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【そのお金、本当に人のやる気を引き出していますか?】リファラル採用・ピアボーナスに潜む罠

こんにちは!シンギュレイトnote編集部です。

みなさんの会社では、リファラル採用はやっていますか?さらにいうと、リファラル採用に対して金銭的な報酬はついていますか?それはいくら?10万円?30万円?それとも100万円!?

実は、「リファラル採用の成約時に発生する金銭報酬には、大きな罠が潜んでいる」と話しはじめたのは弊社代表の鹿内。そのお金は本当の意味で人のやる気を引き出しているものではないそうです。

そこで今回は、「金銭報酬に潜む罠」を代表の鹿内に聞きました。3今回のお話はリファラル採用に限った話ではありません。年間MVPの賞金、毎月のインセンティブ、日々のピアボーナスなどなど......金銭報酬のついた人事施策を設けている企業の人事担当者のみなさま。必読です。

京都大学などの研究機関の教員・研究員として、ヒトの脳(認知神経科学)の基礎研究に第一線で従事。その後、大手人材企業でピープルアナリティクスの事業開発に取り組む中、株式会社シンギュレイトを設立。”信頼”をキーワードに、人と人との新しい関係・関係性を作り、新結合(イノベーション)を増やすことを目指す。ピープルアナリティクスの技術、学術研究などの知見を活用し、イノベーティブな組織づくりを支援している。1on1での話し方・聴き方を可視化する1on1サポーター「Ando-san」、イノベーティブな組織への変革を促す組織診断「イノベーション・サーベイ」を提供中。情報量規準が好き、漫画好き、サッカー好き。
話し手:鹿内 学,博士(理学)シンギュレイト 代表

リファラル採用の狙い、そして……

昨今、社員が友人や知り合いを自社に紹介して採用する「リファラル採用」が一般的になりましたね。一緒に仕事をしたことがある関係性ならば、仕事ぶりやスタイルを事前に知れるメリットがあります。ベースとなる人間関係もできていれば、すぐ組織に馴染みパフォーマンスも上げやすいでしょう。

僕(鹿内)が聞いたところ、企業によっては、リファラル採用が成約した場合、紹介したメンバーになんと「100万円」の報酬を設定している会社もある模様。一般的に、人材会社を通じて人を採用する際には、採用者の年収の3分の1を人材会社に費用として支払います。たとえば、年収600万円の方を採用したとしたら200万円です。実際には、人材会社に支払う費用だけでなく、採用活動を行っている人事担当者にも給与が発生していますから、年収600万円の人を採用するのに、ゆうに200万円以上が必要となることになります。

「リファラル採用で紹介してくれたメンバーに100万円は高い!」と言いたくなるかもしれませんが、このように通常の中途採用にかかっている費用と比べれば安いのです。また、紹介してくれたメンバーにも報いられる、という面もあるでしょう。

しかし、僕はリファラル採用で数十万円、ましてや100万円という「強すぎる報酬」は得策ではない、と思っています。これは効果のある反面、ある種の「劇薬」となるケースがあるからです。

その理由は、脳の働きの「報酬系」と呼ばれる仕組みにあります。

報酬系に潜む罠

人事分野以外にも目を向けると、報酬系に関わるサービスはいっぱいあります。たとえば、パチンコなどのギャンブル、スマホゲームのガチャなどです。これらは巧みに報酬系に働きかけ、ついついお金を払ってやってしまう仕掛けを潜ませています。

その実、京都大学で研究者だった頃、この報酬系にかかわる脳の研究をしていました。ここでは、その時の知識をもとにお話ししたいと思います。

脳には、食事をしたり、お金をもらったりなど、なんらかの報酬に反応する大脳基底核系とよばれる脳の領域があります。この報酬系でよく知られているのが「アンダーマイニング効果」。アンダーマイニング効果とは、何かを取り組んでもらうときに、金銭などの外的な報酬を与え続けると(外発的な動機づけ)、その報酬がなくなった途端にそのことをやらなくなるという効果です。

ある心理学の実験を紹介しましょう。「ストップウォッチを10秒で止める」というものです。これを、報酬ありと報酬なしの2グループに分かれてやってもらいました。さて、どちらが自発的にこの遊びをやっていたでしょうか?

