唯一無二「とかちマッシュ」〈農業法人 鎌田きのこ株式会社〉
堆肥作りから収穫まで約2カ月!とかちマッシュ®ができるサイクル
始まりは、まさかの「だし用」?
現在、道内で商業ベースのマッシュルーム栽培を手掛けている産地は、ほとんどありません。過去、チャレンジに乗り出した市町村もありましたが、栽培が難しいことと、設備や管理にかかるコストが多大なため、軌道に乗せるのは困難だったよう。それだけハードルの高い独特なきのこの栽培に成功し、〝とかちマッシュ〟の名で全国に流通しているのが、帯広市川西町にある農業法人鎌田きのこ株式会社です。迎えてくれたのは、代表取締役の菊地博さんと、セールスマネージャーの船橋和仁さん。そもそもどうして、マッシュルームを作ることに?
「母体である本社・鎌田醤油株式会社は、香川県に200年以上続くしょうゆメーカーで〝北海道鮭節だし醤油〟の開発を機に、系列会社の北海道支店を設立しました。10年ほど前、新たなだし原料を作ることになったのですが、しいたけや舞茸を使ったしょうゆはすでにありましたし『北海道らしくない』と。それなら、地元で原料となるきのこを作ろうと白羽の矢が立ったのが、マッシュルームだったんです」。(菊地さん)
「マッシュルームは、難しいから面白い」と話す菊地さんと船橋さん
だし=マッシュルームという発想自体が新鮮ですが、何より、だし用にゼロから自社栽培を始めるという心意気に驚きます!菊地さんは前職からきのこ栽培の経験がありましたが、マッシュルームは初めて。「何でもトライしてみろ」という本社の先代社長に背中を押され、単身、生産量日本一を誇る千葉県の大手栽培メーカーに修業へ。本来なら絶対に、外に出さない〝秘密の塊〟のような技術を教えてもらえた理由は「皆さん、自社のマッシュルームに誇りを持っていて『もっともっと全国に広めたい』、『生のおいしさを知ってほしい』という熱い思いでバトンを渡してくれたのです」と菊地さん。期待が込められた貴重なバトンを手に、十勝での挑戦が始まりました。
栽培棟の内部。上段がホワイトで下段がブラウン。一度の培地で、3山(3回)収穫するのだそう。
フランス人シェフも認めた味!
きのこの栽培法は、種類によって異なります。大量生産されているきのこの多くは、容器に菌床などの培地を入れて育てるのが一般的ですが、マッシュルームは松茸やイタリアのポルチーニ茸などの高級きのこと同じく〝土から生えるきのこ〟。これらは人工栽培するのが難しいとされています。
「手探りの初年度から、何とか収穫にたどり着けたのは『奇跡の出会い』のおかげ」とおふたりは声を揃えます。次の出会いのどれが欠けても、とかちマッシュは生まれませんでした。
その1、世界唯一の〝ばんえい競馬〟の存在。マッシュルームのルーツにならい、フランスでは栽培に馬厩肥(馬の敷きわらで作る堆肥)が使われています。栽培に着手した同年、それまで全道で開催されていたばんえい競馬が、偶然にも帯広市での一括開催となり、大量のばん馬の敷きわらが手に入るようになりました。
その2は、十勝という土地。ヨーロッパと緯度が近く、冬はマイナス20℃を下回ります。マッシュルーム栽培に最適な寒冷な気候で、病害虫も寒さで死滅するため、農薬を使わずに育てることができます。
その3は、馬厩肥に地元産の麦わらが使える点。道外では手に入りにくく、稲わらを用いることが多いそうですが、十勝は国内有数の小麦産地。本場ヨーロッパに近い条件が揃っています。
収穫、計量などすべて手作業。手の熱や接触に反応するほど繊細なため、手袋着用で素早く進める。
十勝で初めて誕生したマッシュルームを、地元の飲食店やシェフにお披露目したところ「ヨーロッパに負けないクオリティ」、「道産のマッシュルームが味わえるとは」と称賛され、多くの人から「だしに使わず生で流通してほしい」と強い要望がありました。
「フランス人シェフから『自国のものよりおいしい』と言ってもらったことも。今では1年を通して、十勝管内100軒もの飲食店でとかちマッシュを使ってもらっています」。販売を担当する船橋さんは、胸を張ります。
約9割が水分。出来を左右する水にもこだわり、栽培には工場横を流れる清流・札内川の伏流水を使用。
新鮮な地元産が食せる、幸せ
これまで幻だった、北海道産のマッシュルーム。現在も2大ハードルである〝栽培の難しさ〟と〝コスト面〟について、聞いてみました。
「マッシュルームの菌はとても繊細で、特に培養段階はものすごく弱いんです。ピンが発生するまでは神頼み。毎朝、今でも神棚に手を合わせていますよ(笑)。栽培棟では温度、湿度、炭酸ガス濃度などを常に測定し、成長に合わせて環境を微調整しています。設備を整えるにも管理するにも費用がかかりますが、条件が揃わないと育ってくれないのです」。(菊地さん)
収穫後は、2℃の冷蔵庫で8時間以上予冷。しっかり冷やして仮死状態にすることで、品質と鮮度を保つ。
栽培における一番の敵は、人。矛盾しているようですが、人の体に付着した菌や虫が知らず知らず、病気の発生原因になることも。農薬は一切使っていないので、入れる場所と人を限定し、とにかくリスクを持ち込まないよう徹底的に予防に配慮しています。
スタートから10年ほどで生産量は3倍に。設備と人員を整えて、さらなる安定供給を目指す。
とかちマッシュが誕生する前、北海道で見かける生は、収穫からやや時間のたった本州産が主でした。マッシュルームは90%以上が水分で、収穫後も成長を続ける「足が早い食材」の一つ。本州産しかなかった時代は、北海道までの輸送に時間がかかり、おいしさの命である鮮度が損なわれることもしばしば。とれたての地元産マッシュルームが、気軽に購入できるようになったのは、ものすごく画期的なことです!他のきのこと比べると少し割高に感じるかもしれませんが、缶詰めとは違う、生ならではの心地良い食感と豊かなだし。唯一無二のおいしさを、試さない手はありません。
ブラウンは原種に近く風味豊か。ブラウンを改良したホワイトは、クセがなく食べやすい。
「今まで食べなじみのない方にも、品質と安全にこだわり十勝でマッシュルームが作られているということを、知って、味わっていただきたいですね」。作り手の方々から渡されたバトン、皆さん、ぜひ受け取ってください。
うま味とだしを生かすなら
マッシュルームの旨み成分は水溶性のため、水洗いせず味噌汁やポタージュなどの汁物にするのがおすすめ。表面の黒い付着物は、ピートモスの一部で体に害はありませんが、気になる人はふき取って調理を。突然変異で生まれる希少なジャンボマッシュ「ばんえいマッシュ」は、うま味もだしも規格外!(帯広競馬場内「とかちむら」で販売)
とかちマッシュは、全道のコープさっぽろの店舗でお求めいただけます。
★コープさっぽろの宅配システムトドックについて詳しくはこちら
スマートフォン・パソコンから簡単に宅配システム「トドック」の注文ができるECサイトが2020年12月にオープンしました!
取材・文・編集/青田美穂
撮影/石田理恵
デザイン/佐孝優