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読書:河童

芥川龍之介の晩年の代表作である河童を読んだ。芥川の没年と同じ年に作られたこの作品は、芥川の厭世的な思想が色濃く出ている。一見すると喜劇のような小説であるが、登場するキャラクターに河童が用いられているのも、河童の超現実的な生活や思想も自殺願望の現れと思いながら見ると印象が変わってくる。

概要
話は精神病患者である第二十三号がいつも話す内容の写しという設定で始まる。その患者は以前、穂高山を登る際に河童に出会った。その河童を追いかけて、やっとのことで触れた瞬間に深い闇に転んで落ちてしまう。気がつくと河童の世界に入り込んでしまい、しばらく河童の世界で暮らした話が綴られていく。河童の世界に戸惑いながらも順応していく二十三号はどのような経験をしていくのかを、奇妙ではありながら面白く書いた作品である。

感想
この作品は前述のように、超現実的な描写があり笑ってしまうような内容もある。厭世的になっていた芥川が現実逃避をするためにこのような超現実的な描写になったのではないかと感じた。河童の子供が産まれる場面や河童の世界の法律について語られる場面も、人が生活している世界とは異なった倫理観で成立しており、現実に対して懐疑的な側面も見受けられる。

この文章の中で特に印象に残ったのは、哲学者のマッグが書いた「阿呆の言葉」という本についての話である。ここの文章は河童の思想というより、芥川本人の思想を河童が代弁しているようであった。自分と他者との違い、欲望や罪のあり方、この世の不合理等々について語られるこの本は当時の社会に対するアンチテーゼそのものだ。

精神的にも衰弱していた芥川が残した作品から死の雰囲気も感じとられる。この作品を見た人は、芥川と同じ様に厭世的になるのではなく、そこから発展して生きていく選択をしてほしい。

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