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プレゼント交換にイベント開催。KPOPファン同士の活発な交流と二次創作

前回はファン文化の中でも楽曲リリース時やライブでの楽しみ方に注目してみてきましたが、今回はKPOPファン同士の交流に焦点を当てていきます。

対談としては後編になっていますが、前編を読んでいなくてもお楽しみいただけます。

対談参加者

片瀬:文化社会学を勉強中のボカロP。音楽は好きだが、アイドルとは無縁の生活を送ってきた。

夕:片瀬がKPOPについてわからないことがある度に質問攻めにされているオタク。最愛のグループはDKB。

出会った人とちょっとしたプレゼントを贈り合うソンムルという文化

夕「ライブとかに行くと、ちょっとしたお菓子とかハンドメイドのストラップをお互い渡すことがあるんだよね」

片瀬「お菓子とかストラップってどういうの?」

夕「例えばグループのよく使う色とか、メンバーを表す動物の絵文字とかそういうものをあしらってみたり、(本当は著作権的にだめなんだけど)メンバーの画像を貼り付けてあるグミなんかを作ってプレゼントとしてお渡しする文化なんだけど」

片瀬「それはSNSの相互フォローの人にリアルで会ったら渡すってこと?」

夕「それもある。けど前後左右の席の人にも渡したりするよ」

片瀬「じゃあ普段繋がってる人とオフで会ったからというよりは、純粋に周りのファンの人と交換するんだね。大体みんなやってるの?」

夕「私は結構な確率で遭遇する。あとグッズ購入の列で隣に並んでる人が「これ余ってるんでよかったら!」っていうこともあるね」

片瀬「じゃあ結構現場ではコミュニケーションする機会があるんだ」

夕「うん。一人でいったとしても会話が生まれることが多いし、逆に一人で行ってもちょっと喋りたいからソンムル持ってくって話も聞く」

片瀬「確かにいつも同じイベントに行くような趣味の合う友達ってなかなかいないからね。ちなみにそれって男性でもやってる人いる?」

夕「出会ったことあるのはみんな女性かな。男性オタクにも一応普及はしてるんじゃないかな?ちゃんと繋がってる知り合いがいないからなんともいえないけど」

片瀬「なるほど。女性のファン同士が盛んにコミュニケーションをとってるっている研究は色々見るんだけど、男性ファン同士で手作りのものを贈り合うみたいな話はあんまり聞いたことがないから調べてみたら面白そうだね」

KPOP専用SNSの存在

夕「アイドルとファンが交流するツールとしてのSNSがあるんですよ。例えばWeverseみたいな」

片瀬「名前だけなら聴いたことあるかも」

夕「一番最初はNaverがやってた「me2day」っていうSNSがあって(*1)(2014年閉鎖)、それでアーティストとファンが交流してたんだけど、それがX(旧Twitter)やInstagramに移行していって」

片瀬「なるほど」

夕「それに加えてDaumが運営してる「Daum Cafe」の中にペンカフェっていうのが作られていって」

片瀬「ペンっていうのは韓国語でファンのことだよね」

夕「それは会員になるために個人情報を登録したり、ファンじゃないと分からないクイズに答えたうえで申請が通らないといけないから、本当にそのグループを推してる人だけが集まるカフェになってるね」

片瀬「カフェって言ってるけどインターネット上のサービスなんだよね?オープンチャットとか、Mixiのコミュニティみたいなものに近いのかな」

夕「アイドルの投稿を見てコメントすると本人から返信が来ることもあるし、ファン同士の交流もできるっていう感じかな。有名なSNSでいうとInstagramに近いのかも。ストーリーっぽいこともできるし」

片瀬「掲示板みたいなものではないんだね」

夕「掲示板もあるけど盛んではないかな。ファン同士で交流したいならInstagramとかX(旧Twitter)を選んでいて、ペンカフェはアイドルと交流することが大事」

片瀬「なるほど」

夕「アイドルもファンが多いってわかってるからちゃんと見てて、ファンの投稿とかコメントに結構返信くれたりするよね」

片瀬「そういえばWeverseってライブ配信もできるよね?」

夕「そうだね。あれはV LIVEっていう配信サービスを統合してできたんだけど、そのタイミングでファンが字幕つけられる機能がなくなって、アーカイブとかコメントも残らない仕様になっちゃったんだよね……。あの時コメントが拾われたみたいな些細な思い出が全部ね、消え去ったわけよ」

