見出し画像

故郷を好きになった話

GWは帰省した。東京から故郷へ。そんなに近くはないので、いつもちょっとした旅行のように感じられる。

大学進学を機に上京した。中学生の頃には絶対に東京で暮らすと決めていた。どんなことでも頑張れた。
今は好きな仕事をしながら、趣味を楽しみながら、東京で生活ができている。あの頃の夢は叶っている。

子どもの頃はあまり明るい人生ではなかった。
意地悪な子、窮屈な世界、息が詰まりそうな場所、顔色を伺う日々……。学校にも家にも居場所がないように感じていたときもあった。

「早くここを抜け出したい、抜け出さなければ。ここにいたら、このまま人生が終わる」
子どもながらにそう思っていた。

そんなときでもなぜか前向きではあった。本やネットのおかげで外の世界を知っていたからだと思う。当時好きだった漫画の影響もあり、自分次第で未来は変えられると信じていた。

念願の上京。生活も環境も関わる人も、全てが変わっていく中で東京ならではの自由を感じながら過ごした。ずっと夢見ていた世界。
それなのに、苦しみはしばらく続いた。

いろいろな経験をして、今に至る。
今でも、昔を思い出すと心がどんよりしたり、胸がキュッとなったりすることはある。思い出したくもないことだってある。

でも、そんな思い出たちとの向き合い方が変わってきた。
「あんなこともあったなぁ」「あの経験があったから今の自分がいる」
ちゃんと「今」を生きられるようになった私が、思い出を懐かしく眺めている。

そりゃあ、あの頃に戻りたいほど楽しかった子ども時代を過ごせたのなら、それに越したことはないと思う。
でも、過去に戻りたいと1ミリも思わない私だから、今の私がいるんだと思うことにしている。

思い出したときに、鮮明な映像で再生されるうちは過去を生きているのかもしれない。セピア色とまではいかなくとも、「思い出色」みたいな、少し褪せたような色になったときに、少し遠くで再生されるようになったときに、それは過去になっているんだと思う。

ここまでたどり着くまでに時間がかかったけど、今は故郷が好きだなぁと思えるようになった。
東京で暮らさなかったら、「あの街の景色を綺麗だ」とか、「方言が結構好きだ」とか、思わなかったと思う。

あのとき東京に行くと決めた、まだ子どもだった自分に感謝している。
正解だよと言って抱きしめてあげたい。「正解」にできた自分のことも。

東京も好きだ。「ここに住む」と初めて自分で選んだ場所だから。

帰る場所があるのはありがたい。
そう思えるようになってうれしい。そういう場所があってうれしい。

「帰りたい」というのは、特別で、あたたかくて、少し切ない。そんな不思議な感情だ。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?