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メタバースでイベントを開催したい!|【連載】メタバース・ビジネスの歩き方(第2回)

こんにちは。中央経済社note編集部会計実務担当です。
先週(4月12日)も、ソニーグループが人気オンラインゲーム「フォートナイト」を運営するエピックゲームズ社に追加出資をするというニュースが注目されるなど、メタバースの話題は事欠きません。追加出資の額は約1,250億円ということで・・・ウラヤマシイ。
さて、連載第2回目です。前回は、メタバースとは何か、メタバースがなぜ今注目されているのかを確認しました。そこでは、ブロックチェーン技術(具体的にはNFT)の活用により、メタバースと実体経済とのつながりがより強固になり、ECサイトの進化や「Play to Earn」型のブロックチェーンゲームなど、次々と新しいアイデアが生まれているようです。
では、この胎動しつつある「メタバース経済」の中で、企業はどのような取組みを行えばよいでしょうか。代表例としてメタバースを活用した〈イベントの開催〉が挙げられます。そこで、今回は、メタバースイベントの考え方・進め方について解説していただきました。

最近、メタバースに対して、「企業として活用する場合にはどのような取組みを行えばよいか 」という質問を多く受けるようになりました。
こうした質問に答えるためには、その企業がメタバースに何を期待するのかを明らかにする必要がありますが、そうはいってもやれることは限られており、まずはやってみたいという意気込みが先行するパターンが一般的です。

それでも、メタバースに取り組むという姿勢だけで、デジタル先進企業としての大きな広告・宣伝効果が見込めます。デジタルへの取組み姿勢が、社内外からの企業全般への評価に大きな影響を与える時代に、メタバースの活用は大変わかりやすく、企業イメージを向上させる可能性を秘めています。特に、業界初の試みなどを発表することができれば、デジタル先進企業としての地位向上が期待できるでしょう。

具体的なメタバースへの取組みの第一歩としては、イベントをメタバースで開催することで、まずはメタバースがどのようなものかを体験してみることがよいと考えています。
この点、アバターなどを活用したメタバース上のオンライン会議(バーチャル会議)のほうが取り入れやすいと考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、このバーチャル会議の難点は、既存のオンライン会議ではなぜダメなのかという問いに答えづらいところです。突き詰めても、バーチャル会議がよいか、既存のオンライン会議がよいか、趣味・好みの領域になってしまい、かえって社内の熱が冷めてしまうことが懸念されます。

また、クローズドなオンライン会議より、オープンなイベントのほうが対外的な発信も容易に行えます。イベントには従来から広告宣伝費をかけているため、リアルで開催していたものをメタバースで行うこととしたとしても、新たに予算の承認が必要となることはなく、社内での説明も容易に行えるのではないかと思います。

イベント開催にかかるコストとは?

リアルイベント同等にコストがかかる

イベント開催のコストにはどのようなものがあるでしょうか。

メタバースでのイベント開催のコストは、どのようなプラットフォームを選ぶのかによって異なりますが、通常のオンラインイベントよりは間違いなくコストがかかります。どちらかというと、リアルのイベント開催と同じぐらいの感覚で考えたほうが近いのではないかと思います。

なぜなら、リアルイベントでブースを設営することと同じように、会場の利用料や、3Dのブース、キャラクターのイメージデザインといったクリエイティブにコストがかかります。
すでに出来上がっている空間やブースを借りるのであれば、初期コストは安くなりますが、オリジナリティを出していくためには自社のサイネージやメインキャラのアバターなどそれなりの創作物を準備する必要があります。

OpenWorldか箱庭か

メタバース上でイベントを行う場合には、目的によって誰もが自由に入れるOpenWorldの中にブースを構えて不特定多数の人に大勢集まってもらえるようにする場合と、あえて人数を絞って限られた人しか入れないようにするいわば箱庭的に開催する場合の大きく2通りの考え方があります。

OpenWorldのように大きな空間では、大勢がライブに参加するとか、物販を行うなど、どちらかというとショッピングモールの中のポップアップストアやステージといったイメージが強く、多くの人が回遊している場所では効果が期待できますが、どのぐらいの来客があるかは未知数であることと、昨今のメタバースブームでも実際に同時に同じ空間に人が集まるのは少ないことから、成功することは難しいと思います。
自前で開催するイベントであるからには、参加できる人を限定し、少ない人数であってもしっかりとした対応ができる形式をとることをおすすめします。

プラットフォームの選定を行う際にも、上記のような要件が実現できるのかを見極めて選定していく必要があります。

集客が命

また、集客における手間は今までとあまり変わりません。言うまでもなく、イベントの成否は集客にかかっていますので、マーケティングにはじっくりと時間と工数を割くことが必要です。

しかし、想定している参加者数を何人程度とするのか、どのような人を集めるのか、ターゲットの設定が重要になってきます。単にメタバースでイベントを行うというだけで人が集まることはもはや期待できません。自社の顧客リストの中から関心が高そうな人を厳選して効果的なアプローチを行う、またはイベントのターゲットの特性を鑑みたうえで、必要な媒体やチャネルを選び、タイミングよく広告を打っていくことが求められます。

イベントの内容はどうする?

