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1歳の娘が入院。父親として付き添った記者が見えたこと【前編】

 1歳すぎの長女の入院に昨年12月中旬、父親として付き添いました。命にかかわるものではありませんが、発達上、必要な手術を受けるため、広島県内の病院に9日ほど泊まり込み、幼い娘と2人で過ごすことに。新型コロナウイルスの感染防止のため、妻と交代はできないので「病院に缶詰め」状態でした。それなりに情報収集して臨んだものの、想定外のことや新たな気付きもありました。体験の一例として紹介します。(畑山尚史)

気が抜けない

 中国新聞の以前の記事に、病院での子どもの付き添いを「連続勤務」と例える経験者の話があった。でも「そうはいっても自分は患者じゃない。暇な時間もあるだろう」と高をくくり、買ったままだった本でも読んでやろうと考えていた。甘かった

 9日間の入院中は基本的に、長女から目を離すことができなかった。特に術後は、点滴や採尿の管がつながり、長女は病室から出られない。患部の痛みからか眠りが浅く、数十分ごとに起きては泣くの繰り返しで寝返りも激しい。見守る私は、管が外れはしないかと、一層気が抜けなかった。
 実は1度、どうしても便意を我慢できず、「少しだけなら」と、娘を病室に残してトイレに行ったことがあった。戻ると、点滴の管が抜け、血液が逆流。ベッドのシーツが真っ赤になっていた。慌てて、看護師を呼び、事なきを得たが、肝を冷やした。看護師には、真相を打ち明けられなかった。

ゆとりがない

 一方で、私が1人で行動しなければいけない場面があった。その一つが入浴だ。その間は、病棟に詰めている保育士にお願いして長女を見ていてもらう。
 入浴は、病棟に1カ所の浴室を予約して利用する。浴室の空き時間と、保育士に頼める時間を合わせる必要があり、時間はばらばら。時には朝風呂をいただくこともあった。

 いざ入浴となると、持ち時間は20分。もともと長風呂ではない上、使えるのはシャワーだけなので「余裕」と思っていたが、そんなことはなかった。次の利用者のために、浴室の掃除も時間内に終えなければならなかったのだ! そうなると20分でも心もとない。シャワーをさっさと済ませ、壁や床の泡や汚れを流し、排水溝にたまった自分の髪などを取り除く。自分の体より浴室をきれいにする時間の方が長いくらいだった。
 気後れした私は正直、入浴の機会を2回ほど逃した。冬でよかった。
 長女のそばから離れられず、1人で動くときは慌ただしい。時計とにらめっこだ。この状況は、思った以上に精神的にこたえた。

食料がない

 入院患者である長女に病院食が出るが、付き添いの保護者には出なかった。自分で買ってくるなどして調達しなければならなかった。
 買いに行く場合、利用できるのは院内の売店だけ。その日に食べる分だけではなく、翌日の朝や昼までのものを確保する必要があった。もちろんその間も保育士に子どもを見てもらう。保育士の予定があるので、弁当などを選びながらも落ち着かなかった。
 野菜不足や栄養の偏りも気になった。結局、生で食べられるキャベツやゆで卵などを妻に病院まで届けてもらい、買い出しをできるだけ減らしてやりくりした。

場所がない

 私が事前に目にした経験談の中には、子どものベッドで夜、添い寝するつらさを語ったものがいくつかあった。付き添い者が寝る場所が病室にないためだ。
 この点、私はさほどの苦を感じなかった。どこでも寝られるという性格が幸いした。それに、長女が入院した病院のベッドは、私が横になっても十分なほどの大きさだった。

 一方で、病室自体は窮屈に感じた。基本的に患者が1人で過ごすことを想定した造りなのではないだろうか。今回は2人の相部屋と個室を経験したが、どちらも自分たちのスペースは、ベッドとその両脇に椅子1脚分の幅があるだけ。そこが付き添い者である私の「居住空間」になった。乳幼児向けのベッドには転落防止のために床から130㌢の高さまで格子上の柵があって、狭さが際立って感じた。なかなか「リラックス」というわけにはいかなかった。

面会できない

 長女が入院した病院も感染防止のため、面会禁止となっていた。付き添いの交代もできなかった。ただ、患者と付き添い者以外は病室に入れないということで、洗濯物などの荷物の受け渡しは、病棟の入り口付近ですることができた。キャベツなどは、そこで妻に届けてもらったものだ。

 共同通信が2021年9月末までに実施した全国の病院の抽出調査では、77%の病院が感染対策のため、付き添い者の交代を禁止するなどの制限を設けていた。また68%が面会を禁止としていた。
 もしコロナ禍がなかったらと考えてみる。面会に来た家族に長女を任せて、もう少しゆっくりと食料を買いに出たり、外食したりできたかもしれない。家族と付き添いを交代して、自宅でいったんリフレッシュすることもできただろう。
 とはいえ、付き添いに伴う保護者の負担が、根本的に解消されるわけではない。コロナ禍は、社会に以前からあった問題点を顕在化させたといわれる。子どもの入院への付き添いも、その一つなのだろう。

後編へ続く⇩⇩⇩