パタゴニア、ライオン、ユニクロ。パーパスを大事にする企業の「ストーリー」を考察!
こんにちは。プランナーの宮崎慎也です。
CINRA, Inc.では、「企業のパーパス」を重視し、「その企業がなぜ存在しているのか」をベースに、サイト設計やメディア展開などを推進しています。
パーパスやミッションやビジョンを重視している企業の方々にヒアリングを進めていくと、みなさん、「ストーリー」を伴って語っていただくことが多々あります。
スローガンやキャッチコピーとしてパーパスを表現しつつも、その背景にあるストーリーがあることで、パーパスがより生きたものになっていると感じます。
そこで、今回のnoteでは、世界的な企業でパーパスを重視している3つの企業を探ってみます。あくまでウェブなどで見つけた情報ですが、どんなストーリーを各社がもっているのか、探していきたいと思います。
故郷である地球を救う「パタゴニア」
パーパスとストーリーという言葉で最初に思いつくのは、パタゴニアです。つい先日のニュースでは、創業者のシュイナード氏が、気候変動対策に充てるため、新たに設立した団体に全株式を移管すると発表しました。
シュイナード氏は、以下のように語っています。
まさに「パーパス」に向かっている動きを起こし続けているのがパタゴニアです。
さて、このパーパスドリブンなパタゴニアですが、理念を一新したのは2019年のことでした。このハフィントンポストの記事で、企業理念を変更した理由が書かれています。
2019年に新たに掲げられた理念は、こちら。
すごく力強いスローガンですよね。まずはそのルーツにありそうな「創業者のストーリー」を探してみたいと思います。
地球を救うルーツとなったストーリー
パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードの歴史を辿っていくと、「地球を救う」きっかけになったエピソードがありました。
1.クライミングとの出会い
シュイナードがクライミングを始めたのは1953年、14歳のときだったそうです。絶壁にあるハヤブサの巣まで懸垂下降する方法を教わって以来、ロッククライミングにハマっていきます。
1957年、シュイナードはくず鉄屋に行き、重さ60キロあまりの金床、石炭の炉、ハンマーを買い、鍛冶屋のようなことを始め、ロッククライミングで使用する「ピトン」をつくるようになりました。
2.アメリカ最大のギアメーカーへ
ピトンとは、クライミングの際,岩などに打ち込んで,確保の支点や手がかりなどに用いる釘のこと。このピトンをきっかけに、友だちからもシュイナードの「クロムモリブデン鋼のピトン」が欲しいと言われるようになり、いつの間にか、それはビジネスとなっていきます。
1965年、シュイナードはトム・フロストと共同で、シュイナード・イクイップメントの経営をはじめ、1970年にはアメリカ最大のクライミング用具メーカーになっていきました。
3.好きなことが地球を傷つける
しかしながら、同時に、いつのまにか環境の敵にもなっていたのです。鋼鉄製ピトンをハンマーで打ち込んだり抜いたりするため、岩壁がどんどん傷んでしまう。好きなクライミングを続けることが、地球を傷つけることになってしまう。それはシュイナードにとっても矛盾を抱えることでした。
4.岩を傷つけないクリーンクライミングへ
その想いを胸に、シュイナードとフロストはピトン事業をやめる決断をしたのです。同時に、「クリーンクライミング」というスタイルを提唱し、岩を傷つけないギアの開発も行ないます。
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当時のシュイナードの想いは、1972年に刊行された「シュイナード・イクイップメントのカタログ」に綴られており、50周年のタイミングで公開されました。ぜひ、その強い想いを読んでみてください。
このシュイナードの方向転換が原点となり、パタゴニアは「地球を救う」というパーパスにつながっていくことになります。創業時ではなく、創業してしばらくして、いまのルーツが築かれるというのはユニークですね。
企業のストーリーというのは、創業者のストーリーが最も力強いことが多いものです。ということで、最近のパタゴニアに関するストーリーも探してみたいと思います。
農業から地球を救う、新規事業のストーリー
企業が新しい事業に向かうときには、ストーリーが生まれやすいものです。というよりも、ストーリーのない新規事業はなかなか社内でも受け入れられにくいかもしれません。
パタゴニアが新たに参入したのが「食品業界」でした。アメリカでは2011年から始まり、日本では2016年から本格的にスタートしています。クライミングギアをつくってきたパタゴニアはなぜ食品業界に進出したのでしょうか?
