フランス・季節の仕事~葡萄摘み②~
朝8時前、私達を乗せたトラックは、村を出ると広大な葡萄畑の中を走った。
ブルルン!
車が停車し、エンジンが止まった。
私達は次々にトラックの荷台から飛び降り、一斉にバケツや大きなキューブ型の樽を降ろすと、パトロン(オーナー)の周りに集まった。
パトロンが次々に従業員たちに支持を出し、私達(Les filles/ 同じ部屋のフランス人女性と私)はペアになってパトロンの指さした列に配置された。
葡萄の木一列に対して2人。木の表と裏に一人ずつだ。
ハサミで葡萄を切ったら、足元に置いたバケツにどんどん入れていく。
そのバケツがいっぱいになる頃に声を掛け、空のバケツをまわしてもらう…といった具合だ。
私達が摘む葡萄の木は、自分たちの身長より少し背が低いくらいだったので、比較的摘みやすいらしい。場所や品種によっては、低木のものもあり、かがんで摘まなくてはならない為、腰も痛くなり、大変だと聞いた。
パリに住む友人は、私がヴァンダンジュ(葡萄摘み)に行くと聞いて
「よく行くね、俺は絶対行きたくない!」
と言っていたが、パリジャン(パリっ子)だから行きたくないのかというと、そうでもなく、仕事仲間の中にはパリから来たという人達もいた。
――人生初、夢にまで見た葡萄摘み。
気付けば皆、パチパチとハサミで葡萄を摘み始めていた。
私は、どんな葡萄が摘んでよく、どんな葡萄が摘んではいけないのかを、よくわかっていなかった。
それで、ペアになった女性(Cさん)に聞いたり、心配して様子を見に来てくれたパトロンに尋ねたりしたのだった。
しわしわに乾燥しているのは、古くなって使えないと思いきや、それは太陽に当たって、甘みが一層強くなったものであり、とても美味しいのだとか。
腐っているものと、そうでないものの区別がいまいち判らなかった私に、
「判らなかったら味見しなさい。」
とパトロンが言った。
パチン、パチン!
摘んだ葡萄は、足元に用意していたバケツにどんどん入れていく。
2人で一つのバケツを使っているので、8分目になった時点で
「Un seau, SVP!!!(バケツお願いしま~す‼)」
と大声で叫ぶ。
すると、どこからともなく…いや、葡萄を大きな樽に集めている人たちが、空いたバケツを、まさに
”バケツリレー”で、どんどん回してくれるというわけだ。
…暫くすると、フランス人男性が
「おせーよ!」
と、私に言った。
何も解らず、「これはいいのかな?」
等といちいち考えながら切っていたのだから、本当に遅かったと思う。
私の心に、火が付いた瞬間だった。
その後、負けるもんかとムキになって切り始めると、午後には手が慣れてきて、少しはリズムよく切れるようになった。
…それにしても驚いたのは、フランス人達のスピードだ。
リヨンにいた時は、マックの従業員の遅さに、何度イラッとしたことか。
大してお客さんがいないのに10分や15分待たされるのは日常茶飯事だった。
日本のマックの店員さんは、素早い上に笑顔も0円だ。今こうして考えただけで、いつもありがとうと心から感謝の気持ちで一杯になる。
…そんな訳で、私は完全に
「フランス人は皆マイペースで、遅くても気にしない」
と、思い込んでいた。
今日は、その考えが覆された日だった。
皆、かなり仕事が速くて、効率的に動いていた。
私はそのスピードについていくのがやっと、というか、全然ついていけていなかった。それでも皆、話をしながら葡萄を摘んでいるのだから、凄い。
…
真剣に仕事をしていると、どっと疲れる。
昼は一旦家に戻り、外に大きなテーブルをいくつも繋げ、ランチタイム。
畑の葡萄から作った白ワインをお供に、スープ・肉・サラダにグラタン、デザート…次から次へと出てくる美味しい食事が、疲れた体に染みわたる…幸せなひと時。
こちらのオーナー夫人がふるまう料理は本当に本当に美味しかった!!
毎日こんな調子で料理が出てくるので、私の体重が増えるのは時間の問題だった。
仕事が終わったのは、夕方5時。
その後、仕事仲間に誘われて、皆で近くの美しい村へとサイクリング!
ベルギー出身の男性、若いメンズ3人とルームメイトの女性…これが私の人生初VTT(マウンテンバイク)だった。
背の低い私は、パトロンの親戚の息子が使っていた小さなものを借りた。
葡萄畑の広がる山道を、軽快なスピードで走り抜ける自転車たち…。
私は必死で皆の背中を追いかけた。
若いメンズは、私の後ろをゆっくり走ってくれた。
優しい青年たちだった。
近くの美しい村に着いた私達は、カフェのテラスに腰かけた。
ここはドイツも近いからか、珍しいビールがずらりと並んでいた。
仕事後のビールは旨い!
私達は気分よく外のテラスで飲み始めた。語学学校でいくら上級者のクラスにいようが、ここはおフランス。皆の会話が超・ハイスピードで、半分聞けていたかどうかという感じだったが、皆も気に掛けてくれて、たまにゆっくり話してくれたり、説明し直してくれて、雰囲気もとてもよく、その場にいて笑っているだけだったが、何だかとても楽しかったのだった。
それだけではない。
村から帰った私達を待っていたのは、アペロ(食前酒)。夕方のお庭で、皆で談話しながら飲みなおし…夜は更けていった。
その晩、ぐっすり眠れたのは、言うまでもない。
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