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メダカの恋愛

今年、メダカを飼い始めた。

まあるい小さな水槽の中にメダカは全部で10匹いる。
揺らめく光を受けた水なかで小さなメダカが大きく見えたり、大きなメダカが小さく見えたりする。オスがメスにたいする異常な求愛の回数や、メスの奪い合いで血眼になってライバルを追いかけ回す姿、またメス同士の井戸端会議などの風景は、人間の村社会を再現しているようで、気がつけば4時間くらいみてしまい、首が痛くなっている。

なんのエンディングも迎えないそのメダカドラマをみつづけた甲斐あってか、
先日、見事にひとつのカップルが交尾を迎える瞬間を目撃した。
彼らは水草に隠れているつもりだったが甘い、私は回り込んで瞬きもおろそかに目を黒く光らせて待ち構えている。

そうともしらずメダカは、お互いがお互いのペースを尊重し合ってるみたいな数分のムーディーな時間を経て、さっと身を寄せ合い体を震わせた。メスはぶりぶりと卵を数個出して、オスはその間、甲斐甲斐しくメスを抱き寄せていた。しかしそれは束の間だった。オスはプイときびすを返し、まるで今のコトがなかったように他のメスのあとを追いかけ始めた。

メスはそのオスの姿に絶望の色を隠せず、おぇぇぇ!とひとり吐きそうになっていた。
そしてこちらをゆっくり向き空虚な目で私をみたかと思えば、信じた私が馬鹿だったと、繰り返し口の形で伝えてきたのだ。

私は、このようなことがメダカの社会でも常なのかと驚愕した。人間もメダカも、おそらく愛について学んでいるのだ。彼女は我が子となるその卵を、まだお尻につけたまま、これから守っていくわと覚悟しているようだった。



オスの求愛はメダカに詳しくない人でもすぐに見て取れるほどにわかりやすいもので、メスの前でくるりと円を描くように泳いで見せるのがそれだ。

「あ、またくるりした」と、その動きにいつも微笑ましくなるが、
それはきっと懸命な下心の現れだ。メスはだいたいいつもオスのくるりを無視し続けている。
本当に私のことを愛しているの?そうオスに聞きたいところだろうが、そんなこと聞くほど純情でいられないのが自然界の掟。

ただあんまり何度もまわるものだから、くらっと目が回ってじゃあ一度だけ、となってしまうだけだ。

今日もちいさい水槽の中でドラマは繰り返される。
メスメダカ、頑張ってほしい。


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