ベトナム製造業の現状と課題-ベトナム人が日本で働く選択肢-
ベトナムの製造業は急速な発展を遂げていますが、その中にはさまざまな課題も存在します。部品調達の困難や電力不足などの問題があり、これらの課題は製造業の成長を阻害する要因となっています。一方で、こうした課題に直面する中、ベトナム人にとって日本での働く選択肢がますます注目されています。では、なぜベトナム人が日本での働きを選ぶのでしょうか?その理由を見ていきましょう。
ベトナム全体の経済動向
ベトナムは2019年まで、前年比約6%という高いGDP成長率を維持していました。しかし、2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大により成長率は一時的に2%台に低下しました。それでも、行動規制が緩和された2022年にはV字回復を遂げ、成長率は8.0%に達し、アジアの中でも際立った成長を見せました。
2024年4月23日に発表された世界銀行の最新半期経済報告「Taking Stock」によると、ベトナム経済は回復の兆しを見せており、成長率は2024年に5.5%に達し、2025年までに徐々に6.0%まで上昇すると予測されています。
また、国際通貨基金(IMF)のレポートによると、2023年におけるベトナムの国内総生産(GDP)は4333億USD(約64兆円)と推定されており、東南アジア全体で5位、世界で35位につけています。
さらに、2024年のGDP成長率予測では、アメリカが2.1% (Advisor Channel)、日本が0.9% (IMF)、中国が4.7% (Advisor Channel)となっており、この比較から、ベトナムの経済成長率がこれらの主要経済国よりも大幅に高いことがわかります。
実質GDP成長率(2022年)
ベトナムの製造業の状況
ベトナムの経済を支える主要産業の一つが製造業です。製造業はベトナムの経済成長において重要な役割を果たしており、同国のGDPに大きく寄与しています。特に、電子機器、衣料品、履物などの製造が強化され、輸出の主要な柱となっています。
ベトナム全体のGDP 25%を占める製造業
特に、電子機器、衣料品、履物などの製造が強化され、輸出の主要な柱となっています。2015年にはその比率が10.60%、2020年には16.69%と徐々に増加し、2021年、コロナ禍のため国内経済は大きなダメージを受けたものの、政府目標である25%を達成しました。(JETRO) マッキンゼーの報告によると、ベトナム政府は製造業の強化に向けた政策を積極的に推進しており、2024年には製造業が全体のGDPの30%を占める目標を掲げています。 (McKinsey & Company) 。
製造業の成長を支えるために、ベトナムはインフラの整備や外国直接投資(FDI)の誘致に力を入れています。2024年第一四半期には、製造業および建設業が前年同期比で6.28%成長し、製造業全体の成長を促進しました (Vietnam Briefing)。これにより、ベトナムの製造業は今後も引き続き経済成長の原動力となることが期待されています。
2021年末の時点で、ベトナム全国で稼働している企業857,551社のうち、製造関連会社は128,971社あり、約15%を占めています。
さらに、2022年8月に国家経済社会調査情報センターが発表した、ベトナムの大手民間企業トップ500社レポート(VPE500)に掲載された500社のうち、製造関連会社は266社で全体の53.2%を占めています。
2022年にはコロナ禍を乗り越え、輸出が拡大していましたが、ウクライナ紛争などの要因によってインフレが発生し、欧米からの需要が低迷しました。
そのため、仕事が減少し、職を失う製造業従事者も多くいました。しかし、現在、ベトナムの製造業は回復傾向にあります。製造業の発展によって、製造業界が海外から輸入する原材料や機械設備も年々増加しています。年間輸入額が最も多いのは「コンピューター、電子製品・部品」および「設備機械ツール・付属品」です。(JETRO)
ベトナムの製造業界が成長し続けている理由
ベトナムの製造業は以下の要因によって支えられています。
1.コスト競争力:
ベトナムは比較的低い人件費を誇っており、特に中国や他のアジア諸国と比べても競争力があります。具体的には、ベトナムの労働コストは中国の約半分であり、製造業者にとって魅力的な選択肢となっています 。(JETRO)
2.安定した経済成長:
ベトナムは近年、安定した経済成長を維持しており、2024年には成長率が5.5%に達し、2025年には6.0%に達すると予測されています (Vietnam Briefing)。この安定した成長は、製造業の発展を後押しする重要な要素です。
3.政府の支援:
ベトナム政府は、投資促進政策や税制優遇措置を通じて、積極的に外国直接投資(FDI)を誘致しています。例えば、Decree 57/2021/ND-CPなどの政策により、製造業者に対する税制優遇や支援が提供されています。 (MTA Vietnam)。計画投資省が27日午前に公表したデータによると、1月から5月までに110億7000万米ドルを超える外国直接投資(FDI)がベトナムに流入し、前年同期比2%増加しており、ベトナムへのFDI外国直接投資額が引き続き高い水準を維持しています。(Vietnam+)
4. 工業団地:
