「こんばんは、俵孝太郎です」のもう一つの顔【しがらみなき先見性】

クラシック音楽を聴き始めて27年。その間に購入した数少ないガイド本で今なお手近に置くのが俵孝太郎『CDちょっと凝り屋の楽しみ方』(コスモの本)。

「俵孝太郎!?昔のニュースキャスターのこと?」と思われた方がいらっしゃるかもしれない。
まさしくフジテレビ系のニュース、日本テレビ系「マジカル頭脳パワー」、さらにコカ・コーラの透明版「タブクリア」のCMなど昭和後期から平成初頭のテレビでおなじみだった元産経新聞記者・政治評論家の俵孝太郎氏(1930-)、そのひとである。
実は俵氏の裏の(?)顔はクラシック音楽愛好家。
とりわけ「J-CLASSIC」という言葉が生まれる遥か以前から日本人作曲家・演奏家の音源の重要性を説き、自ら関係者向けの盤も含めて収集してきた。
タワーレコードのフリーマガジン「intoxicate」のコラム(現在のタイトルは「クラシックな人々」)を約四半世紀レギュラーで執筆している。
上記『CDちょっと凝り屋の楽しみ方』は30年近く前の本だが、村上春樹の小説で知名度の上がったシューベルトのピアノ・ソナタ第17番、21世紀に入って演奏や録音機会の増えているハンス・ロットの交響曲、近年再評価された信時潔の「海道東征」がサラッと登場。付されたCD番号以外の記述は色あせず、それどころか先見性に敬服する。
音楽評論家じゃないので業界事情への忖度がいらない立場なのと言葉のプロなので簡明率直、しかも引き出しの多い記述で折に触れてページをめくりたくなる。
絶版だがネットを使えば中古入手は容易なので少しクラシック音楽を深掘りしたい方はぜひ探して読んでみてほしい。一生の趣味への一ページが拓かれるはず。


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