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暮らしや営みの中で零れ落ちそうなことを掬い上げたり、心や脳に浮かんだ閃きを忘れないよう書き留めたりする、思考や思想の直売所のようなものです。
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Farsickness、それは遠い場所への憧れ

6月、欧州からはるばる日本に来てくれたAllaが、その旅を振り返りながらInstagramに"Farsickness"と綴っていた。 見慣れないその言葉を検索してみたところ、日本語訳が出てこない。英英辞書を引いてみると、それはドイツ語での"fernweh"から来た言葉で、ホームシックの逆を意味するという。私が始めて知った言葉だとコメントすると、Allaは「遠い場所への憧れ、という意味だよ」と答えた。 ここじゃない世界に行きたかった……という私にとって大切な一節は、彼女と出

私の好きな、漫画、音声、動画、ドラマ……の話。

文字ばかり書いている身で言うのもなんですが、ときに文字って読むのしんどいですよね。 いや、「しんどいですよね」と共感前提で書いてしまったけれど、世の中には活字中毒の人もいれば、文字情報がさっぱり頭に入って来ないという人もいる。文字に感じる抵抗の度合いは人によってまるで違うしらしいし、平均値がどのへんかはよくわからんけど、私はときどきしんどい。 ここ最近、マットレスの上に転がっている時間があまりにも長かった。激痛や高熱が続く訳じゃあないけれど、家事や仕事をするのはキツいし、

痛みすらも羨ましかった

昨日投稿したnoteに、思っていたよりも反響があって驚いている。通知欄には追いきれない数の感情が届いて、スマホを見るたびに頭と胸のあたりが熱を帯びる。泣いてもいないのに、なんだか泣いた後みたいな身体の火照りがずっとあり、具合がおかしい。 それは不妊治療にまつわる極めて個人的な記録で、恐らくその仔細を目にするのも嫌な人もいるだろうし、『視点』の中に混ぜるのは控えさせてもらった。もし関心がある場合は、こちらから読んでください。 ……と書きつつも、「その仔細を目にするのも嫌な人

弱った心身にてきめんに効く、欲しかった言葉

「これは本当のところ、ただ私が怠けているだけなんじゃないか?」 という気持ちにずっと苛まれている。先々週疾患した疫病……からもう20日近くが経とうとしているのに、未だにずっと調子が悪い。嗅覚は2割方戻ってきたけれど、ダラダラと微熱は残り、寝ても寝ても眠いのだ。これはもうマジで、成長期以来の眠さ。中学生の頃は、授業の間の10分休み全てを睡眠に充てていて、6時間目が始まる前には「よっしゃ、今日はトータルで50分寝た」とか数えていたのだけど……それくらい眠い。今も大あくびしながら

ふつうの暮らしと、確かにそこにある私の違和感

冒頭からわかるように、以下の文章は秋に書いたものだ。秋に書いて、冬のあいだにあたためて、この春出た雑誌『広告』の文化特集号に収録された。で、季節は巡って夏……ということで、写真を補いつつここにも載せさせてもらう。文末には少しだけ、今思うところを加筆した。 ── ふつうの暮らしと、確かにそこにある私の違和感 秋の夜長。裏の庭でリリ、リリリと鳴いている虫たちの声は心地よく、裁縫をする手が進む。裁縫と言ってもくたびれたパジャマのウエストを繕う程度のことではあるのだけれど、そう

香りのない世界

他者の目で、身体で、この世界を生きることが出来たなら、それは一体どんな風になるのだろう……という小規模な、けれども到底無理筋な妄想を、物心付いた頃からなんとなく抱いていた。 私が見ている青と、あなたが見ている青は違う。私が感じている苦味と、あなたが感じている苦味もおおよそ異なる。目、舌、耳、鼻、肌……各所に敷き詰められた私たちの感覚は、みんな当たり前に少しずつ違う訳で、けれどもそれが「どれくらい、どう違うのか」というのは家族であってもわからない。 命って不便なもので、私た

燃やせ! 承認欲求

先日、久々に20代の頃によくつるんでいた旧友らと集まった。 私がバズライターとか呼ばれていたような頃に、共に同じような界隈で形は違えど、仕事なり活動なりをしていた仲間たちだ。あまりにも久しぶりに集まるもんだから、彼ら彼女らのノリに付いていけるか……と懸念していたけれどそれは杞憂で、かつての熱血漢は冷静な実業家になり、かつての遊び人は着実にキャリアを積んで……各々がすっかり地に足をつけていた。 10年前の我々は、そりゃもう浮足立っていた。当時は密やかなお喋りの場所でしかなか