イベントの中身についても、メタバースならではのアイデアや工夫が求められています。たとえば、会場に驚くような精緻な建造物を準備する、かわいらしいアバターや衣装の組み合わせを多数用意して参加者が持って帰れるようにする、参加者全員でアバターを使って共同作業を行う、参加者同士が気軽にコミュニケーションできる合図を決める、など、リアルイベントよりも自由度が高い分、今まで以上に企画力が求められます。

また、商品やサービスをプレゼンテーションする場合にも、映像をたくさん取り入れて生産した人の顔や生産状況を紹介することもできますし、3Dオブジェクトにして参加者に触ってもらう、色やサイズをその場で切り替えたり、様々な角度から商品を紹介するなど、メタバース空間だからこそできる表現を考える必要があります。

イベントの期間はどう設定する?

イベントの期間設定も非常に重要な要素となります。

人を大勢集めるためには、期間を限定したほうが効果的です。一方で、人数を絞って対応する必要がある場合には、1人ひとりに手厚いサポートができるように、期間は長めに設定して、細く長く行う体制を整える必要があります。

リアルイベントのように受付や誘導などの人は必要ありませんが、イベント全体を通じユーザーの多種多様な要望に対応をする窓口や人員をあらかじめ配置しておき、操作説明などはマニュアル化しておくことで、細やかで迅速な対応を行う必要があります。

そうしたユーザー対応の巧拙がイベントの参加者の満足度に与える影響はリアルイベント以上に大きく、特にSNSでの評判がすべてを左右しますので、運営全般において高度なネットリテラシーを備えた人材が対応方法全体を取り仕切ることが求められます。

撤収するまでがイベント・・・え、撤収しないの?

上述のとおり、イベントを開催するために、会場の装飾品や3Dのブース、キャラクターなど、ある程度のコストをかけて製作したものがありますので、イベント終了時には、やはりしばらく展示しておきたいという欲求も芽生えます。

リアルイベントの場合は、会場の費用がとても高価であることや、展示の一部だけを継続するようなことが会場の予定からやりにくいため、制作したブースの取り壊しなどが発生しますが、メタバース上であれば、別の場所にブースを移動させることがリアルイベントより遥かに簡単であるため、そのまま移設し、展示を継続することも可能です。

そうなると次のステップとしては、個別ショールームのような場所をメタバース内に常設して、今後イベントを実施する際にも同じ場所を活用できるようにし、将来的にはユーザーがいつでも訪問できるようにするといったことも考えられます。

結果としては「メタバースの中に出店する」ということになりますが、最初から出店ありきで計画するよりも、イベントである程度のユーザーへの認知度を確保して、そのまま継続的なつながりを作っていくことで、新規出店のリスクを軽減することが可能になります。

筆者作成。

イベントが終わってから考えるべきこと

ここまでのイベントの流れをひと通り体験することで、初めて、自社がメタバースに求める要望とは何なのかを具体的に考えることができるようになります。たとえば、新たな顧客を開拓したいのか、既存顧客とのつながりを強化したいのか、商品やサービスを紹介したいのか、売りたいのかといったことです。この自社がメタバースに求める要望のパターンによって顧客に提供していくべき機能が異なってくることに注意が必要となります。

ほとんどの場合は自社の商品・サービスをまずは知ってもらうことから始めると思いますが、果たして既存の商材をそのままメタバースの中で紹介することにどれだけの意味があるでしょうか。私は、ECサイトで提供しているものをそのまま持ってくるだけではあまり意味がないのではないかと考えています。

メタバースで提供することが向いている商材は、物流を必要としないものであり、具体的には、金融商品、エンターテインメントなどのコンテンツ、優待券などの権利商品が想定されますが、自社の提供できる商品やサービスの中で何がメタバースに向いているのかを今一度考える必要があります。

同時に、既存の商品やサービスとどのような相乗効果が期待できるのかを考えることも必要です。Virtual to Real という言葉も生まれていますが、メタバース内のNFTと同じものをリアルでもセットで購入してもらったり、対応するデバイスを高値で販売するというやり方もあります。メタバース内でもNFTがいつまでも売れ残ったり、スペースに人が集まらないことも増えています。新しい市場として捉えるよりも、リアルの市場との相乗効果を狙ってうまく活用するような戦略が求められています。

著者略歴

東海林 正賢(しょうじ・まさより)
Jazzy Business Consulting株式会社 代表取締役
一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会 代表理事

新卒で外資系システムサービス会社へ入社し、新規事業開拓を担当。2015年にコンサルティング会社に転職。フィンテックに関する専門組織を立ち上げ、統括パートナーとして組織をリード。2021年に一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会を立ち上げ、代表理事に就任(現任)。2022年に独立し、Jazzy Business Consulting株式会社を立ち上げ、代表取締役に就任(現任)。

バックナンバー

第1回 メタバースが経済をつくる

第3回はこちら

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