片瀬「KPOPファンには不評だったんだ……」

夕「そう。で、WeverseをやってないアイドルはインスタライブとかYouTubeライブに移動してる」

片瀬「ちょっと前までは韓国国内のプラットフォームが優勢だったけど、最近はグローバルなSNSが採用されるようになってるってことかな」

夕「大体はそうだけど、アーティストとファンの交流はまだ国内プラットフォームのほうが強いかな。ただX(旧Twitter)でもメンションパーティーっていって何時から何時まで誰々が返信するので公式あてにメンションして投稿してねっていうのをやってるみたい」

マスターさんとは誰のことなのか?

片瀬「マスターさんって呼ばれる、ファンの中でも影響力が大きい人がいるじゃない。あれは何をもってマスターっていうの?」

夕「説明するのは難しいんだけど、いっぱい現場に通ってきれいなお写真を撮ってる人って感じかな」

片瀬「あ、写真が大事なんだ」

夕「写真とか動画だね。現場にたくさん通っていて……ペンサってあるじゃないですか」

片瀬「ファンサイン会のことね」

夕「会場は小さいコンサートホールみたいなところになることが多くて、舞台の上にアイドルが座ってて、そこにファンがずらっと並んで流れていってサインしてもらうっていう形式になってる。その待機時間にカメラを構えて写真を撮ることができるんですよ」

片瀬「なるほど」

夕「時間に余裕を持った進行になってるから、暇になったメンバーがこっちにペンサしてくれるんだけど」

片瀬「ファンサービスのことですね」

夕「で、ファンが持ち込んだカチューシャみたいな小道具をつけてくださいっていうとつけてくれるの。そうやって撮った写真を高画質でインターネットに上げてくれるひとがマスターさんですね」

片瀬「なるほどね」

夕「あとは事務所の出勤とか退勤の様子を撮ったりする人もいるんだけど……」

片瀬「それはプライバシーの問題が出てきそうだけど大丈夫なの?」

夕「ストーカーみたいに私生活まで追いかけ回すようになってしまう悪質なファンのことをサセンっていうんだけど、出勤退勤を撮るのは半分差し掛かってるともいえるかな。空港とかコンサートの時に出待ちするのは他のエンタメでもよくあることだと思うけどね」

片瀬「固く禁止されてるわけじゃないし実際存在するけど、モラルの問題として良くないよねって意識も多少共有されてる感じかな」

夕「あと加工も自分たちでするわけですよ。それが上手な人も、マスターさんとしてどんどん有名になっていってフォロワーが増えていくかな」

片瀬「なるほど」

夕「で、今のマスターさんが活動してるプラットフォームは基本YouTubeとX(旧Twitter)だと思う。ただ、元は自分でファンページを作って管理してた人たちのことをペンカフェマスターって言ったらしくて」

片瀬「Daum Cafeみたいなやつのことか」

夕「システムは近いんだけど、それよりも前だからプラットフォームじゃなくてそれぞれウェブページを作ってた。それを管理してるのがマスターさん。そのマスターさんがペンカフェに写真をたくさんあげていたりして」

片瀬「マスターっていう言葉がだんだん写真と結び付けられるようになっていったんだ」

夕「今でも(Daum Cafeとかの?)ペンカフェの管理者は有志のファンだったりするよ(*2)」

片瀬「そうなんだ」

夕「特に事務所が中小だと、アルバム何枚以上買ったとか、イベント参加したとかを申請するとペンカフェの中で会員ランクみたいなのが上がっていくんだけど。そうすると、ランクが高い会員向けにサイン会の運営の手伝いの募集が出ていたりするんだよね。もちろん人手が足りない場合に限るけど」

片瀬「確かにファンはアイドルの活動に関われたら嬉しいし、事務所はスタッフを確保できるし、持ちつ持たれつな関係でやっていこうっていうのも戦略としてはありだよね」

夕「それでいうと、Daum CafeにアカウントがあるグループとWeverseにアカウントがあるグループでスタンスは結構違う。Weverseだけにしかアカウントがないグループは大手だけど、Daum Cafeにしかアカウントがないグループはそういうファンが運営に関わるようなことがまだあったりするよ。印象の話だけど、実際事務所の規模との関連はあると思う」

