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ロックダウンされたニューヨーク。それでも人々は営みを続ける



隔離生活をしている。


もう何ヶ月もこの日々が続いていいるような気さえするのだが、事実上の外出禁止令が出されてから、まだ5日しか経っていないのだ。

日頃からかなりの時間を自宅で過ごしているはずなのに「好きだから家にいる」と「家にいなければならない」では、体感時間が随分違うものだなぁと思ったけど、望まぬ待ち時間って、だいたいそういうもんだ。


18日後に個展開催、というミッションインポッシブルな目的を失った我が家はしぼんだ風船同様になり、夫は確定申告を始めつつ、料理や掃除にも現役復帰した。

私は……といえば、コロナのことであまりにも世の中の意見が分かれていることに困惑していたのだけれども、この記事を読んでから自分なりの落とし所が見つかり、割と落ち着いて生活出来るようになった。



ニューヨークは現在、感染者は2万人を超えている。

隣近所や知人レベルでもコロナ陽性の話が囁かれ始めた。
ついに、死体安置所まで設置されたらしい……。


コロナそのものだけではない。仕事を解雇された大勢の人、店舗の営業が出来ず給料も家賃も払えない経営者、潰れてしまったお店の情報、激しい差別を受けるアジア人、刑務所内での感染が広まったために釈放された受刑者……。

毎朝起きるたびに「どうか長い悪夢であってくれ」と願いながらTwitterを開くのだけれども、毎朝変わらず、クオモ州知事が今日の感染者数と死亡者数を伝えている。5歳の頃、余震に怯えながら、テレビで毎日増える死者のニュースを訳も分からず眺めていた記憶が蘇る。

どこもかしこも明るい話は聞かず、3日先のことすらわからない。油断したら不安の闇に飲み込まれてしまいそうだ。


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最後に見たマンハッタンの風景。
"LAST DAYS of NEW YORK" "SPREAD NO VIRUS"


街は世紀末の様相だ。

でも、それでも強く、ロックダウンされたニューヨークの中で前向きに生きる人たちもいる。今日のnoteでは、そんな取り組みをいくつか紹介したい。そして、彼らの営みを紹介することで、願わくば私も少しでも、前向きに状況を捉えたい。





STILL Hiring

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多くの失業者が出ている中で「まだ求人中だよ!」という企業が求人情報を気軽に掲載できるプラットフォームが登場した。求人情報の管理には、クラウド型データベースのAirtableが使われていて、応募は各企業のサイトにリンクが飛ばされる、非常にスマートな作りだ。

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北アメリカ大陸、イギリス及びヨーロッパ、その他世界各地域での求人情報がずらりと並ぶ。(関係ないけど、UK&EUROPEという表記をみて、イギリスはもうヨーロッパではないのか…と実感した)



Support NYC

えっこれだけ……?というシンプルなテンプレートだが、シンプルゆえに、かなり多くの人が使っている。近所の「推し」の店をタグ付けしてインスタストーリーズなどで紹介するためのテンプレートだ。

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私もこれで、近所の知らなかった店を発見することが出来た。店のIGアカウントに飛べば、デリバリーしてるか否かも記載してあることが多いので、そのまま今夜の夕食を頼むことも出来る。

(けど、日頃ゴミ削減を目指している身としては、地元レストランを支えるにはデリバリーに頼るしかない今の現状はなかなか歯がゆいものもあるのだけれど……)

ちなみに、これまで部屋の前まで持ってきてくれていたUber eatsなども、コンドミニアム(マンション)のエントランスに置くスタイルに変わった。対面での受け渡し、NG!


作品を売る


イベントや展覧会が中止になったりで、真っ先に仕事を失ったのはクリエイターやアーティスト。

でも多くのクリエイターが、販売用サイトを立ち上げたりInstagramで作品を販売するから買ってね! と前向きに取り組んでいる姿には勇気づけられる。

友人のフォトグラファーAndyも……

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画家のAestherも。

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もしあなたに、日頃から好きなアーティストがいて、幸運なことに貯金もあるのであれば、今、アーティストに仕事を依頼してみて欲しい。

アーティストに仕事のオファーなんて出来るの?と思うかもしれないけれど、出来る場合が多い。(クライアントワークというより、作品のパトロンとしてお金を払うケースが中心になるだろうけど……)

アーティストの活動内容によっても出来ることは変わってくるので、直接、もしくは事務所やギャラリーに問い合わせてみて欲しい。

「○○万円の予算を使って応援させてもらいたいのですが、どんなことであれば実現可能でしょうか?」

もしくは

「可能であれば作品を作ってもらいたいのですが、個人からオーダーさせてもらう場合の価格を教えてもらえますか?」

など……! 

