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【エッセイ】 ゲームに向いていない話

毎日、二時間近くかけて電車通勤している。
満員電車が苦手な人はつらく感じるかもしれないが、私が一番つらいのは車内の人口密度の高さよりも乗車中の過ごし方である。

暇だ。
電車に乗っていると車窓から興味深いお店を見つけても立ち寄ることはできないし、ちょっとコンビニで休憩するということもできない。
急行電車はただただ、目的の駅まで否応無しに私の体を運んでいくだけで、その間の私は何の自由も効かず空白の時間を過ごすしかない。

電車の車内で暇な理由・・・
それは、私がスマホゲームをやっていないからだ。
多分、私はゲームに向いていない。

学生時代、友人に勧められてスマホゲームを何個かインストールしてみた。
ガチャで当てた個性的なモンスターやキャラクターを使ってバトルしたり、アイテムを集めたりするというものだ。
最初の2日間くらいは熱中して楽しめた。
しかし、毎日ログインしないとアイテムが貰えないと知り
「いや、ゲームしたくない気分の日だってあるだろ!」とイラッとしてしまい、アンインストールした。

数年前、ニンテンドースイッチの「ゼルダの伝説」が流行った時、
当時大学生だった私は「おもしろそうだな!」と思って少ないバイト代を貯めてゲーム機本体とソフトを購入した。
その日は時間を忘れプレイに熱中し、気づいたら日が暮れて夜になっていた。
ふとカーテンの向こうに広がる暗闇に気づくと、急にお腹が空いてきた。

押し寄せる空腹感と同時に
「一日頑張ってプレイしてみたけど、別にゼルダ姫が助かろうが助からまいが、俺の人生にはなんの関係もないな!」となぜか急に冷めてしまい、
「ゼルダごめん!」と一人呟いて電源を消した。
そして一週間後にはゲーム機本体ごと売ってしまった。

そんな感じで私はゲームに向いていない。
多分、ファンタジーというものに感情移入できない寂しい人間なんだな。

私たちよりもずっと上の世代の人たちは
「ゲームは時間の無駄だ」というようなことを言う。
違う。ゲームに夢中になれる人は、ゲームをプレイすることで
「空白の時間」を「豊かな時間」に変換することができる人たちなのだろう。

それができない私は暇で手持ち無沙汰な時間を過ごしてしまう。
なんだか人生、損をしているような気分だ。

仕事が終わり、退勤中の電車内・・・
車内の人たちは皆、スマホの画面を眺めている。
吊り革を持って仁王立ちしているのは私だけだ。
みんなの輪に入ることができないような、私だけ浮いてしまっているような、そんなバツの悪い気持ちになる。
「あんまりキョロキョロしていると、変な人だと思われそうだな・・」
車窓の外を眺める。
右から左へと流れて行く住宅街。
その上では真っ赤な夕焼けが空を焦がしていた。
思わず私は目を細める・・・

車内の人たちは皆、依然としてスマホを眺めていた。
その時だけ私は、自分だけが得をしている気分だった。





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