投資計画省(Ministry of Planning and Investment, MPI)の最新のデータによると、ホーチミン市には19箇所の工業団地があり、隣接するビンズン省には30箇所の工業団地が急成長中です。ビンズン省は多くの日系企業が進出するFDIの地域。ドンナイ省には31箇所の稼働中の工業団地があり、北部のバクニン省には15箇所の工業団地があります。北部では電子製品や半導体の生産が、南部では消費財や部品の生産が盛んです。これらの工業団地はベトナムの経済成長と製造業の発展に貢献しており、外国企業の投資により地域経済が活性化し、雇用が生まれています。
これらの要素が組み合わさり、ベトナムは製造業の拠点としてますます魅力的な場所となっています。製造業はベトナム経済の成長を牽引する主要なセクターであり、今後もその重要性は増していくことでしょう。
ベトナムの製造業の課題
急速な成長にも関わらず、ベトナムの製造業はいくつかの課題に直面しています。
部品調達率の低さと電力不足による停電や節電要請が挙げられます。2018年、ベトナムへの外国直接投資の55.9%は製造業に集中していますが、現地調達率は低く、特に地場企業からの調達は15.0%にとどまります(JETRO)。また、夏には北部で停電や節電要請が頻繁に起こり、製品や機械に損害を与える可能性があります。政府はこれらの課題に対処するために努力していますが、まだ解決に至っていません。
ロジスティクスの課題が存在します。国内のインフラや物流システムの整備が不十分であり、部品や製品の輸送に遅れや混乱が生じることがあります。
人材の質が問題となっています。豊富な労働力がある一方で、熟練労働者や専門知識を持つ人材の不足があります。教育の短さが背景にあります。
環境問題も深刻です。工業化の進展に伴い、環境汚染が進行しており、持続可能な発展が求められています。(IQAir)
これらの課題に加えて、自然災害や政治的な不安定などの外部要因によるリスクが製造業のサプライチェーンに影響を与える可能性があります。これにより生産の中断や遅延が生じることがあります。
自然災害や政治的な不安定など、外部要因によるリスクが製造業のサプライチェーンに影響を与える可能性があります。これにより生産の中断や遅延が生じることがあります。
ベトナム人が日本で働くという選択肢
ベトナム人が日本で働くという選択肢は、ベトナムの製造業に直面している課題によってますます魅力的になっています。ベトナムの製造業は部品調達率の低さや電力不足、ロジスティクスの課題、人材の質、そして環境問題といった多くの課題に直面しています。これらの問題はベトナム国内での雇用環境を不安定にし、結果として日本での労働が魅力的に映る理由となっています。
なぜベトナム人が日本で働くのか?
親日感情の高さ: ベトナム人の中には、日本に行きたい、働きたいと考える若者が多くいます。
高度な技術と研究機会: 日本は先進国であり、高度な技術や研究機会が豊富です。ここで学ぶことで、最新の技術や知識を取得できます。
高い教育水準: 日本には高い教育水準を持つ大学や研究機関が多くあります。これらで学ぶことで、ベトナムのエンジニアは専門的な知識を深めることができます。
国際的なネットワーク構築: 日本の産業界は国際的に競争力が高く、技術革新が進んでいます。日本で働くことで、国際的なネットワークを構築し、新しいプロジェクトやイノベーションに関与する機会が広がります。
技術移転と帰国後の貢献: 日本は多くの国際協力プロジェクトに参加しており、技術移転の一環として日本で学ぶことで、帰国後にベトナムの技術発展に寄与することができます。
異なる視点の獲得: 日本は独自の働き方や技術文化を持っています。これに触れることで、異なる視点を得られると考えるベトナムのエンジニアもいます。
これらの理由から、ベトナム人が日本での働きを選ぶケースが増えているのです。
まとめ
ベトナムの製造業は成長を続けていますが、依然として課題も多く存在します。そのため、ベトナム人が日本で働く選択肢は、ベトナムの製造業に直面している課題によってますます魅力的になっています。日本は技術力や研究機会が豊富であり、高い教育水準を持つ大学や研究機関が数多く存在します。ここで働くことで、ベトナムのエンジニアは専門的な知識を深め、国際的なネットワークを構築し、新しいプロジェクトやイノベーションに関与する機会を得ることができます。また、技術移転の一環として日本で学ぶことで、帰国後にベトナムの技術発展に貢献することも可能です。さらに、日本独自の働き方や技術文化に触れることで、異なる視点を得ることができます。これらの理由から、ベトナム人が日本での働きを選択するケースが増えているのです。
参考ページ:
株式会社国際協力銀行 - わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告-2023年度海外直接投資アンケート調査結果(第35回)
三菱総合研究所-日・ベトナム外交樹立50周年の期待と現実(前編)
岡山県ベトナムビジネスサポートデスクレポートVol.35 -ベトナムの電力事情について
JETRO-深刻化する人材確保の課題、多様な人事施策の検討がカギ(ベトナム)
JETRO-大型投資が続く電子産業、加工貿易からの構造転換には課題も(ベトナム)
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