ただ、ロケが必須だったり、大規模なスタジオで作っていいるクリエイター、アーティストには辛い日々かもしれないが、家の中で出来ることもあるかもしれない。



Tips for working / studying from home


多くのYouTuberが、家で働くコツを伝授してくれている。そもそも、毎日のように動画を出している人気YouTuberって、在宅ワーカーとしてめちゃくちゃ効率良く働いてきた方々なのだ……。SNSが生業でありながらも、いかにしてSNSに邪魔されずに集中して働くか?を誰よりも実践してきた彼女たち。

飾らないライフスタイルを発信していて人気のAshleyの動画は、本当にためになるTipsが多かった。集中したいときはスマホの電源を切り、PCのWi-Fiもオフにしているそう。(そしてやっぱりタスク管理は紙がいいですよね……)


あと、ヨガのレッスンを配信するインストラクターや、家庭向けのレシピを配信する一流シェフなども増えた。みんなが家で過ごす時間を豊かにできるよう、それぞれが知見を持ってYouTubeに集まっている。いちはやくみなさんに広告収入が入りますように……。


#TogetherAtHome


Global CitizenとWHO主催のバーチャルコンサート #TogetherAtHome も盛り上がっている。

著名ミュージシャンが続々と参戦しているバーチャルコンサートのアーカイブは、Gloval CitizenのInstagramアカウントにまとめられてるのだけど、それぞれ自宅からのライブ配信は個性的で面白い。

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動画は、すべてIGTVに格納されている。IGTV……ここにきてその機能の本領発揮するとは、なかなか胸アツである……。

詳しくはAsukaさんの記事にて!


Co-Watching とSTAY HOME


Instagramの社員たちもきっとリモートワーク中だとは思うのだけれども、続々と新機能をリリースしている。

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離れた友人と一緒にタイムラインを見れるCo-Watching機能(DM欄のビデオ通話から飛べる仕様)や、家にいることを伝えるSTAY HOMEのスタンプなど。ニューヨーカーは、Instagramの新機能好き。観測する限り、かなりの人がストーリーズにSTAY HOMEのスタンプを添えている。


#MuseumBouquet




コロナで大打撃の美術館。ニューヨークにあるメトロポリタン美術館は米国政府に、美術機関救済のため40億ドルの捻出を求めるほどに、状況はシビアだ。

だが、そんな中でも互いを励まそうと、所蔵作品やアーカイブから花をテーマにした作品を贈り合う活動が始まった。




ご近所の助け合い


アメリカのコンドミニアムには、だいたい入居者同士が繋がれるSNSというか、BBSみたいなものがある。いつもは「この椅子売ります!」とか「お手伝いさん募集中!」みたいな投稿ばかりなのだけど、今はこんな感じ。

お年寄りで、買い物に行くのがしんどい人もいる。しかも今、スーパーは入店するまでに長蛇の列。(そのため、午前中は60代以上の人限定の時間にしている店が多いのだけれども

これまで我々が依存していたAmazon primeなども、キャパオーバーにより1ヶ月先にしか届かなくなってしまったりと、オンラインショッピングもままならない中で、こうしたご近所同士の助け合いは純粋に助かる。


Whole foodsの取り組み
 


Whole foodsだけじゃないかとは思いつつ、私が通ってるスーパーがWhole foodsなので、そこの取り組みも紹介したい。


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コロナが流行りだしてパニックになったときには、誰でもドカドカっと店内に入れたのだけど、今は店内の人口密度が高くならないように、入店制限を行っている。入店待ちの行列は「Social distance」が守れるように、足元に線が引いてあるのでわかりやすい。

10組出たら10組入店、くらいのペースで、誘導係の人が店内に案内していく。

しかしこれ、やや問題点も……。3月末とはいえ、ニューヨークはまだ寒くて、夕方になると気温3度くらいの日もザラにある。そんな寒空の下、15分くらい外で並んでいると、身体の芯まで冷えてしまい、私はあやうく風邪をひきかけてしまった……。今風邪をひくと致命的なので、全力で健康を取り戻したけれども、同じような事態に陥ってる人も少なくない気はする。

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ちなみに、レジ前の行列にもこの案内と、足元の印がある。

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ほとんどの品物は豊富にあるのだけど、人気のデリコーナーだけは衛生上の問題から一時停止中。

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そして、パニック初期には在庫がスッカラカンになっていたパン。「これでもか!」という程の在庫を店頭にあえて出しているのか、みんな焦ってまとめ買いしなくなった気がする。視覚的な効果は大きい。

そして、レジで働く人たちに、感謝の声を掛ける人が増えている。

こんな中で働いてくれているレジの方々に向けて感謝の気持ちを伝えたい!というときは、バイリンガールちかさんの動画(18分〜)で学べます!



