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暮らしや営みの中で零れ落ちそうなことを掬い上げたり、心や脳に浮かんだ閃きを忘れないよう書き留めたりする、思考や思想の直売所のようなものです。
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置かれた場所で咲くしかない時もあるんやわ

「あれ?少ないですね……」 不妊治療クリニックで内診を受けている途中、医者が不穏な空気を出した。 昨年の初夏から高度不妊治療に取り組んでいるけれど、1度目の採卵は全て受精せず失敗。2度目の採卵で受精卵(胚盤胞)が出来て、4度移植するも度重なる化学流産により胎嚢確認には至らず。 採卵と移植だけではなく、検査、手術、服薬……と大小さまざまなイベントが発生し、その全てがお金、時間、健康を削ってくるのでもう疲れたドンという気持ちもあるのだけれど、移植6回目までは保険でカバーされ

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青花。枯れることのない青の世界

古代オリエント世界、人々は「青」を永久に手の内に収められないものかと、大変な苦労をしてきたらしい。頭上に広がる空はもちろん手では掴むことができないし、青く目に映る水は手に掬った途端にその色を失い、青い果実や花は人が摘み取ったそばから枯れていく。 だからこそ、ラピスラズリやトルコ石のような青い宝石は重宝されたというけれど──人はその欲の強さで文化を発展させてきたのだ。希少な宝石よりもずっと容易く、もっと思いのままに支配できる青を探した。その先に辿り着いたのが、コバルトを含んだ

私は、美しい暮らしが好き

哲学者の友人、谷川さんに誘ってもらい、同人誌『暮らしは、ことばでできている』に寄稿しています。 私はただ、美しい暮らしが好きなんよ!という話をしているのですが、本になったものを開くと、前書きで拙著のことに触れてもらっており、友よ!!!!という嬉しさがありました。 前書き、そして販売先情報はここからもご覧いただけます。 ここからは、私の文章のみを掲載させてもらうのですが、本として読みたい、という方はぜひ実物で。穏やかや日記がありつつ、渡辺祐真さんと谷川嘉浩さんの鋭利で読み

行かなきゃならない展覧会、5選

芸術というものを紹介するときは、まず自らの足を運び、この目で、耳で、できる限りを体感してから書く……というのが私の中の原則ではあったのだけれど、どうにも身体が動かない。しかし、元気になってから……と身体の都合を待っていると、あれもこれも会期が終了し、なんなら美術館まで休館してしまうようなこのご時世。 ……というのを言い訳にして、行ってもいない展覧会のことをいくつかここに寄せ集めておくことをお許しいただきたい。とは言え数多の情報の中から厳選した、必ず行きたいものばかり。関東中

蛍は光り、人は声を出すけれど

夏風邪をこじらせてしまい、5日ほど寝込んでいる。クーラーの影響か、喉がやられてしまった。 夫は出張に出ていたし、最低限の食料は宅配で賄っていたので、三日三晩ほど「あ」とも言わない日々を過ごした。 声というのは、「私はここにいる」とその場で伝える最善の手段なのだよな……とそれが出なくなるときいつも思う。触れる、叩く、もしくは殴るといった動作で気持ちを伝えるのはあまりにも直接的だけれど、音は空気を震わせて周囲に届く。その色によって、心の内までも伝えられる。残念ながら我々は蛍

森羅万象への敬意が生む、類まれなる調和

美しい時間の覚え書き。 赤坂見附で下車して、ぱっとしない地下道をせっせと歩いた末に辿り着く、綺羅びやかなサントリーホール。きらきらと輝くホワイエに気持ちが高揚しながらも、同時に少し安堵する。いつもここに来るときは少し気が張っていたのだけれど、昨夜は楽しみなばかりの夜だったのだ。 というのも私は昨年まで、サントリーホールのことを紹介する雑誌連載を受け持っていた。だからかなりの頻度で来ていたし、何度も演奏会を楽しませてもらったのだけれど、いつも「文章のネタを見逃してはならぬ!

