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世界の終りとハードボイルドワンダーランド

私がこの小説を目にした時、そこにはなぜこの題名なのかという大きなそして疑り深い疑問があった。小説を手に取ると重みがあり、上巻と下巻の2冊に分かれている。さて、読もうか読むまいか。村上春樹を初めて読んだのは20歳くらいのことだったと思う。「ノルウェイの森」か「風の歌を聴け」だったか、読んで初めにどうしてこの方はこのように比喩表現を多用し知らず知らずのうちにお洒落な世界を描くのだろうかと熱いラブコールを送らずにはいられなかった。その後も、「スプートニクの恋人」や「1980年代のピンボール」などを読み、そのパラレルワールドのような世界観に没入していった。そして今回手に取ったのが題名からして著者らしい「世界の終りとハードボイルドワンダーランド」だ。この物語は、2つのパートに分かれている。小説世界は少年に近い年頃の主人公の「世界の終り」と35歳の男性の「ハードボイルドワンダーランド」が交互に入れ替わって描かれている。世界の終りには、一角獣という幻の動物が存在し、「街」に人間と共に暮らしている。この一角獣は後の小説世界の鍵となる存在で、金色の毛並みや青い眼がその重大さを比喩しているように感じた。一方、ハードボイルドワンダーランドでは、謎のエレベーターから始まり、地下世界が描かれている。人間に脅威をもたらす生き物、やみくろが存在し太古からなるその世界の神秘さを表現しているようだ。しかし現実は淡々と進む。仕事に就いていてお給料は入るからお酒を買って、主にウイスキーを飲んだり本を読んだり女の子と寝たりする。主人公はその現実世界にある程度、調和を見い出している。それを破ったのが、ある研究と一角獣の頭骨だったのだ。

ここからはネタバレになりそうなのでもう書けないが、この小説には他のどの小説にもない、濃厚なハードなそして温かなぬくもりを感じることのできる世界が詰まっている。主人公の意識をそのまま文章に描いているので、まるで読者の自分自身がその世界を体験しているか主人公の伴走者になった気分である。

数々の音楽も登場し、私はそれが書かれている度に検索して聴き、それを聴きながら読書を進めた。村上春樹の独特な世界観という従来の感想を超える世界がそこには待っている。

不思議な世界観と、ドキドキなスリラー、シニカルな笑いを体験したい方にはおすすめの作品。ぜひ秋の終わりにゆっくりと味わっていただきたい。

ここまで読んでいただき、心から感謝いたします。ありがとうございます。

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