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未来は常に過去を変えている。小説・映画「マチネの終わりに」が懐古主義者の胸をえぐるワケ


唐突ですが、ここ最近、私の中でクラシック音楽ブームが来ている。

いわゆるベートーベンとか、バッハとかモーツァルトとかその辺りのザ・王道クラシックではない。(一時期のだめカンタービレにはまっていた当時はこの辺にも手を出したことがあるけれど。笑)

そんな私に唐突にクラシック音楽ブームが訪れたきっかけは、映画「ベンジャミンバトン」で流れた、あの音楽だった。

Bethenaというタイトルの曲。ベンジャミンバトンで流れると、パブロフの犬かの如く、涙が出てきてしまう謎現象に毎度見舞われる。


どこで聞いたかわからない、でも空で最初から最後まで口ずさめて、口ずさむと懐かしさで泣きそうになって。

これがきっかけで、もともと好きだった映画サントラを色々あさり始めたのがきっかけだったクラシックブームのネタはこの辺までに。

そんな私にぐさっと突き刺さった作品が、「マチネの終わりに」


平野啓一郎さん原作による本作。
小説を読了後、本作の主人公、薪野と洋子にとって重要な役割を果たす、幸福の硬貨という架空の映画作品であり、架空の曲が猛烈に気になり出した。


私が読了する頃には既に映画公開が終わっていて、作品がレンタルできたので、即レンタル。

音楽に意識を向かわせながら、ドキドキで鑑賞した。

音楽が小説の世界観をそのまま現実に作り上げていて、観賞後は全く言葉にならなかった…

作品の重要なメッセージもしっかり踏襲されていて、私にはとてつもなく重要な作品に。

主人公2人が出会うシーンで薪野のあるセリフが特徴的だ。

「人は、変えられるのは未来だけだと思い込んでいる。だけど、実際は、未来は常に過去を変えているんです。変えられるとも言えるし、変わってしまうとも言える。過去は、それくらい繊細で、感じやすいものじゃなですか?」 本作92頁より。

この台詞が私には衝撃的で、しばらくこのページを離れられなかった。

何故なら私にとっての過去は不動のもので、私自身、映画「ミッドナイトインパリ」の主人公が抱いているような懐古主義的な人間だからだ。

過去の思い出とか栄光とか諸々全てが私にとっては不動で、どこか美化して、神聖化して、現状の苦悩とかの逃げ道として過去を当てがっていた自分は常にまとわりついている。

これまで、これから先の未来をより良いものにしようと必死で見えない先の先に向かってレールを敷いて、なんかしらの指標を立てがちで、そんな感じで人生を走ってきた自分にはとんでもない衝撃的な出会いだった。

懐古主義的なニュアンスとは全く別物の、未来を作る行為の一環として過去も含めて人生を作るっていう作業を今後はしていきたいなぁと思わされた瞬間だった。


過去は不動のものじゃない。変えられるし、変わってしまうものでもある。今だけをがむしゃらに、未来に向かってただただ突っ走ってきたそんなこれまでの生き方を少し見直したくなった作品でした。



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