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2023年、分け隔てず生きる

こんにちは、CINRA, Inc.の杉浦です。

2022年の漢字は「戦」でした。ウクライナ危機はもちろんのこと、長引くコロナ禍や政情不安、低迷する経済などで、多くの「いさかい」に溢れた1年でした。

「わからない」者同士が共通点を見つけるきっかけを一つでも生み出すことで世界平和に近づきたい、という思いでメディア「CINRA」と中高生向け教育事業「Inspire High」を運営する私にとって、「戦」に象徴された一年は、敗北といっていいのかもしれません。

今年の悔しさを来年にポジティブに持ち越すために。「分け隔てず生きる」というキーワードで決意と約束を綴ろうと思います。

障がい児と健常児を分け隔ててきた日本の教育

今年9月、以下のようなニュースが報じられました。

日本政府が、国連の障害者権利委員会から勧告を受けたというニュースです。国連が、障がい児を分離した日本の特別支援教育の中止を要請しました。

調べてみると、日本は明治以降から障がい児と健常者の教育を分ける「分離教育」の方向に、欧州を中心とした国連はともに学ぶ「統合教育」の方向に、それぞれ教育文化がつくり上げられてきたことがわかりました。

昭和22年(1947年)の学校教育法,昭和54年(1979年)の養護学校義務制から,障害の有無によって障害児教育と通常教育とに二分されて教育が展開されてきた。これに対して,統合教育では,特殊教育において分けられた児童を再び一緒にする考え方を展開した。一方,インクルーシブ教育においては,子どもたちを障害の有無によって,そもそも分ける必要がないと考える。

『障害児教育におけるインクルーシブ教育への変遷と課題』髙橋純一・松﨑博文より

違いがあるのならば、分け隔ててそれぞれに最適な学びをしたほうがよいという考えが一方、もう一方は、ともに学ぶことで違いを深く理解し、全員がよりよく学ぶ方法を考えていくべきとする考え方。

昨今注目される「インクルーシブ教育」は後者の立場に立った考え方であり、こうした背景から、国連は日本政府に対して分離教育の中止を要請しました。

この報道を受けて、ネット上ではさまざまな声があがりました。

ダイバーシティやインクルージョンに対する未成熟な日本社会を非難する声もあれば、分離教育によって助けられてきたという当事者の声も見られました。一筋縄ではいかない、唯一解を出せるほど簡単な問題ではありません。同時に、「じゃあ変えよう」と言って、せーので変えられるものでもありません。

私個人としては、分け隔ててしまうことによって生まれる無理解が、差別や無意識な排他の温床になってしまうのではないかという理由で分離教育を段階的に廃止していくべきという考えを持っています。また、こうした指摘が国連からなされるということは変化が推進されていくためにも重要なことだと思います。

2022年、失敗オブザイヤー

そんな考えを持っていると言いながらも、今年、私はまったく反対の言動をとってしまいました。2022年の失敗オブザイヤーです...…。

小学校に入ったばかりの娘が、街で知的障がいがあると思われる子どもを見かけたときのことです。

「ねぇねぇ、なんかあの子、変だよ」

けして小さくなかったその声に、私は反射的に、

「ダメだよ、そんなこと言っちゃ」

と返しました。

なぜ、ダメなのか。
なにが、ダメだったのか。

目の前の本人やその親御さんに聞こえてしまって傷つけてしまってはダメだと思いましたし、ただ思ったことを素直に発言しただけだったとしても我が子に障がいのある人を「変だ」と思ってほしくなかった。それゆえの反射的な発言でした。

しかしそれは、私のなかにこびりついた分離教育脳の発動でした。目の前の異なる存在に対して分け隔て、思考停止を子どもに要請してしまったと同然の発言でした。

本来なら、何が変だと思うのかをその場で聞きたかったですし、自分とその子との違いや共通点を考えられるような問いを投げかけたかった。そして、知的障がいのある人が存在していて、どうしたらその人たちと一緒に遊んだり勉強したりできるかアイデアを聞いてみたかった。

ついつい頭でっかちに、「国連が」とか「日本の教育」がなんて言いがちですが、なんのことはない、理想が膨らむばかりで、私自身が実践できていなかったのでした。

どうしたら人種差別を終わらせられるか?

違うから分け隔てるのではなく、違うからどうすれば一緒にやっていけるかを考える。
どうしてそんなに簡単なことが難しいのか。

CINRA, Inc.から生まれた、中学高校向けのオンラインプログラムである「Inspire High」という事業があります。そのプログラムの1つに、マサイ族の長老、エマニュエル・マンクラさんと実施した動画セッションがあります。

彼は、「どうしたら人種差別を終わらせられるか?」という日本の10代からの問いに、このように答えてくれました。

「Inspire High」プログラムより

人はなぜ人種差別をするのでしょうか?

それは彼らが脅かされていると感じるからです。
彼らの生活が脅かされていると感じるからです。
あなたは自分と違う人種の人を信頼できますか?

これは大きな質問です。
なぜ自分から始めないのですか。

なぜ日本人として白人の人々を信頼し始めないのですか。
なぜ黒人の人々を信頼し始めないのですか。

私たちが他の人の大切にしている領域を理解し、彼らがなぜそのように振る舞うのか理解すれば、私たちは人種差別をなくしていけると思います。人種差別はあなたと私が生み出しているものだからです。

あなたと私です。
他の誰かではありません。

あなたと私から差別をやめることを始めませんか?

Inspire High 『ケニアのマサイ族長老と考える、アイデンティティってなんだろう?』より

2022年、私たちがやってきたこと

私たちCINRA, Inc.のミッションは「人に変化を、世界に想像力を」です。

我々が練りあげていく一つひとつのプロジェクトやコンテンツを通して、それに触れてくださった人が新たな気づきをえて、分け隔てられていた自分と誰かが想像力でつながっていく世界を、これからも愚直につくっていきたいと思います。

衝撃的で悲惨なニュースからはじまった2022年。
持続可能な社会への時限タイマーは絶望的に待ったなしの2022年。

視点は高く持っていたいですが、それで立ちくらみをしてしまうようだったら、じっくり足元から、日常から「分け隔てず生きる」を実践していく。私自身、そんな2023年にしていきたいと思います。

最後に、2022年にCINRA, Inc.で積み上げさせていただいたプロジェクトを、一部紹介させていただきます。

今年も多くの方々にお世話になりました。ありがとうございました。
2023年もよろしくお願い申し上げます。


<メディア コンテンツ編>

▼「戦争反対」と叫ぶのは無意味か?『No War 0305』でGEZANらと1万人のデモが暴力と冷笑に抗議

▼『作りたい女と食べたい女』が解く呪い。「女と料理」、レズビアン・アイデンティティー

▼「実際のろう者が使う手話をスクリーンで見てほしい」。米映画『コーダ』手話演技監督の決意

▼街でのスケボーは「迷惑」か? 社会との共生を目指し、都市をプッシュで駆けるDiaspora skateboards

▼最終回迎えたドラマ『恋せぬふたり』考証メンバーが明かす裏側。恋愛なしで「家族」はつくれる?


<プロジェクト編>

▼オンラインイベント『わたしたちのヘルシー 心とからだの話をはじめようin Mar. 2022』

▼小さな声に耳を澄ませ、多様な時代の課題解決を。CINRA, Inc. × SIGNING「coeプロジェクト」

▼キリンのDNAを未来につなぐオウンドメディア「KIRINto」

▼アイデンティティーが一瞬で伝わるサイト設計を実現。青森県立美術館

「時代を超えた感動」を生み出すプロジェクト。LINE RECORDS「Old To The New」



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