バンコク、灼熱の街で

「しばらく、自由に過ごしてもらって大丈夫です!」 4月1日、主治医にそう告げられた。不妊治療なるものはとにかく制約が多いのだけれど、あれもダメ、これもダメ……という日々をしばらく過ごした末に妊娠不成立となれば、束の間の自由が訪れる。けれどもその次の移植が上手くいけば妊婦になる訳で、今ここで提示された自由は、30代最後の自由……になるかもしれない。そう考えると途端に焦燥感が生まれてくるもので、「どこか遠くに行くなら、今!」と夫にLINEした。 ── 我々夫婦は、一緒に海外

不妊治療と仕事は両立できるのか問題。

前回、京都で展覧会を開催した話を書いたけれど、会場に来てくださったお客さんの多くから「体調は大丈夫?」「無理しないで」というお声掛けをいただいた。 私は不妊治療をしていることを赤裸々に書いているために、それを読んでくださった上でのことだろう。「痛い」「先が見えない」「自由に仕事が出来ない」という、うだつの上がらない言葉ばかりを公にしてしまっていることもあり、必要以上の心配を掛けてしまっているのではないか……と申し訳なく思った。でも展覧会の間は幸か不幸か、すこぶる元気だったの

京都でのAesther Changの展覧会を終えて──言葉にしておきたいこと

大きな出来事があると、ちゃんと書かねば……と思いながらも、気持ちの整理が付けられないままに1週間、1ヶ月、半年……と過ぎてすっかり風化してしまうことがままあるのだけれど、これはちゃんと言葉に残しておかなきゃいけない。 企画、運営を担当させていただいた京都でのAesther Chang個展は、6月28日からの3日間、良い形で会期を終えることが叶いました。お越しくださったみなさま、本当にありがとうございました。 ニューヨークのソーホーで、台湾系アメリカ人のAesther Ch

「将来の夢は?」という質問を受け続けることで、育てていった自らの呪い

「将来の夢は?」 大人は子どもに、何の気なくそう尋ねる。私だって姪っ子に、そうしたことを聞いたことがあったかもしれない……いや、なかったかも。と、聞く側はそれくらい無意識なものだ。それは「今、何年生?」「好きな食べ物は?」と同じくらいに、子どもに向けたありがちな質問なのだし。 ただ問われる側だった頃の記憶を思い返してみると、そこで大人の望むような回答……つまり具体的な、わかりやすい職業名を挙げることに対して、小さな居心地の悪さが確かにあったのだよな。 ── 私がそうし

曖昧だからこそ

「あなたの文章には、具体的な感情を表す言葉が滅多に出てこない」というようなことを友人に言われて、確かに……と思った。書いているときは非常に感情的なのだけれど、最終的にはできるだけそれを隠すようにしているのだ。あまり気づいていなかったけれど。 たとえば、アメリカから帰ってきた直後の話を書いた以下の文章。新居に入居し、そこに画家のAestherから餞別としてもらった絵を飾った日のこと。 冒頭の「白木のフレーム」「新居」「水彩画」というキーワードはいずれも、新生活に対するさわや

現のなかの、夢のなか

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東京、アート巡り

昔はギャラリーや美術館を1日でいくつも梯子して……ということばかりしていたのに、ここ数年はさっぱりご無沙汰になっていた。アート巡りは単純に気力体力がいるのでインドアな35歳にはヘビーでもあるし、自分の好みが明確になってきたので気になるものだけ行けば良いやという心理になってきたのもあるし……。 ただ1週間前から、アメリカからAesther Changがやって来たので、そのお供としてかなり久々に東京アート巡り。すると「東京って今、こんな動向の展覧会がやっていたのか……!」と新鮮

「あなたはなぜ子どもが欲しいのか」という問いに対して

「あれ、酒飲めたんすか?」 昨日の夕方、近所の店に立ち寄り「ビールで!」と頼んだときに、若大将は驚いた顔でそう言った。確かに私はずっとこの店で「お茶で……」「ノンアルで……」と頼み続けていたので、飲めない人認定されていたのだろう。 というのも、不妊治療中は定期的に妊婦予備軍になるので、なかなか酒が飲めない。でも昨日、3度目の移植に失敗したことがわかったので、久々にビールを飲んだ。ノンアルビールとは比べ物にならないほどに美味しくて、身体中を巡る血が待ってました! と狂喜乱舞