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映画『都会のアリス』の魅力

配信時代とは言え、廃盤になって久しい名作が多々ある中でも、復刻の願望が特に多いとされている作品にヴィム・ヴェンダース監督が初期に手掛けた『都会のアリス』があります。こちらの廉価版に期待する映画ファンはかなりいると思われます。

私見でしかありませんが、現役で世界最高峰の映画監督を挙げよともし訊かれたら、私は迷う事なくヴィム・ヴェンダースの名前を挙げます。
ヴェンダースがある種開拓していったと言っていい‘ロードムービー’(旅物語、旅情モノ)というジャンルにおいて、商業映画監督としての黎明期に『都会のアリス』を手掛けた事がその後の方向性を示唆、決定付けたのは疑う余地はないと思います。

制作時は1973年、公開は翌年の1974年。その10年後の1984年に映画史に残る名作『パリ、テキサス』が公開されます。そこに至る原点、核心にあたる要素の詰まった作品、それが『都会のアリス』なのです。未見の方には勿論、実際に観ていただきたい作品であるので、本稿では私なりに作品から感じる軸、ある意味期待を抱いてもらえるイントロダクションとしたいと思います。

映画の三大鉄板要素と云われているテーマに‘子供’‘動物’‘食’が挙げられます。このテーマを扱うとほぼハズす事はないということです。興業的にも強いとされます。『都会のアリス』は‘子供’が重要なアイテムとして本作の印象を決定づけるものになっています。その発展版、バージョンアップした作品が『パリ、テキサス』と考えると、観る側の琴線に子供の名演が響いて止まないのは恐らく自分自身の郷愁を呼び覚ましてくれる、誰しもが感情移入の対象にオーバーラップしているからだと推察されます。

子供のお芝居の素晴らしさとは何か…偶発的な様にも見える、流れるような無くてはならない愛しさ。一言で魅力的以外にありません。
『パリ、テキサス』の時にも感じた、子供は愛情を欲する生き物であり続ける存在故に、大人たちが無償の思いでどうにか子供たちの心の隙間を埋めようと尽くしていく不器用なアクションは、親の経験有る無しでまた感情移入の深度が違ってくるでしょう。

ストーリー概要としては、ふとした出会いからの見知らぬ大人と子供の旅、ある目的地に向かう話しであるのですが、振り回されながらも見過ごせない大人と子供の予測できない行動のコントラストが絶妙です。全体を通して僅かしかない主人公の大人の笑顔の表情は事態の展開に直結していく意味も絡んで、引き込まれていきます。そして振り回す側の子供が、たまたまの婦人に訊ねる「親子に見えるか」という質問のシーン。そのシーンは非常に行間に富んだ秀逸な場面です。
ラストシーンまでの構成はどこか私小説的ながらもストーリーテリングを踏まえた、ヴェンダースがどの作品でもこだわる物語であるか否かを、十分満たしています。

そしてこの作品の最大の特徴は全編モノクロームである点です。この効果こそ前述したノスタルジアを想起させる一方、ドキュメントのように有り様を浮き彫りにしている錯覚を与えています。
ヴェンダースは後に『ことの次第』でもモノクローム作品を手掛けていますが、そうした効果を熟知して、タイプでアプローチ方法を変える撮り方を駆使しているのだと思います。

‘ロードムービー’が好きな方ならぜひ観ていただきたい一本、それが『都会のアリス』です。

旅がしたいですね…

この時季の夕刻の空。
陽が長くなったせいか、千切れ雲の残照が広く何故だかセンチメンタルに映る。時間は否応なしに過ぎていく…受け止める人々の思いはそれぞれでしかありません。

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