まさにその答えはこのページにまとめられています。ストーリーをしっかりと言語化し、公開しているのもパタゴニアの魅力ですね。
パタゴニアがつくる食品コレクションは「パタゴニア プロビジョンズ」と名づけられています。上のリンク先の文章を要約するとこのようなことでした。
1.じつは農業によって地球は壊されている
利益を重視する農業によって、土壌は汚染され、国連食糧農業機関(FAO)によると、我々が現在の速度で土壌を劣化させ続けた場合、残される収穫量はたった60年分ほど。さらに、温室効果ガスの19〜29%は農業を含む食品関連産業からと言われています。
2.農業を変えないと地球は救えない
この状況を変えないと、持続可能性は実現できない。シュイナードによると「私にとって、プロビジョンズはたんなる投機的事業ではない。それは人間の生存の問題だ」と綴っています。
3.「環境再生型農業」を提唱
そこで環境再生型農業を提唱。このリジェネラティブ・オーガニック農法の手法により、より健全な土壌を構築しながら、大きな作物を生み出すことができる可能性があるそうなのです。
4.ビールからドライフルーツまで
この経緯から、地球を枯渇させるのではなく、修復し、風味豊かで栄養価の高い食品で満たされた未来を目指し、食品業界に参入しました。ビール、スープ、缶詰め、ドライフルーツなどを展開しています。
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簡単な要約ですが、新規事業である食品業界参入には、このようなストーリーがありました。これだけでも、パタゴニアが食品および農業に向かう理由が見えてきますし、そこにある想いも感じられます。
ストーリーを覗いてみると、理念である「故郷である地球を救う」という短い言葉のなかにある奥行きや本気さ、情熱などが伝わってきますね。これがストーリーの力なのかもしれません。
人々の習慣づくりで毎日に貢献する「ライオン」
続いて、生活用品メーカーであるライオン株式会社のストーリーを探してみたいと思います。
ライオンのパーパスは、こちら。
「より良い習慣づくり」というのがキーワードのようです。どんな習慣をつくってきているのか、ストーリーを探してみたいと思います。
子どもが進んで手洗いしたくなる習慣づくりのストーリー
みなさんご存知の「キレイキレイ」というライオンのヒット商品にストーリーがありそうです。
1.O-157が社会問題に
1996年に病原性大腸菌「O-157」が発生し、食中毒の集団感染が大きな社会問題になりました。とてもたくさんの子どもたちが被害を受けました。
2.ウイルスから子どもたちを守るという使命
この問題によって、子どもたちをウイルスや菌から守るために、「手洗いの習慣化」が社会的な使命になりました。
3.強制では習慣は根づかない
しかしながら、厳しいしつけや強制では、なかなか習慣は身につかないものです。子どもが自発的に手を洗うには、どうすればいいのか。その習慣を家庭にまで浸透させられないだろうかと試行錯誤します。
4.「キレイキレイしよ!」を合言葉に
その結果1997年に「キレイキレイ」が誕生します。「バイ菌は恐い」という、それまでの恐怖訴求型の市場に、「楽しく洗える殺菌ハンドソープ」という独自のポジションを確立し、「キレイキレイする」という合言葉とともに、楽しい習慣に変えることで、家族に清潔習慣を浸透させていくことになります。
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とてもシンプルなストーリーですが、強制ではない手洗い習慣づくりが起点となって、「キレイキレイしよ!」という言葉は多くの人に耳に届くことになりました。
ここで重要なのは、機能的には殺菌ハンドソープであることは従来と変わらないなかで、「楽しく洗える」という情緒的価値が付与されていることにあります。この情緒的価値を支えるものとしてストーリーが効果を発揮しています。
服を変え、常識を変え、世界を変えるユニクロ
続いてはユニークのストーリーを探してみます。ユニークを運営する株式会社ファーストリテイリングが掲げている企業理念は、こちらです。
本当に良い服、いままでにない新しい価値を持つ服を創造し、世界中のあらゆる人々に、良い服を着る喜び、幸せ、満足を提供すると宣言するユニクロのストーリーを探してみます。
下着の常識を変えるストーリー
ユニクロの「常識を変える」ストーリーはさまざまありそうです。たとえば、90年代に「フリースブーム」を巻き起こしたストーリーや、2000年代には「ヒートテック」を生み出したストーリーなど、商品開発の裏側には刺激的なストーリーが眠っていそうです。
そのなかでも今回はこのELLEのインタビュー記事からストーリーを探してみました。
デザイナー黒河内真衣子さんとユニクロのコラボで生み出された下着のコレクションです。
1.インナーが透けて見えることが好まれない時代があった
下着のコレクションをつくるきっかけとして、トップスからインナーが透けて見えることが好ましくないという風潮があり、それを変えたいという想いが黒河内さんにはあったそうです。いまではファッションも多様化し、表に見えても良いインナーの必要性を感じていたそうです。
2.下着は誰かのためではなく、身につける本人のためのもの
そこでユニクロのコラボによって、下着というものを誰かのためではなく、身につける本人たちにとって本当の意味で開放感や心地よさを感じられるものをつくる、というビジョンが生み出されます。
3.技術とデザインで常識を変える
快適さを求めるために、ユニクロの技術開発によって、ブラジャーにはワイヤーがあるという固定概念を破り、胸が綺麗に見えるワイヤレスブラが実現します。黒河内さん自身も自身が固定概念にとらわれていたことを実感したそうです。また、世界中の人が身につけられるようにアースカラーのデザインで、多様な女性のスキントーンにも美しく溶け込むカラーパレットになっているそうです。
4.下着と洋服の垣根を越える
その結果、肌にいちばん近いところから女性を美しくするインナーウェアが誕生します。「鏡で自分を見たときに、自分自身を美しいと思えるものを身につけることが下着において必要」と語る黒河内さん。下着と洋服の垣根を越えるというコンセプトのコレクションとして、ルールに縛られず、自由にコーディネートしてほしいと語っています。
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一つのコレクションが生み出されるにあたって、ビジョンの重要性とそれを実現する常識を変える力がうかがえるストーリーでした。ここにファーストリテイリングが提唱する「服を変え、常識を変え、世界を変える」理念が息づいているように感じます。
下着というプロダクトを通して、女性の生き方やライフスタイルまでも変える提案をしていく。理念の奥行きが感じられるストーリーでした。
今回は3社のストーリーを見てきましたが、各社ともに理念として掲げていることを体現するようなストーリーに感じました。理念の言葉だけではわからなかった、その企業の想いや情熱や機微のようなものが、ストーリーからは溢れていました。
パーパスやミッションを神棚に飾るのではなく、その精神や思想を一つひとつの仕事につなげていく。そのつないだ想いをストーリーというかたちで表現していく。この循環が生まれている会社は、会社の存在意義も強く、社員のエンゲージメントも高いのかもしれません。
これからもメディアカンパニーであるCINRA, Inc.は、さまざまな企業のストーリーを探し、編集し、発信していけるといいなと思います。
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