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1歳の娘が入院。父親として付き添った記者が見えたこと【後編】

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付き添いは義務か

 そもそも保護者による付き添いは、義務ではないそうだ。厚生労働省によると、公的医療保険で病院に支払われる「入院基本料」には、子どもの世話にかかる人件費も含まれる。だから、付き添いは本来は不要。医師の許可によって認められるものとされる。しかし多くの病院で、保護者の付き添いが実質、子どもの入院の条件となっている。看護現場の人手不足などが背景にあるようだ。

術後の娘。点滴などの管が寝返りのたびに体に絡んだ


 長女のケースでも、「手術のために入院が必要」と最初に伝えられた1年前の段階から、「付き添いが欠かせない」との説明を受けていた。私か、育休中の妻、どちらが付き添うとしても、長男(9)、次男(3)の育児もあるため、私は仕事を休まざるを得ない。入院は2週間ほど。「そんなに休んで大丈夫だろうか」と、夫婦で思い悩んだ。幸い会社、職場の理解があり、快く受け入れてもらえたため、気兼ねせずに済んだが。
 一方、入院直前の手続きで、付き添いの許可を求める申請書の提出が必要だった。夫婦で複雑な心境になった。

父親が少ない

 実際に付き添いを体験し、気付いたことがある。それは父親(男性)の少なさだ。入院中、私以外に付き添いの父親を見掛けたのは2人だけ。ほとんどが母親だった。
 このことは、私にとってマイナスに働いた。

 入院先は患者2人の相部屋で、私たちと同室になった子どもの付き添いは、やはり母親だった。病室にトイレがあったが、私は使うのをためらった。同室の女性に対して申し訳なく感じたからだ(別に恥ずかしかったわけではない)。長女の点滴の管が抜けたときは、病室ではなく、病棟の共用トイレに行ったときだった。途中で運良く個室が空いたので、移らせてもらった。
 一般病棟なら通常、相部屋の場合は、患者の性別によって分かれている。しかし、私が入院した病院では、小児病棟にはその区別がなかった。付き添い者の性別によって分けられているわけでもない。父親の付き添いがもっと多ければ、相部屋の組み合わせを男女に分ける余地が出るかもしれないが、圧倒的に少ない状況では難しいのかもしれない。

 それぞれの家庭にそれぞれの事情があって、誰が付き添うかを決めるのだろう。わが家の場合、私に決まったのは次のような理由からだ。
自宅で長男と次男の世話をすることに、現状では育休中の妻の方が慣れている。
一方で、入院の付き添いには、妻も私も不慣れ。
それなら不慣れなことをするのは片方だけでよいのではないか。

 実際、男性の方が向いていると思える場面がいくつかあった。例えば、ベッドの柵の上げ下ろし。子どもの世話をするため、状況に応じて高さを変える必要があったが、スチール製でなかなか重い。時には長女を抱えたままで、片手しか動かせない場合があり、力のいる作業だった。

 しかし、社会ではまだ「育児の主体は母親」という考えが根強い。そこから「子どもの入院に付き添う(あるいは、そのため仕事を休む)のも母親」という発想につながっているのかもしれない。
 長女を連れて夫婦で入院の説明を受けたときも、病院の担当者の大半が準備物や心得について、まず「お母さん」と妻に話しかけていた。私は戸惑い、妻は憤慨していた。

 と言いながら、わが家だって、育休を長く取っているのは妻だ。加えて私は当初、入院の付き添いで仕事を休むことにためらいを感じていた。体裁を気にしていたのだ。個々の家庭の事情を超え、社会全体で考えるべき問題なのかもしれない。

これがあれば便利かも

 私の体験から、入院の付き添いにあると役立ちそうなものを紹介したい。

★ポリプロピレン(PP)製の袋

 子どもの状況によっては、ほんのわずかな時間でもそばを離れることが難しい(実際、私は少し離れて失敗した)。乳幼児の場合、使用済みの紙おむつは病棟の決められた場所に自分で捨てに行く必要があったが、それさえためらわれる時がある。するといったん、病室に保管し、タイミングを見計らって捨てに行くことになる。その際、臭いを通しにくいポリプロピレン(PP)製の袋があると便利だろう。ちなみに食パンやスナック菓子の袋にPP製が多い。

★小さな敷物

 病室は当然ながら、ベッドの上以外は土足。着替える場所がない。小さな敷物や古新聞、広告があれば、それを広げた上で靴を脱げる。病室では荷物を置く場所も限られるが、ベッドの下には案外スペースがある。そこへかばんなどを置く際にも使えそうだ。子どもをベッドに座らせて食事を食べさせることもあり、敷いておけば食べこぼしで寝床が汚れるのを防げる。私はもちろん古新聞を使った。汚れたら捨てられる利点がある。ただし、インクで黒くなることがあるので、特に文字の多いページの利用にはご注意を。

★ベビーカー

 荷物にはなったが、ベビーカーを持参したのは正解だった。病院食の食器の返却場所が遠いとき、点滴などが外れた後は、長女をベビーカーに乗せて一緒に動いた。長女は病棟の外には出られないものの、廊下を行き来するだけでも気分転換になっているようだった。

★育児記録アプリ

 育児記録アプリは、入院中の長女の様子を、妻とほぼリアルタイムで共有するのに役立った。食事を食べた量や体温などを看護師に尋ねられた際にも、手早く答えることができた。

何を着るか

 最後に個人的に悩んだことを一つ。それは、私はいったい何を着るべきか、だ。
 入院患者である長女には、パジャマやそれに近いTシャツなどを用意して持っていった。しかし患者ではない私は、付き添いの間、何を着ているのが一番ふさわしいのだろうか。パジャマではちょっと変だ。かといって、かしこまった格好なのも違う気がする。
 結局、部屋着より少し格好をつけた服装を選んだ。ただ入院中は別の問題が発生。寝る時に私は寝間着に着替えるべきか、だ。

入院の付き添いで着た服

 先に紹介したように入浴時間が不規則で、そもそも風呂上がりに着替えるという選択肢は持ちにくい。寝ていても、長女に何かあれば、看護師に病室まで来てもらう必要があり、パジャマだと何だか気まずそうだ。いつの間にか、その日着た服のまま寝て、朝起きたら着替えるというリズムになっていた。

 そして病院内は意外に暑い。患者たちが寝間着姿で過ごしていることを考えれば当然かもしれない。だから私も、ハーフパンツで過ごす日があった。入院していたのは、この冬一番の寒気が迫っていた時期。病院の売店に食料を買いに行った私の姿は、外来患者たちも行き交う中で、相当浮いていた。

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