それは、「報酬なし」のグループだったのです。報酬なしの方が、休み時間にも自発的に取り組んだという結果になりました。これは、「報酬あり」のグループでは、「外発的動機づけ」が強化されて、主体性の起源でもある「内発的動機」を損なってしまったから、と考えられています。これは教育学でも知られた現象で、脳の反応としても確かめられています(Murayama et.al., PNAS, 2010)。

良かれと思って設定した報酬が、その人の内面から湧き上がる根源的な動機である「内発的動機」を阻害してしまう、なんていう事態。わかった時には頭を抱えたくなることでしょう。

このアンダーマイニング効果は、なにもリファラル採用に限った話ではありません。営業のインセンティブや、四半期毎に「MVP」の表彰も同じ。確かにこういった報酬は、マネジメントをしやすくする効果が得られる可能性があります(社員が物事に積極的に取り組むようになるなど)。

ですが、アンダーマイニング効果を考えると、報酬が無くなったときに物事に対して取り組みにくくなってしまう、という負の可能性も秘めているのです。

チリも積もれば......ピアボーナスの落とし穴

前段では、一度に大きな金額が発生する金銭報酬に目を向けてきました。次に、社員同士で感謝を送り合い、その感謝に少額の金銭を結びつけた「ピアボーナス」についても考えてみたいと思います。

ピアボーナスも少額とはいえ、感謝に報酬がくっついているもの。積もっていけば、それなりの額になっていきます。チームのために協力的になるのはとても大切なことですが、「他人からの感謝(報酬)がほしい」という外発的な動機づけに依存してしまうと危険です。それは外発的な要因がなくなった途端に、仕事に対してのモチベーションは低下してしまうため。ピアボーナスがなくなった途端に協力的でなくなってしまうかもしれません。

他人からの賞罰は、おもには「取り入れ調整」と呼ばれる外発的動機づけにかかわります。ピアボーナスの運用を見てて残念に思うのが、チームの中で世話焼きな人ばかりが感謝をもらうような場面です。ピアボーナスを狙って他人の世話を焼く時間があったら、自分に与えられたミッションをもっとやった方がいいケースもあるでしょう。特にいくら頑張ってもあまり昇給しないような職場だと、目先のピアボーナスに飛びついてしまいがちです。

当然ながら仕事はチームのためだけではなくて、お客さん・顧客に届けなきゃいけないもの。目先のピアボーナスという外発的な要因に動機づけられて動くのは、顧客のための行動になっていないかもしれません。

金銭的な動機づけではなく、内発的な動機づけを。

リファラル採用やピアボーナスといった金銭的報酬は、会社が社員に望む行動を取らせるのには手っ取り早い方法かもしれません。しかし、報酬による外発的動機づけは、その報酬が無くなった途端にその行動をやめてしまう恐れがあります。しかも、仕事の成果を届ける顧客のための行動にならない可能性すらあるのです。

では、どのような動機づけを行えばよいのでしょうか?

それは、「内発的」な動機づけです。内発的な動機とは、その人のうちから湧き上がる「好き・楽しい・知りたい」などの感情によって、動機づけられるもの。内発的動機づけができると、主体性・自律性が溢れ出します。

何かしらの点で、与えられた仕事であっても、自身で意義をつくり、創意工夫を主体的・自律的にやっていくことが、より良い仕事をしていくことにつながります。どの様な仕事でも、状況などに合わせて大なり小なりの応用や工夫が必要で、それこそが仕事の質にかかわること。この質は、外発的動機づけではなかなか得られないでしょう。

リファラル採用、MVP、ピアボーナス......このような外的な報酬設定は、薬の投与と同じ、と言い換えてもいいかもしれません。薬には副作用がつきもの。何かを取り組んでもらうときに、金銭などの外的な報酬を与え続けると(外発的な動機付け)、その報酬がなくなった途端にそのことをやらなくなるというアンダーマイニング効果はその副作用と言えるものです。

報酬金を絡めた人事施策を考えるときは、アンダーマイニング効果を考慮した上で施策立案をしてみてはいかがでしょうか?本当の意味で社員のやる気・主体性を引き出す人事施策こそが必要なはずです。


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