州知事のTwitterやライブ配信


日々の一次情報は、クオモニューヨーク州知事のTwitterでチェックしている。ルールが変わる可能性があるので、公式情報を見ておかないと「知らなかったので……」と禁止事項をやってしまう可能性もあるからだ。

基本的に、記者会見はこんな感じで開催されてるらしい。記者と記者の間が広い。

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(画像は Twitterより)

かつ、全編ライブ配信しているので、現場に行けない記者でもすぐにニュースを出すことが出来る。


著名人による「家にいてね!お願い!」という呼びかけも、クオモ州知事のTwitterに掲載されている。ハッシュタグは #NewYorkStateStrongerTogether #NewYorkTough の2つ。


かなり厳しく外出禁止を呼びかけるクオモ州知事は、「責任は私がとる。誰かを非難したければ、私を非難してほしい」とも発言していた。私が見渡す限りでは、みんなその指示に従って「家にいよう!」と各々もSNSで発信している。



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こうして、いくつかのポジティブな取り組みを紹介してみたけれど、正直、アメリカが良い、ニューヨークが素晴らしい、と思える状況ではない。刑務所から釈放された人たちはどこへ向かうのか。爆買いされているという銃弾はどこに向けられるのか……。不安を感じればキリがない。

しかし、「感染症を打ち負かすためには、人々は科学の専門家を信頼し、国民は公的機関を信頼し、各国は互いを信頼する必要がある」というユヴァル・ノア・ハラリ氏の言葉は、これから何度でも反芻したい。


まずはこの地獄を少しでもマシなものにするために、公的機関の情報にしっかり耳を傾けていたい。そして未来のリーダーを決めていくために、自分に選挙権があるのであれば、選挙にも必ず行きたい。


パンデミックの渦の中で、SNSをどう使うのか



そして、パニックの引き金になるような情報発信はすべきではない、と反省した。

3月12日、大手スーパーマーケットであるWhole Foodsの棚がガラガラになったとき、思わずその様子をツイートしてしまった(翌日には補充されていた)。私のTwitterフォロワーはほとんどが日本人なので、「アメリカって大変なんだな」程度に受け取られたかもしれないけれど、同じことを日本でやっていたらどうなっていただろう。

その情報を見た人たちは「じゃあ、今すぐスーパーで買いだめしなきゃ」と焦り、不要な買い占めを助長していたかもしれない。それによって、本当に食べ物が必用な人に必用なタイミングで回らなくなってしまったかもしれない。

未曾有のパンデミックを、しかも異国で目の当たりにすると、過激なところ、ショッキングなところばかりトリミングしてしまいがちだけれど、集合体の中のひとりとして、パニックのトリガーになってはいけない。

誰もが情報発信者になれる時代。気軽に伝えた情報の先を想像して、それを見た人の行動までしっかり考えなきゃ、パニックはすぐに加速してしまう。新型コロナウィルスは「SNSが世界的に普及した時代の世界規模の感染症」として、歴史上はじめて、人類のパニックの連鎖がインターネットに刻まれているのが今なのだ。


しかし同時に、SNSで、他国の事例を学ぶことが出来る。

感染が多発した地域で起こった問題は何なのか。
市井の人間でしかない私たちが、何をどう伝えていくのか。


基礎となる文化やふるまい、医療制度の差があるので、異国の事例すべてが活かせるわけではないけれども、とはいえ、二の舞になってしまうのでは情報化社会である意味がない。

SNSがあるから混乱した……という側面もあるだろうが、SNSがあるから正しく予防できた、最悪の事態を防ぐことができた、という希望も持ちたい。



地球という場所で、人間という集合体の一部として組織を作って生きていく中で、本当に重要なことを学ばされている。一刻もはやく平穏が訪れて欲しいと願いながら、日々闘ってくれている方々に心から感謝したい。



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ここから先は、「視点」定期購読者の方に向けて、まさに今考えていることを綴っていきたい。


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新刊『小さな声の向こうに』を文藝春秋から4月9日に上梓します。noteには載せていない書き下ろしも沢山ありますので、ご興味があれば読んでいただけると、とても嬉しいです。