推しの誕生日を祝う「センイルカフェ」

夕「マスターさんが主催することの多いイベントとしてセンイルカフェっていうのがあって。センイルは誕生日のことなんだけど、それを祝う期間限定のカフェをやるんですよ」

片瀬「そうなんだ」

夕「マスターさんが撮った写真を飾ったり、写真が印刷されたラテとかマカロンみたいな飲食物を提供するんだよね」

片瀬「イベント用のカフェがあるってこと?」

夕「センイルカフェができますよっていうカフェ自体がある。自分でできるオタクはレンタルスペース借りてやることもあるみたい」

片瀬「飲食物を出すのは大変だからね、保健所の許可とかもあるだろうし」

夕「もちろん普通のカフェを貸し切ってもできるんだけど、センイルカフェができますよっていうところはメニューも相談すれば作ってくれる」

片瀬「あとカップホルダーをグッズとして出してたりもするよね?」

夕「そうですね」

片瀬「そういうものって少なからずお金が発生するわけじゃん。権利の問題はどうなってるの?」

夕「暗黙のルールとして、赤字をゼロにするために回収してるってことになってるんじゃないかな。」

片瀬「なるほど、同人活動と一緒ですね。販売じゃなくて有償頒布という扱いにしてるのかな」

夕「利益を上げてるらしいマスターさんも正直いるのよ。そういうのは一応黙認されてるみたい。ただ、コンサートの時はそういう著作物とか肖像を無断使用したものを持ち込むのはやめてくださいって明文化されてることが多いかな。とはいえみんな持ってくるんだけど」

片瀬「持ってくるんだ」

夕「正直持ってきてる」

片瀬「じゃあ大きく事務所とかアイドルの権利が侵されない限り、マスターの存在とかセンイルカフェみたいな文化は事務所にとって厳しい規制はしてないのかな」

夕「たまにマスターさんが撮った写真が、「橋本環奈の奇跡の一枚」みたいなノリですごい勢いでバズったりはするのよ。やっぱりこれだけ拡散されるのは、その人のファンじゃない人にまで届いてるんだなって思うこともあって。そういう効果を見込んで黙認してる印象はあるね」

片瀬「そうか。曲とかパフォーマンス見てだけじゃなくて、マスターさんの写真とか動画から新しいグループを知ることもあるんだね」


前回に引き続き、KPOPのファン文化に注目して話をしてきました。推しの活躍のために捧げられる努力もあれば、推しを抜きにしたファン同士の交流もあり、ファンの高い自主性と行動力によって活発で独特な文化が形成されています。今後の記事では、より個別の事象を深堀りしていければと思っていますのでご期待ください。

*1)2014年に閉鎖しており、現在はありません。

*2)Daum Cafeにはファンによる私設のペンカフェと、公式が開設しているファンクラブに近いペンカフェが存在するようです。
 吉光(2015)は、ファンカフェ(本記事ではペンカフェと表記)を「ファンが自分の好きなスターをボランティアで応援する組織である」と説明しています。また、2012年7月に行ったファンカフェのマスター2名への調査から、ファンカフェの会員から募金を募ってプレゼントや食事を差し入れする「サポート」を日程や人数などを所属事務所と相談して決めており、アイドル企画会社の機能を補う形で運営されていることを指摘しています。この研究から、事務所がコンテンツを供給しファンは受け取るのみという一方向的な関係ではなく、ファンもアイドルの活動にボランタリーに参画していく状況があり、ペンカフェについてもそのような運営がなされてきたと考えられます。
 なお、執筆時点では(2024年3月)SF9、THE BOYZ、IVEなどのグループのオフィシャルのペンカフェが存在しています。

参考文献
吉光正絵, 2015, 「韓国のポピュラー音楽と女性ファン ーK-POPアイドルのファン・カフェのマスター調査からー」,長崎県立大学国際情報学部研究紀要第16号,長崎県立大学,pp173-183 URL:http://reposit.sun.ac.jp/dspace/handle/10561/1206(2024年3月27日閲覧)

「#韓ドルオタクとボカロP」というシリーズで、KPOPの産業構造やファン文化に着目した全5回の対談を掲載してきました。興味を持った方はぜひマガジンをチェックしてみてください。

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