文化の読書会振り返り
2022年の文化の読書会に参加させて頂きました。
テーマ本は、
Cheese and Culture: A History of Cheese and its Place in Western Civilization
By Paul Kindstedt
日本語訳はこちら。
その際のノートがこちら。
学んだこと・研究に生かしたこと
今回は、振り返りとして、学んだこと・研究に生かしたことを書きたいと思います。
コモディティ・アプローチの意味
今回は「チーズ」という1つのコモディティの通史でした。
チーズ自体に詳しくなって、チーズを見る視点が変わるのと同時に、大きな歴史と小さな歴史を結ぶポイントとしても重要なアプローチの1つであることに気付きました。例えば、ギリシャ時代の交易や、ローマ時代の帝国への編入は世界史上の重要なテーマの1つですが、チーズという特定の産物の歴史を追うことで重要なテーマの具体例が見れました。これはコモディティ・アプローチの1つの意味だと思います。
また、そのために、彼がどのような文献を辿り、どのようにチーズを研究していったのか、その研究方法も含めて勉強になりました。
Unvoicedな女性史の研究材料
それから、私の最近の研究の関心テーマでもある「料理の分野から歴史上’Unvoiced’であった女性史を紐解く」ことがチーズを切り口に可能なのではないかと思いました。
識字率や記録の必要性の問題で、文献に書かれることが少ない女性は、歴史じ上’Unvoiced’であることが歴史学の課題になっています。
この本では、中世初期のアングロサクソン荘園でチーズ作りのプロとして働く農民の女性がいたり、搾乳やチーズ作りは女性の役割であったりしたことが書かれています。
従来歴史学がアプローチ出来ていなかった対象にアプローチするために、料理は最適な分野ですが、それをチーズという切り口を使って浮き上がらせており、もう少し深く掘って研究してみたいと思います。
文化と文明
ここで、ふと疑問に思ったことがあります。
「Cheese and culture」の訳が、なぜ「チーズと文明」なのか。
一般的には、cultureは「文化」、文明はCivilizationですよね。
文明Civilizationは、ラテン語のcivis(市民)からきており、市民化するとは、農業から解放されることです。
農耕技術の進歩などで余剰農作物が生産できるようになると、王、貴族、聖職者、学者、商人などは自分の食料を自分で育てる必要がなくなり、都市に暮らします。文明とは、このように生活水準の向上により、社会に市民が存在することのようです。
一方、Culture文化とは、ラテン語のcolere「耕すこと」からきています。
心を耕したり、その地の風土に対処法が生活に根付いて文化となった、という説から、その風土で発展ための知恵知見の集合体といえそうです。
こうしてみると、本書のチーズの歴史は文化なのではないかな、と思ったり。
それぞれのチーズは、その土地、その時代のコンテクストから生み出されているからです。ギリシャ・ローマ時代のチーズ、修道院のチーズ、イギリス・オランダのチーズ、現代の原産地呼称チーズに至るまで、その土地に生きた人の生活がチーズという産物の背景にあるからです。
Civilizationというと都市の方が上(進んでいて)、村の方が下(遅れている)というようなやや上から目線な見方なイメージもあります。
一方、私がこの本を読んで思ったことは、ボトムアップの知恵の蓄積です。
名もなき農民たちのチーズ作りの伝統、文字を持たない乳搾り女の知恵がチーズを作ってきました。なので、まさしく「文化」の本質がみれるのではないかな、と思いますし、こうしたボトムアップの文化主義は私がこれからさらに深めたい切り口の1つです。
半年間、どうも有難うございました
何よりも、毎回リラックスした雰囲気で刺激的な議論を頂いた「文化の読書会」のメンバーの先輩方に、混ぜていただき心より感謝申し上げます。
また次のテーマの文化の読書会も楽しみにしています!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?