夏は怖いものだから、はやく暮らしを整えて

好きな季節は? と問われたら迷うことなく秋と答える。空が高くなり、虫の鳴き声は心地良く、枯れゆく木々が美しい。その次は冬。葉を落とした木々の枝ぶりが、白く寂しい空によく映えるのは気持ちがいい。春は少し眩しすぎるのだけれど、まぁ花粉を除けば過ごしやすい。しかし夏……夏だけはアカン。 ビーチ、キャンプ、プール、バーベキュー、フェス……いずれも私には縁遠い言葉である。夏は、夏であることだけを理由に、理性を投げ捨てることを許されるきらいがある。肌を露出し、頭はのぼせ、人との距離感が

日本へようこそ! 私の2週間のインバウンドツアーガイド

大好きな友人が、はるばるヨーロッパからやってきた! ウクライナ生まれベラルーシ育ち、今はコペンハーゲンに住んでいるAllaと、彼女とはベラルーシ時代からの長い付き合いであるパートナーのVit。 ふたりが長旅を経て初めての日本、初めてのアジアに来てくれたのが、2023年5月31日。そこから4年前の2019年の春、私はアイルランドのダブリンでAllaに出会った。 彼女は当時、ダブリンでファッションデザイナーとして活動していたのだけれど、語学留学生として1ヶ月だけそこに滞在し

牛込神楽坂、わたしの名店

その街を一度訪れた日から、いつか住みたいと思っていた神楽坂。 あ、この街に住むひとたちはここが好きなのだな……ということを教えてくれる街路灯。街路灯といえばヨーロピアン仕様一択になりそうなものだけれど、神楽坂のそれは行灯のような日本らしい意匠で街並みによく似合う。そして古くなったスピーカーから商店街に鳴り響く陽気な音楽、行き交う老若男女。 老いも若きも、あらゆる世代の人がちゃんと生活している街が好きだ。若者ばかり、老人ばかり、子育て世代ばかり……と偏りがあると、何だか少し

新居のインテリアと、私の買った商品目録

努力している人は夢中な人に勝てないというけれど、だからといって夢中になれることを生業にしようとすると、生活がぶっ壊れかねない。 ここ20日あまり、私はそれはもう夢中で……というよりも毎日が京都大火編の志々雄か? という形相で、朝目が覚めてから深夜力尽き果てるまで旧居を片付け、新居を整えていた。大型家具を運び、削り、塗り、不要になったものを売る……ために洗濯機や冷蔵庫を分解大清掃し、壁紙を剥がし、そしてまた貼り、配線を隠し、コンセントカバーを差し替え、数々の小物類を整理整頓…

頼まれ仕事が性に合う

小刻みな仕事が性に合う。 夕飯を作ったり、部屋の掃除をしたり……気持ちが散らかりがちな私には、そうした小刻みなリズムがちょうどいいのだろうな、と思う。雑誌への寄稿も(炊事や掃除に比べれば大事だけれど)まぁ比較的小刻みで、そうやって依頼に都度応えながら書いている時間が実はいちばん好きかもしれない。ホームランよりも送りバントが好き……みたいな(その喩えで合っているのか?)。 最近は、寒い時期に仕込んでいたものがわっと出てきた。 まずは博報堂が出している謎雑誌「広告」文化特集

スープストックで休ませて

「スープストックが好きな訳は、スープが美味しいというよりもこの空間には小鳥のような女の子しかいないことが安らぎ」 2013年の3月、白胡麻ごはんの横に「東京ボルシチ」と「タイ風グリーンカレー」が並んだ写真と共に、こんな文章をInstagramに投稿していた。位置情報はSoup Stock Tokyoアトレ恵比寿店。おかしな文法を推敲することもなく、息を吐くように投稿していた当時の私は24歳。東京1年目、恵比寿で限界会社員をやっていた頃である。 この写真の向こう側にいるほと

引っ越しと、新・ルールの取り決め

引っ越すことになった。 実家を出たのが23の春で、そこから11年。「たまにゃん」という商店街のゆるキャラに招かれた豪徳寺の6畳アパートから始まり、三角地帯に惹かれて入居した三軒茶屋のマンション、同居人がシェルターから次々と犬猫を連れ帰ってくることから「ワンニャンハウス」と呼んでいたグリーンポイントのタウンハウス、そこから少し歩いたところにあるウィリアムズバーグのどえらいバブリーな高層ビル、しかし疫病で家計も打撃を受けて郊外に……と探した先にあったウェストニューヨークの低層集