのが瞬時にわかる表現が素敵だと思っています。取り組みの紹介動画を見ていると、持参したハンガーが粉砕され、3Dプリンターで出来上がったプランターを触る参加者がいて、この取り組みは「つくる」体験を拡張しているでのはないか、と思いました。

工作活動において部屋の家具をDIYでつくることが好きなのですが、私にとってのつくる楽しみは、Youtubeや記事を漁りながら「つくる対象を考える」ことやホームセンターに足を運んで材料を組み立てて「手を動かす」ことだと思っています。一方で、そのような習慣を持っていない人にとっては「家に眠っているものを託す」「モノがつくり変えられる工程を眺める」という行為自体が「つくる」体験になっているのではないか、という気づきをしげんポストの事例から得て、“キャップノソノゴ“ではペットボトルのキャップを託してもらい、製造工程がみえる設計にしました。

身体性を持つ

DIYは好きだけども、もう少し高度なことに挑戦してみたいという想いから、EMARF CONNECTという木製ものづくりを軸にしたデジタルファブリケーションのオンラインコミュニティへ参加。CADやイラレで設計をしたデータから加工・組み立てをした木製の作品を展示する機会が設けられており、EMARF DESIGN FES 01へハンガーラックを出展してみました。

展示会では、ヤフーLODGEものづくり×オープンソースプロジェクト「Toaster」さんが手動射出成形機を用いたプレシャスプラスチックプロジェクトのプロダクトを展示していました。そこではじめて手動射出成形を体験したのですが、つくる対象を考えることや型の制作などのプロセスをスキップして、いわば「つくる」の面倒だけども楽しい部分が省略されていても、樹脂が型に流れる圧力を手で感じながらバーを下げて、10秒ほどでモノが作られるのは充実感がありました。プラスチック製品に囲まれて生活をしているのに、その製造工程を全然知らなかったのに気づいたし、工場でしか作れなさそうと思っていた製品を自分の手でつくれてしまうことには感動がありました。

3Dプリントも構造としては似ていると思います。プリントをするためのデータはThingiverseなどのプラットフォームで公開されており、設計をわざわざ自分がしなくてもよい。モノづくりに慣れている人は自分の作りたいものに合わせてデータを改良していく。しかし、自分がはじめて3Dプリンターを扱ったことを思い出すに、多くの工程がキーボードのボタンを押すことで完結し、目を離している間にモノが完成してしまう感覚を覚えています。「つくる」というよりも「複製」に近い感覚。そんな考えから、製造をする瞬間に身体性を持つことが「つくる」実感を得てもらえるのではないかと思い、手動射出成型機を“キャップノソノゴ“で用いることにしました。

型を透明にする

手動射出成型機を利用するために型を制作する必要があったのですが、プロジェクトメンバーの中で型の制作に関する知見やスキルのあるメンバーはおらず、実験日までの日程が短期間で迫っていたということもあり、社内の3Dデザインエンジニアに全面的に協力してもらいました。ボタンの型をつくることが決まり、社内にあった3Dプリンターで透明な樹脂の型を出力し、型のテストをまずは実施。

弊社3Dデザインエンジニアの協力で短時間で作成してもらった樹脂の型

当初は、出来上がる製品の質の高さと型の耐久性の高さの観点から、射出成型のテストで明らかになった仕様をもとに金型を発注しようと考えていましたが、テストを重ねるうちに製品の出来上がりの質や型の耐久性を犠牲にしてでも、透明な樹脂の方が“キャップノソノゴ“では適切だと感じました。テストの際、高温で溶けたプラスチックの樹脂が型に流れ込む様子をみながらバーを下げて成形をしているときに「俺は今つくっている!!!」という声が脳内再生され、この体験はきっと中身のみえない金型では達成できないだろうという感覚を得ました。そうして作りながら得た気づきをもとに、“キャップノソノゴ“では透明な樹脂の型を利用することにしました。

透明な樹脂へ射出される瞬間

参加者の反応

透明な樹脂の型へ射出される瞬間にくぎ付けになりながら思わず「おぉ」という声を漏らす人は少なくなく、運営側のメンバーと一緒にバーを下げることを伝えると冗談まじりで「え?結婚式の初めての共同作業的な感じ?」といった反応をかえす方もいました。どれだけ「つくる」実感を持ってもらえたか、さらにそれが循環を担うことに寄与していたかの効果を測定することは難しいですが、工夫をしたことは間違っていないという手応えはありました。

背景にある文脈

最後に、今回の取り組みを俯瞰して、今までの潮流と関連付けてみようと思います。“キャップノソノゴ“は、プラスチック廃棄物をリサイクルし、新しいモノをつくるオープンソースのコミュニティであるプレシャスプラスチックプロジェクトの活動がベースにあります。プレシャスプラスチックプロジェクトは国内では、ファブラボを中心にして取り組みが広がっていますが、ファブ社会における新しいものづくりとして、以下の5つが挙げられています。

1.既存の製造業が変わる
2.自分で作り出したものを自分で使う
3.自分でつくったものを他人に送る又は販売する
4.個人と製造業が協働してものづくりを行う
5.コクリエーション(共創)する

参考文献:総務省情報通信政策研究所「ファブ社会推進戦略~ Digital Society 3.0 ~」

“キャップノソノゴ“は、5つ目のコクリエーションの形として、モノづくりの専門家とモノづくりに関心が薄い人を繋げるプロセスとして位置づけられると考えています。

さらに、人間に本来備わっている創造性を引き出して社会変革をボトムアップで促すデザイン方法論を展開するEzio Manziniを引用しながら京都工芸繊維大学の水野大二郎さんは次のように述べています。

「維持可能な社会を実現するために要請される人間生活の意味的変化を促す人工物の生成としての RtD(Research through Design)」には「専門家(専門的デザイン)、調整役あるいは協働デザイナー(協働デザイン)、非専門家(拡散デザイン)と三つの立場が存在する」

参考文献:『「意地悪な問題」から「複雑な社会・技術的問題」へ』

そうして、モノづくりの工程とRtDにおける3つの立場をもとに、“キャップノソノゴ“の制作と参加に関わった人は次のように整理できると考えています。

企画を請け負った協働デザイナー:プロジェクトに関わったデザイナー
設計を請け負った専門家:弊社の3Dデザインエンジニア
製造を請け負った非専門家:“キャップノソノゴ“の参加者

とはいえ、“キャップノソノゴ“は2日間の実施であり、Ezio Manzini の掲げるDesign for Social Innovationと言い切るにはいささか大げさかもしれないですが、今後も継続してこの3つの立場を意識しながら社会変容を目的としたプロジェクトを発展させていきたいと思っています。