ラリー・カールトンのワールドツアー休止前ラスト来日に行ってきました
フュージョン界のレジェンドギタリストの一人であるラリー・カールトン。70代半ばを過ぎても精力的に活動を続け未だ健康な姿を見せていますが、だからこそ肉体的疲労の大きいワールドツアーは今回をもって休止することを決めたそうです(*1)。
今回のツアータイトルは「Salute Japan Tour~The Crusaders - Steely Dan - Fourplay~」。名前の通り、ラリーのこれまでのキャリアのうちサポートや正式メンバーとして参加したグループであるクルセイダーズ、スティーリー・ダン、フォープレイでの活動を中心に振り返るというコンセプトです。半生を追うだけでフュージョン史のいくらかが語れてしまいそうなのがすごいですね。
ここからは私が観に行った5月5日16:00公演の様子について書いていこうと思います。
会場のBillboard Live Tokyoにつくと、案内とともにB'zのTak Matsumoto名義の花がありました。到着したのは開始時間の30分ほど前でしたが、既に食事を楽しんでいる方が多く、ライブハウスでしか公演を観ない私にとっては新鮮な空間です。
見渡すと、さすがに私のような20代はほとんどいませんがRoom335をリアルタイムで聴いていたような世代の人ばかりというわけでもなく、綺麗でお洒落な格好をした40代くらいの夫婦が結構います。彼らもラリーが好きなギターキッズなのか、あるいはジャズライブに行くことが日常化しているのかは気になるところです。
開演10分ほど前になると、スタッフの方がギターを持って降りてきました。風貌がややラリーっぽいところがあり、本人登場の雰囲気が出て若干拍手が起こります。使用ギターはSireのシグネチャーモデルでした。最近の映像ではGibsonのES335よりこちらを使っていることが多いですが、実際メインギターとして活躍しているようですね。新品が10万円ほどで買えるリーズナブルなギターですが、その品質の確かさと楽器を選ばないほどの腕があるからこそ普段遣いに耐えうるのでしょう。
公演時間になり、放送の紹介とともにバンドメンバーが入場します。時にドレスコード付きの公演すらあるようなラグジュアリーな空間ですが、メンバーは皆シャツにジーンズのようなラフな格好です。それぞれ持ち場につくと、アイコンタクトをとり、大仰な演出もなく曲がはじまります。
2曲目は「Minute By Minute」。ドゥービー・ブラザーズのカバーです。落ち着いたクリーントーンの演奏のまま「Smiles And Smiles To Go」へ続きます。音源ではアコギの楽曲ですが、ライブで演奏するエレキバージョンも違った良さがあります。
3曲目は「Black Friday」。ついにスティーリー・ダン楽曲です。ラリーはジャズ・フュージョン系のプレイヤーではありますが、ブルース進行でソロを弾いているときが一番生き生きしている気がします。元気なドライブサウンドのソロが素晴らしかったです。
4曲目「Deep into It」を経て、次はクルセイダーズターンへ。あまりクルセイダーズ時代の楽曲を聴いたことはありませんでしたが、5曲目の「Soul Caravan」はとてもいい曲でした。そして、71年にクルセイダーズのレコーディングに参加し初めて録ったという「Put It Where You Want It」。ベースをつとめた息子のトラヴィス・カールトンのソロは、楽器は違えどメロディラインの美しさを大事にしている点でラリーと似たスタイルでした。
7曲目「10:00 PM」を挟み、8曲目はフォープレイの「Blues Force」。ラリーが「フォープレイのファンはいる?」と声を掛けると、3階席を中心に拍手が上がっていました。「私もだよ」と笑いながら返し、演奏をはじめます。
ライブもそろおろ終盤というところ、ここにきて再びスティーリー・ダン楽曲「Black Cow」を演奏します。あまりライブ映像で「Aja」の収録曲をやっている様子をみたことがなかったので、嬉しいイレギュラーです。まさか本人のプレイであの曲が聞けるとは思ってもいませんでした。
モア・スティーリー・ダンということで、10曲目は待望の「Kid Charlemen」です。会場はここまでで一番の盛り上がりを見せます。最近のソロやフォープレイの曲は知らなさそうな顔をしていた隣のおじさんたちが揃って湧いていて、これを聴いて育ったんだろうなというのが伝わってきました。この曲、ギターソロ以降ずっとリードプレイが続くのでやはりギターキッズにはたまりません。イントロのエレピフレーズもドライブしたギターで弾くとかっこいいロックになりますね。
そして、本編ラストはやはり「Room335」で締めくくります。長年演奏されてきて、Fourplay以降のクリーン主体の甘いアレンジもいくつか音源化されていますが、今回は最初の音源に忠実で、テンポだけでなくイントロのリードシンセまでしっかり再現していました。個人的にはSWR Big Bandとのコラボのソロのようなクリーンが好きだと思っていたのですが、抜けの良いドライブサウンドもアンサンブルの中で生き生きと輝いていて素晴らしく良かったです。
鳴り止まない拍手の中、アンコールで再びバンドはステージに帰ってきます。最後に演奏したのはフォープレイの「Bali Run」。オクターブ奏法を多用しいつものラリーとは違うタイプのプレイだと思ってましたが、調べてみるとまだラリー加入前のリー・リトナー時代の楽曲だそうです。
今回はサックス、トロンボーンも交えた豪華なバンドでの演奏でした。みな熟練のセッションプレイヤーなので、アイコンタクトでニュアンスを自在に変化させ、誰かがソロプレイでレイドバックしても皆心地いいグルーヴを乱さず、終始楽しそうに演奏していました。特にドラムのゲイリー・ノヴァックがジャズの繊細さもロックの力強さも持ち合わせた最高のドラマーで、これを機に参加作品をチェックしていこうと思います。
私にとってラリー・カールトンは最も尊敬するギタリストで、生のプレイを観たいと常々思っていましたが、同時にBillboard Liveは大学生にとって敷居が高く、いくつかの公演を見送ってきました。しかし、次の来日があるのかわからないということで勢いでチケットを予約。結果ラリーのファンとしても、スティーリー・ダン好きとしても最高のライブで大満足でした。しかし、同時にソロ曲では今回やらなかったけれど生で観たいものも多く……。具体的にいえば、Nite Crawlerも生で聴きたい……!ということで、この先また来日があれば迷わず行こうと思います。音楽活動自体をやめてしまうわけではなく、無理のない範囲で公演や制作は続けていくそうなので、今後も楽しみにしています。
セットリスト
Minute By Minute
Smiles And Smiles To Go
Black Friday
Deep into It
Soul Caravan
Put It Where You Want It
10:00 PM
Blues Force
Black Cow
Kid Charlemagne
Room335
Bali Run(アンコール)
(公式情報を転載しているわけではないので、誤りがあったらすみません)
*1)今回のツアーに関してのメールインタビューより Billboard Japan,2024,「<メールインタビュー>世界屈指の名ギタリスト=ラリー・カールトン フェアウェル公演を前にこれまでの軌跡を辿る」(2024年5月14日閲覧)
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